アルマ望遠鏡、ついに開眼! - 初めての科学観測を開始 -

2011年9月30日(チリ時間)、天文学史上最大のプロジェクトであるアルマ望遠鏡が、ついに科学観測を開始しました。銀河、惑星、そして生命の起源を宇宙に探る旅が、いよいよ始まることになります。

アルマ望遠鏡は、東アジア・北米・欧州の国際協力のもとでチリ・アタカマ高地に建設を進めている電波望遠鏡です。今回、16台の直径12m高精度パラボラアンテナを用いて、アルマ望遠鏡としては初の科学観測となる「初期科学運用」を開始しました。構想開始から約30年、建設開始から7年を経てたどりついた初の科学観測に対し、世界の天文学者から900件を超える観測提案が寄せられました。このうち実際に観測が実行されるのは約100件程度であり、およそ9倍という高い競争率は、アルマ望遠鏡の稼働を多くの天文学者が高い期待を持って待ち望んでいたということを示すものです。

アルマ望遠鏡が観測するのは、電波の中でも波長の短いミリ波・サブミリ波です。この種の電波をとらえることで、宇宙に漂う低温のガスや塵を観測することができます。このガスや塵は太陽のような星や地球のような惑星が作られるもとになる物質であり、アルマ望遠鏡の稼働により、「銀河や惑星がどのように作られてきたのか?」という謎に迫ることが可能になります。また、「生命の起源となるような物質が宇宙に存在するのか?」という、これまでの天文学では触れることのできなかった分野にまで大きく研究が飛躍すると期待されています。

アルマ望遠鏡、科学観測を開始

人類史上最も高度な技術を集結した地上天文観測施設、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA:アルマ)が、2011年9月30日にその初めての科学観測である初期科学運用を開始しました。この最新鋭の観測装置を使って、はるか彼方の低温の暗黒宇宙に隠された宇宙の謎を解き明かす最初の一握りの研究者になろうと、世界中の数千人にものぼる科学者たちが観測提案を競い合いました。

「科学および天文学の研究の歴史においてだけでなく、人類の歴史においても記憶に残る瞬間だ」と合同アルマ観測所長のタイス・ドゥフラウ氏は言います。

国立天文台の井口聖・アルマ望遠鏡東アジアプロジェクトマネージャーは、「無事に初期科学運用を迎えることができ、ほっとしていると同時に大変興奮しています。国際協力で進められてきた21世紀最初のスーパー望遠鏡計画であるアルマ望遠鏡によって、銀河の誕生や生命のルーツについての研究が大きく進展することでしょう。」とアルマ望遠鏡の観測開始に期待を寄せています。

現在、チリ北部の標高5000メートルの観測地では、最終的に66台となるアンテナの約3分の1に相当する数のアンテナが設置され、さらに続々とアンテナが追加されています。アルマ望遠鏡を使った観測に天文学者から予想を大きく超える数の応募があったことからも明らかなように、建設中の段階ですでにアルマ望遠鏡は、世界最高性能の電波望遠鏡としての性能を達成しています。

9か月にわたる最初の初期科学運用でアルマ望遠鏡の観測時間を獲得したのは、わずか100前後の観測プロジェクトです。合同アルマ観測所副所長のルイス・ボール氏は、「世界中から900を超えるプロジェクトの応募があったことに大変驚きました。地上望遠鏡でも宇宙望遠鏡でもこれほどまでに応募が殺到したことはありませんでした」と語ります。予想を超える数の観測提案は、世界中から選ばれた50名の専門家により、その科学的価値、地域的多様性、アルマ望遠鏡の主要な科学目標との関連性を基準に選考が行われました。

「ALMAのMは、millimeter/submillimeter(ミリ波/サブミリ波)の頭文字です。これは、アルマ望遠鏡が肉眼で見える可視光よりもずっと長い波長の電波で宇宙を調べるということを表しています。」と合同アルマ観測所副プロジェクトサイエンティストのアリソン・ペック氏は言います。「ミリ波とサブミリ波では、星や惑星の誕生の過程を観測したり、宇宙で起きる物質の複雑な化学反応を研究したり、宇宙初期の銀河から放たれ何十億年も旅して地球に到達した電波を検出したりすることができます。アルマ望遠鏡運用開始直後に行われる観測では、これら以外のさらに多くの分野でこれまで想定もされなかった驚くべき成果がどんどん出てくることでしょう。」

また、同じく国立天文台の斎藤正雄・アルマ望遠鏡東アジアプロジェクトサイエンティストは「私たちの太陽系以外にもこれまで数多くの惑星が見つかっています。そのような惑星の中で地球のように生命が誕生する可能性はあるのか?アルマ望遠鏡は、そんな人類長年の疑問を解くヒントを私たちに与えてくれるかもしれません。」と語っています。

AOSにアンテナ19台

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

19台のアンテナ

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

アルマ望遠鏡観測画像

The Antennae Galaxies observed with ALMA

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). Visible light image: the NASA/ESA Hubble Space Telescope


触角銀河(アンテナ銀河、NGC 4038 ・4039とも呼ばれる)は、2つの銀河が衝突して変形した渦巻銀河です。地球からみると、からす座の方向、およそ7千万光年の距離にあります。この画像はアルマの初期試験観測期間中に得られた観測結果とNASA /ESAのハッブル宇宙望遠鏡の可視光での観測結果を組み合わせたものです。

ハッブル宇宙望遠鏡で観測された可視光(画像内の主に青色部分)は、銀河内で誕生したばかりの新しい星を写し出していますが、アルマ望遠鏡は新たな星の材料となる高濃度の低温ガスの雲といった可視光の波長では見えないものを見せてくれます。アルマ望遠鏡の観測結果(画像内の赤色、ピンク色、黄色の部分)は、可視光では見えない雲(新たな星の形成領域)に存在する一酸化炭素分子を検出できるように、ミリ波とサブミリ波帯の特定の周波数を観測して得られたものです。

巨大なガス雲は、2つの銀河の中心部だけでなく、それらが衝突している境界領域でも見つかっています。この領域のガスの総量は太陽の質量の数十億倍に相当し、星の形成材料を豊富に蓄えた貯蔵場です。このような天体の観測は、銀河の衝突がどのようにして新たな星の誕生を誘発するのかを理解するために重要です。しかし、これは、アルマ望遠鏡がいかにして可視光や赤外線の望遠鏡では見ることのできない宇宙の姿を明らかにするかを示すほんの一例です。

ハッブル宇宙望遠鏡の画像は、この天体をかつてないほど鮮明に映し出しており、解像度において最高水準のものです。アルマ望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡に比べてはるかに長い波長で観測するため、同程度の鮮明な画像を得ることははるかに難しいのです。しかし、すべてのアンテナが揃ってアルマ望遠鏡が完成すれば、アルマ望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡の10倍の解像度を達成することになります。

今回公表された触角銀河の画像の取得は、アルマ望遠鏡の試験観測期間中に行われたもので、使用されたアンテナは12台前後でした。これは初期科学観測で使用されるアンテナの数よりも少なく、アンテナ間の距離もかなり狭いものでした。この2つの条件が重なることで、試験観測時に得られる画像は最終的なアルマ望遠鏡の能力の一端を示すにとどまりますが、運用可能なアンテナの数が増え、干渉計のサイズが大きくなるにつれ、画像の鮮明度、観測に必要な時間、データの質は劇的に向上します。しかしながら、上に掲載した画像は、これまでに撮像された触角銀河のサブミリ波画像の中で最高品質のものであり、サブミリ波宇宙への新しい窓を開くものです。

観測時間獲得者の声

アルマ望遠鏡の初期科学観測の1つに選ばれたのは、米国マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード・スミソニアン天体物理学センターのデイビッド・ウィルナー博士のプロジェクトです。「私たちは太陽系のような惑星系が作られる様子を研究していますが、アルマ望遠鏡はその惑星系の材料を観測するのに最も適した望遠鏡です。」とウィルナー氏は言います。

ウィルナー氏のチームが観測対象として選んだのは、けんびきょう座AU星です。この天体は地球から33光年の近距離にあり、年齢が我々の太陽のわずか100分の1の1200万歳と非常に若い恒星です。「この星のまわりには、惑星の種ともいえる『微惑星』が回っていると考えられています。アルマ望遠鏡を使ってこの「惑星誕生の現場」を撮像したいと考えています。私たちはこの星のまわりに砂粒のような塵が多く存在すると考えていますが、もしこの中に惑星が隠れているとすると、塵はその惑星の重力に引かれて塊を作っているはずです。この塵の塊を発見できる可能性があるのは、アルマ望遠鏡だけです」とウィルナー氏は期待を語ります。ヨーロッパのあるチームも、距離が近く、惑星誕生の現場であるけんびきょう座AU星を観測天体として観測提案を出していたため、ウィルナー氏のチームは彼らと観測データを共有する予定です。

他の星のまわりを回っている生命の存在に適した惑星を探査する第一歩は、その惑星系での水の存在を調べることです。惑星が作られていく場所である塵の円盤、塵やガスの雲、星周辺を漂う岩などには、氷やガスだけでなく、有機分子が含まれている可能性があるとも考えられています。「宇宙生命化学」ともいえる、新たな研究分野です。

チリ大学のサイモン・カサスス博士と彼のチームは、アルマ望遠鏡を使って400光年の距離にある若い星HD142527の周囲のガスと塵の円盤(土星の輪のようなもの)を観測しようとしています。「この星の周りにある塵の円盤には非常に大きな隙間があります。この隙間は巨大惑星の形成によって刻み込まれたものかもしれません」とカサスス氏はこの天体の特徴について語ります。

「この円盤は、隙間の外側に木星サイズの惑星を十数個も形成できる程のガスを含んでいます。もし隙間の内側にもガスが存在していれば、ガスを主成分とする巨大惑星が今まさに作られている可能性があります」とカサスス氏は指摘します。彼らは、アルマ望遠鏡を使った観測で隙間の内側にあるガスの質量や物理状態を測定するつもりです。「アルマ望遠鏡を使えば、惑星の誕生と成長の過程を観測することもできるかもしれない」とカサスス氏は期待しています。

さらに遠く、地球から2万6千光年の距離にある銀河系中心部には、太陽の質量の400万倍に相当する超大質量ブラックホール、いて座 A*(エー スター)があります。この天体と地球の間にはガスと塵が大量に存在し、光学望遠鏡ではこのブラックホールを見ることができません。しかし、ガスや塵の雲を見通すことのできるアルマ望遠鏡ならば、研究者が切望するいて座A*の姿も明らかにすることができるでしょう。

オランダのナイメーヘン・ラートボウト大学のヘイノ・ファルケ教授は、「アルマ望遠鏡を使えば、この超大質量ブラックホールの周囲で起きる爆発現象を観測することも、その極めて強い重力に引き寄せられたガス雲を撮像することもできるでしょう。そして、我々はこの怪物のようなブラックホールの「食生活」を理解できるようになると期待しています。ガスの一部は光速に近い速度でその重力場から抜け出ているかもしれないと我々は考えています」とコメントしています。

アルマ望遠鏡は、遠くの宇宙に浮かぶ銀河も観測対象としています。たとえ遠くの銀河の姿をはっきりとは見ることができないにしても、そこにある塵や低温のガスを調べることで、銀河内の構造を描き出すことができます。我々が観測できる宇宙の外縁には、謎めいたスターバースト(爆発的星形成)銀河が静寂の暗黒宇宙に浮かぶきらめく島々のように横たわっています。アルマ望遠鏡は、このようなビッグバンの数億年後(天文学では「宇宙の夜明け」と呼ばれる時代)の低温ガスや塵を観測することができます。

東京大学の大内正己博士は、ヒミコと名付けられた非常に遠方の銀河をアルマ望遠鏡で観測することにしています。ヒミコは年間で少なくとも太陽100個分の星を生み出し続けており、巨大な明るい星雲に囲まれています。「なぜヒミコがこれほどまでに明るいのか、また、宇宙が静寂な暗黒の時代に、ヒミコがどのようにしてこのように巨大で高温の星雲を形成してきたのか。アルマ以外の望遠鏡ではこの謎を解くことはできません」と大内氏は言います。「アルマ望遠鏡は、ヒミコの奥深くに潜んでいる、星が作られる現場にある低温ガスを捕え、その内部の運動や活動を明らかにすることができます。これによって我々は、宇宙の夜明けの時代にどのように銀河が形成され始めたのかを知ることができるでしょう」。

アルマ望遠鏡の今後

チリ北部に位置し、標高が高く苛酷な自然環境のアタカマ砂漠のチャナントール平原では、初期科学観測の期間中もアルマ望遠鏡の建設が引き続き行われます。アルマ望遠鏡のアンテナは、アタカマの厳しい気候条件下でも性能を維持できるよう設計されています。山麓施設で建設され次々と山頂施設に運ばれてくるアンテナは光ファイバーケーブルで結合され、全体が一つの大きな望遠鏡として機能します。各アンテナは距離を離して設置され、これらのアンテナから得られたデータは世界最速の特殊スーパーコンピューターの1つであるアルマ望遠鏡相関器(毎秒1千兆の演算が可能)によって1枚の大きな画像に合成されるのです。

2013年までに、アルマ望遠鏡は最大18.5キロメートルの広がりを持つ巨大電波望遠鏡となります。アルマ計画に参加する北米、東アジア、ヨーロッパの様々な国のパートナーによって建設された66台のアンテナが、超高性能ミリ波サブミリ波電波望遠鏡として機能するようになるのです。

合同アルマ観測所長のタイス・ドゥフラウ氏は、「今日という日は、1つの同じ目的を抱いて仕事をしている世界中から集まった数千の人々の連携が成功した記念すべき日です。その目的とは、銀河や星、さらには生命の起源となる材料が形成されているかもしれない、低温で暗黒の宇宙を見るために、世界最先端の電波望遠鏡を建設することです。」と9月30日の観測開始日を無事に迎えられたことに安堵と感動を見せました。

トコ山中腹から撮影した、アルマ望遠鏡山頂施設全景。

トコ山中腹から撮影した、アルマ望遠鏡山頂施設全景。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

アルマ完成予想鳥瞰図

アルマ完成予想鳥瞰図
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

組織概要

アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設する国際的な天文施設である。ALMAの建設費は、ヨーロッパではヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、東アジアでは日本自然科学研究機構(NINS)およびその協力機関である台湾中央研究院(AS)によって、北米では米国国立科学財団(NSF)ならびにその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)によって分担される。ALMAの建設と運用は、ヨーロッパを代表するESO、東アジアを代表する日本国立天文台(NAOJ)、北米を代表する米国国立電波天文台(NRAO)(NRAOの管理は米国北東部大学連合(AUI))が実施する。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的として設立された。

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