アルマ望遠鏡、 129億年前の銀河から窒素と酸素の電波をとらえる

アルマ望遠鏡により、129億年前の銀河から窒素と酸素の電波を検出することに成功しました。国立天文台の但木謙一特任助教、東京大学の大学院生辻田旭慶氏、名古屋大学の田村陽一准教授らの研究チームは、アルマ望遠鏡を用いてうみへび座の方角にある銀河G09.83808を観測し、宇宙誕生9億年後に窒素や酸素が存在し、既に太陽系での存在比率の50-70%に達していると推定しました。

想像図

窒素と酸素の検出に成功した129億年前の銀河の想像図(クレジット:国立天文台)。手前の銀河(オレンジ色)の重力によって、背後にある129億年前の銀河が2つのアーク状の天体として観測されています。Credit: 国立天文台


 

地球の空気の約99%を占める窒素と酸素は、138億年前のビッグバン直後には存在せず、星内部での核融合反応によって作られました。ここで作られた窒素や酸素などのヘリウムより重い元素(重元素)は、星が寿命を終える時の爆発や星風によって星間空間に放出され、重元素を含んだガスからまた新たな星が生まれ、これを繰り返すことで宇宙に存在する重元素は時間と共に増えてきました。

同じ核融合反応でも、現在の宇宙に存在する窒素と酸素の起源は少し異なると考えられています。酸素は寿命の短い重い星で、宇宙誕生直後に存在していたヘリウムから作られるので、宇宙初期にすでに作られていたと期待されます。一方で窒素の多くは、比較的寿命の長い星で、炭素や酸素を含んだ一連の核融合反応の過程で作られるので、窒素は酸素より遅れて増えてきたと考えられます。従って129億年前の銀河から窒素を検出したことは、それよりさらに過去の宇宙で、すでに星の誕生と死のサイクルを繰り返し、重元素を作っていたことを示唆しています。

 様々な時代にある銀河を観測し、その銀河内にある重元素の存在量を調べることは、138億年の宇宙の歴史の中で銀河がどのように進化してきたのか理解する上で重要です。宇宙初期の銀河にある酸素から発せられる電波の検出が最近では多く報告されるようになりましたが、窒素に関してはその微弱な信号のせいで、ほとんど検出に成功していませんでした。
 

G09.83808

129億年前のG09.83808と呼ばれる銀河のアルマ望遠鏡の観測画像。手前の銀河の重力によって、2つのアーク状の天体として観測されています。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), HSC-SSP, 但木謙一/国立天文台


 

今回、世界最高感度のアルマ望遠鏡と重力レンズと呼ばれる自然の増幅効果を利用することで、129億年前の宇宙に存在している1つの銀河から、酸素と窒素、そして一酸化炭素と塵の電波も捉えることができました。アルマ望遠鏡の画像では、手前にある銀河の重力の影響を受けて2つのアーク状の天体に分かれて見えますが、これらは共に129億年前の1つの銀河です。酸素に対する窒素の電波強度が大きければ、それは星の誕生と死のサイクルを繰り返し、重元素が豊富に存在していることを意味しています。現在の宇宙にある銀河での経験則が129億年前の宇宙でも成り立つとすれば、観測された窒素と酸素の電波強度比は、太陽系での存在比率の50-70%ほどの重元素が129億年前の銀河にすでに存在していることを示唆しています。

今回観測した銀河は、太陽系のある天の川銀河より質量が大きく古い星が多い巨大楕円銀河の祖先だと考えられます。宇宙誕生直後の主に水素とヘリウムしか存在しなかった宇宙からわずか9億年の間に銀河はどのようにして重元素を増やしてきたのでしょうか?その答え、つまり窒素や酸素の起源を遡るためには、さらに過去の宇宙の銀河での窒素の検出が待ち望まれますが、これは今後のアルマ望遠鏡の観測によって明らかになっていくでしょう。

この研究成果は、Tadaki et al. “Detection of nitrogen and oxygen in a galaxy at the end of reionization”として、日本天文学会の発行する『Publications of the Astronomical Society of Japan (欧文研究報告)』に近く掲載されます。

また“ALMA observations of a submillimeter galaxy at z=6 I: Detection of nitrogen”として、2022年3月1日からオンライン開催される日本天文学会2022年春季年会にて発表されます。

NEW ARTICLES