アルマ望遠鏡のトータルパワーGPU分光計の開発がアルマ評議会で承認

アルマ望遠鏡の中で日本が設計開発を担当したモリタアレイ(*)向けに新しい分光計を開発することが、2025年4月に開催されたアルマ評議会で承認されました。トータルパワーGPU分光計(TPGS)と呼ばれる、この新たな分光計の開発は、韓国天文宇宙科学研究院(Korea Astronomy and Space Science Institute: KASI)と国立天文台が協力して進めています。
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アルマ望遠鏡モリタアレイのアンテナ群 (クレジット: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

この新たな分光計は、広帯域感度アップグレード (WSU)と呼ばれるアルマ望遠鏡全体の性能向上プログラムへの東アジアからの大きな貢献の一つとなります。WSUでは、受信機の IF(Intermediate Frequency:中間周波数)帯域幅は少なくとも 2 倍に広がり、関連するエレクトロニクスと相関器、分光計もアップグレードされます。
TPGSの開発は、ACA分光計(2022年2月22日にファーストライト)の開発チームと同じチームが行います。ACA分光計は2023年10月のサイクル10から共同利用観測に提供されており、それにより開発チームは、今年、国立天文台長賞も受賞しています。KASIと国立天文台からなる同チームによるACA分光計の成功が、新たなTPGS の開発につながっています。そして、より高い能力を持つTPGSは、現在のACA分光計の後継機として期待されています。
KASI側のプロジェクト代表者であるジョンスー・キム氏は「TPGSは、最新のGPUを活用することにより、格段に高いデータ処理能力を持ちます。また、400GbE技術を活用して、デジタル化されたデータをアンテナから直接GPUメモリに送ることで、高速なデータ入力を可能にします。KASIと国立天文台の10年にわたる緊密な協力により開発したACA分光計向けのソフトウェアをTPGSプロジェクトにも再利用することで、迅速な開発が可能になります。これにより、帯域幅を現在の4倍に向上させ、より高い波長分解能も得られるため、WSUの要求を満たすことができます」と語っています。
開発チームはすでに2024年11月の概念設計審査とサブシステム要求審査を通過し、2026年に計画されている基本設計審査に向けて設計を進めています。現在のACA分光計と比べて、TPGSは10倍の入力データを処理できるように、また4倍の帯域幅と16倍の波長分解能を達成できるように設計されます。

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TPGS 公式ロゴ (クレジット: 清水上 誠)

(*)アルマ望遠鏡のアンテナ66台のうち16台が、日本が開発した「アタカマコンパクトアレイ」(Atacama Compact Array: ACA、愛称「モリタアレイ」)のアンテナです。ACAは12台の7mアンテナと4台の12mアンテナからなり、4台の12mアンテナはトータルパワーアレイとも呼ばれています。このACAは淡く広がった天体や宇宙の大規模構造からやってくる電波の強度(パワー)を精密に測定するのに適したアンテナ群です。
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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