2025.06.24
新たな超解像度画像解析で発見!星誕生直後の惑星形成の第一歩
我々が住む太陽系のような惑星系が形成された時期を明らかにすることは、生命の起源を探る旅の出発点となります。その鍵となるのが、惑星が誕生する現場である原始惑星系円盤内に見られる特徴的な構造です。原始惑星系円盤とは、若い星の周りに広がる低温の分子ガスと固体微粒子(塵)で構成されている円盤を指します。この円盤内に惑星が存在する場合、その重力によって円盤内の物質が集まったり、押し出されたりすることで円盤に円環状や螺旋状などの特徴的な構造が形成されます。このような形成中の惑星からの『メッセージ』とも言える特徴的な円盤構造を観測するには、アルマ望遠鏡による高い解像度の電波観測が必要になります。
アルマ望遠鏡を用いた原始惑星系円盤の観測は、これまで多く行われてきました。特に、アルマ望遠鏡大規模観測計画であるDSHARPとeDiskでは、高解像度の観測によって原始惑星系円盤に含まれる塵の分布の詳細を明らかにしました。DSHARPプロジェクトでは、星形成開始から100万年以上経過した20個の若い恒星の周りの原始惑星系円盤で、特徴的な構造が普遍的に存在することが明らかになりました。一方、eDiskプロジェクトで調べられた星形成開始から1-10万年程度の降着段階(星と円盤への質量降着が活発な段階)にある19個の若い星の周囲の円盤においては、はっきりとした構造がほとんど見られませんでした。このように、星の年齢(注釈)に応じて、原始惑星系円盤の特徴が異なることが示唆されています。
それでは、原始惑星系円盤において惑星の誕生を示唆するような特徴的な構造は、いつ現れるのでしょうか?これを明らかにするためには、これまで調べられていない中間にあたる幅広い年齢の原始惑星系円盤を観測することが必要です。しかし、高解像度で観測できる天体は距離や観測時間に制限があり、十分な統計的調査が困難でした。
研究チームは、スパースモデリングと呼ばれる「超解像度」画像復元法に注目しました。電波干渉計の画像作成では、データ欠損を補うため、ある仮定のもとに画像復元を行います。今回、採用した画像復元法では、従来の方法に比べてより適切に解くことで、同じデータを使用してもより高い解像度の画像を作成できるようになります。画像作成においては、日本の研究チームが開発した公開ソフトウェアPRIISM (Python module for Radio Interferometry Imaging with Sparse Modeling)を使用しました。既存のアルマ望遠鏡の公開データに対し、この新たな画像復元法を適用しました。観測対象は太陽系近傍 (460光年)にあるへびつかい座の星形成領域に分布する78個の原始惑星系円盤です。
解析によって得られた画像は、その半数以上で、従来の手法に比べて3倍以上の高解像度化に成功しました。これは、前述のDSHARPやeDiskプロジェクトで得られた画像と同等の高解像度となります(図1)。また、画像を作成した天体の総数は、同プロジェクトでの天体数のおよそ4倍と、大きくサンプル数を増やすことに成功しました。本研究で得られた78個の円盤画像の中で、27個の円盤で円環状や螺旋状の構造が見つかりました。このうち15個は、本研究で初めて特徴的な構造の存在が明らかになったものです。
研究チームは、今回得られた天体のデータと、eDiskプロジェクトで得られた天体のデータを組み合わせた統計解析を行いました。その結果、星が誕生してから数十万年の時期に、30天文単位以上の半径を持つ円盤で、特徴的な構造が出現し始めることが分かりました(図2)。つまり、惑星は、中心星周囲に分子ガスや塵が豊富に残っている、これまで信じられてきたよりも非常に若い段階ですでに形成しており、若い恒星と共に成長していくことを意味しています(図3)。研究チームの中心である所司さんは、「我々の結果は、これまでのeDiskとDSHARPプロジェクトの間を埋めるもので、新たな画像復元法により高い解像度と多数のサンプルの両立が可能になったことで、初めて得られた知見です。今回の研究はへびつかい座の円盤のみを対象としたものですが、今後、他の星形成領域と比較することで、このような傾向が普遍的なものかどうかが明らかになるでしょう。」と語ります。
(注釈) 星がどのくらい進化しているかを推定する目安として星周囲のボロメトリック温度が使われます。ボロメトリック温度とは、全波長における天体が放つ光の明るさから求められる見かけの温度です。温度が高くなればなるほど、進化が進んでおり、650 Kは中心星が形成されてから100万年程度、経過していると考えられています。
論文:
この研究成果は Ayumu Shoshi et al. “ALMA 2D super-resolution imaging survey of Ophiuchus Class I/flat spectrum/II disks. I. Discovery of new disk substructures”として、日本天文学会欧文研究報告論文に2025年4月22日付けで掲載されました(DOI: https://doi.org/10.1093/pasj/psaf026)。
共同研究者:
山口正行 (中央研究院天文及天文物理研究所), 武藤恭之 (工学院大学), 平野尚美 (中央研究院天文及天文物理研究所), 川邊良平 (総合研究大学院/国立天文台), 塚越崇 (足利大学), 町田正博 (九州大学)
謝辞:
本研究は、ASIAA Summer Student Program 2023の一環として実施されました。
アルマ望遠鏡について:
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

図1:従来の画像復元法とスパースモデリングを応用した新しい画像復元法によって得られた、へびつかい座の星形成領域に分布する原始惑星系円盤の画像。各パネルの、左下の楕円(だえん)のマークは解像度を表し、小さいほど解像度が高いことを意味している。右下の白線は30天文単位を表す目盛り。左列から右列へ、同じ列では上から下へ向かって、中心星の年齢は高くなっている。(Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), A. Shoshi et al.)

図2:本研究で得られた天体とeDiskプロジェクトで観測された天体のボロメトリック温度とダスト(塵)円盤半径の散布図。紫色、赤色、黄色のマーカーは特徴的な構造を持つ円盤、またはその候補天体を表している。ボロメトリック温度650Kは中心の星が誕生してから100万年程度経過した円盤を表しており、それよりも早い段階から特徴的な構造が現れたことを示唆している。(Credit: A. Shoshi et al.)

図3:中心星が誕生してから数十万年の時期に形成される原始惑星系円盤の特徴的な構造の想像図。 (Credit: Y. Nakamura, A. Shoshi et al.)