129億年前の超巨大ブラックホール付近の“熱いガス”を発見: 宇宙初期の隠されたブラックホール探査に新たな可能性

北海学園大学の但木謙一教授らの国際研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて129億光年彼方の超巨大ブラックホールを観測し、ブラックホール付近の熱いガスからの電波をこれまでにない高い解像度で捉えることに成功しました。今回成功した観測手法を超巨大ブラックホールの存在が知られていない天体に適用することで、宇宙初期の隠されたブラックホールを見つけることができると期待されます。
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図:アルマ望遠鏡の観測結果に基づく超巨大ブラックホールの想像図。中心にあるブラックホール付近から放たれるX線によって、周囲のガスが熱されている様子を描いています。このガスの円盤を横から観測すると、可視光線やX線では暗くなり、超巨大ブラックホールは隠されてしまいます。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Tadaki et al.

【宇宙初期の超巨大ブラックホールの観測】
研究チームは、129億年前の宇宙に存在し、太陽の10億倍を超えるような質量の超巨大ブラックホールを観測しました。クエーサーと呼ばれるこの天体は、超巨大ブラックホールに大量のガスやダストが落ち込む過程で発生する強烈なエネルギー放射によって非常に明るく輝きますが、その中心付近の様子を細かく知ることは難しいとされてきました。研究チームは、高いエネルギー状態にある一酸化炭素(CO)分子からの電波放射に着目し、超高解像度で観測することで、ブラックホール近傍数百光年という領域におけるガスの加熱状態を世界で初めて映し出すことに成功したのです 。

【何がガスを熱したのか?】
高いエネルギー状態にあるCO放射が強く検出されるためには、ガスが相当に高温である必要があります。星が誕生する領域では紫外線がガスを照らし出すことがしばしば観測されますが、今回観測されたガスの状態は若い星が放つ紫外線だけでは説明できません。そこで注目されたのが、超巨大ブラックホール近傍から放たれるX線です。ブラックホールを取り巻く降着円盤や、その上層にあるコロナと呼ばれる領域から放射される強烈なX線がガスを加熱し、通常の星形成領域では得られないほどの高いエネルギー状態に押し上げていると考えられます。また、クエーサーが放出する激しい風や衝撃波もガスを加熱している可能性があり、クエーサーの中心部は複数のメカニズムが入り混じる激しい環境であることが改めて浮き彫りになりました。

【隠された超巨大ブラックホール探査へ】
興味深いのは、このようなクエーサーが私たちの視線方向に偶然ガスや塵の薄い側を向いている場合には明るく観測できますが、もし塵が非常に濃い方角を向いていれば、可視光線やX線は塵に吸収されて我々には届かず、「隠された超巨大ブラックホール」になってしまう可能性があることです。つまり、私たちが知らないだけで、宇宙には塵に埋もれた多数の超巨大ブラックホールが潜んでいるかもしれません。アルマ望遠鏡で観測している電波は、塵による吸収を受けくいため、「隠された超巨大ブラックホール」の存在を探るための強力な手段となります。今後、同様の高いエネルギー状態にあるCO放射を用いた高解像度観測を広範に行うことで、宇宙初期における超巨大ブラックホールの普遍的な存在実態に迫ることができるでしょう。

この研究成果は、Ken-ichi Tadaki et al. “Warm Gas in the Vicinity of a Supermassive Black hole 13 Billion Years Ago”として、英科学誌「ネイチャー・アストロノミー」電子版に2025年3月7日付けで掲載されました(DOI: 10.1038/s41550-025-02505-x)。

研究チーム
但木謙一(北海学園大学)
Federico Esposito(ボローニャ大学)
Livia Vallini(イタリア国立天体物理学研究所)
津久井崇史(オーストラリア国立大学)
斉藤俊貴(静岡大学)
伊王野大介(国立天文台/総合研究大学院大学)
道山知成(周南公立大学)

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP 23K03466、23K20870)の支援を受けて行われました。

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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