銀河に重元素を供給し、紫外線放射で星間環境に影響を与える太陽の8倍以上の質量の恒星は、銀河の構造と進化を左右する重要な役割を果たします。にもかかわらず、原始星団中でこのような大質量星を生み出しているメカニズムは、数十年にわたって天文学者を悩ませています。従来の理論は、強い磁場に沿ってガスが流れ、星形成領域中に磁場に垂直な方向に連なる密度構造ができると示唆していました。実際に、大きなスケールで重力収縮している分子ガス雲やガス塊(クランプ)に対する初期の観測は、こうした磁場優位の描像を支持しています。しかし、実際に個々の恒星や星団が形成されているような小さな空間スケールまでこの「磁場制御」が及んでいるかは不明確でした。
この問いに答えるため、南京大学のJunhao Liu助教が率いる研究チームはアルマ望遠鏡を用いて大質量形成領域の磁場の大規模サーベイ観測を行いました。天の川銀河中の大質量星形成領域30か所の観測から、個別の恒星が生まれようとしている小さいスケールでは、だい質量星の「種」となる高密度ガスの凝集は、局所的な磁場に平行に伸びていることが、統計的な証拠として初めてわかりました。大局的なスケールとは全く逆の傾向です。研究チームが行った数値シミュレーションでは、こうした磁力線に沿った配向は、ガスの運動は超音速乱流によって支配され、整列した磁場の影響が著しくかき乱されている明確な兆候だと推測されます。さらに、磁場方向とガスの回転の間に乱流が引き起こしたと思われる不整合があり、そのことが大質量の原始星円盤を保持し、中心星に質量を共有して成長させることを可能にしていることも明らかになりました。
「星形成を支配するのは磁場か乱流か? それは宇宙における秩序と混沌の戦いです。大局的に見れば整列した磁場が巨大分子雲やガス塊の構造を支配していることは明確ですが、私たちの結果では、一つ一つの星やその集団を作る場面では、乱雑な乱流との戦いに負けているのです。」と、論文の筆頭著者であるLiu助教(元国立天文台研究員)は述べています。「この発見によって、大質量星団の形成に関する私たちの理解は、磁場に支配された整然とした過程からカオスに導かれたものへと転換を余儀なくされます。この研究は、観測的な謎を解くだけでなく、恒星の種を生み出し育てる物理的過程を詳しく理解するための新たな理論・シミュレーション研究の活性化につながるとよいと思います。」
アルマ望遠鏡によるサーベイ観測の筆頭研究者であるPatricio Sanhueza東京大学准教授は次のように語っています。「この研究は、従来の磁場制御星形成モデルに一石を投じました。アルマ望遠鏡だけが持つ高分解能・高解像度のコンビネーションで実現できたことです。新しい成果を生み出すには、数年にわたるデータ解析と大きな努力が必要でした。その先で、大質量星形成領域の小さな空間スケールで働いている物理を体系的に明らかにできました。小さいスケールでの磁場と乱流の振る舞いが、大きなスケールで観測されてきたものとは全く異なっていたとは、なんと面白いことでしょう。」
図1:アルマ望遠鏡によるサーベイ観測で撮影された大出量星形成領域の画像の一例。波長1.3mmで観測されたダスト(ちり)の放射の強度をカラーで表している。流線畳み込み法で可視化された磁場の方向を線で表示している。左下にはアルマ望遠鏡の合成ビームサイズを白い楕円で、右下には0.05パーセクの縮尺を示してある。(クレジット:Liu et al. (2026))
図2:分子ガス塊(クランプ)の全体および内部の磁場分布の想像図。1パーセクスケールでは、整列した磁場がガス塊を長軸に垂直な方向に貫いている(左)。一方、ガス塊に埋もれて高密度ガスが凝集している0.01パーセクスケールで見ると、磁場は極めて乱雑で、個々の凝集の長軸におよそ平行に走っている(右)。(クレジット: NAOJ)
この研究成果は、Junhao Liu et al. “The dominance of turbulence over magnetism in the formation of massive star cluster seeds” として Nature Astronomy誌に2026年5月22 日付で掲載されました。
DOI:
この研究には、世界の29の研究機関から35名の研究者が参加しています。日本からは自然科学研究機構国立天文台、東京大学、名古屋大学、京都大学、九州大学が、国際パートナーとして南京大学、中央研究院(台湾)、ハーバード・スミソニアン天体物理研究所、その他の機関が参加しています。
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。