アルマ望遠鏡、遠方銀河と小惑星を超高解像度で撮影

アルマ望遠鏡が、超高解像度観測でまた一つ天文学の扉を開きました。2014年10月に行われた観測で、117億光年かなたの銀河SDP.81を解像度0.023秒角(人間の視力に換算すると2600)で鮮明に写し出したのです。この銀河はより手前にある銀河の重力によってその姿がゆがめられていますが(重力レンズ効果)、これほど完全な円形の重力レンズ像が得られるのはたいへん珍しいことです。また、同時期に観測された小惑星ジュノーの高解像度画像も公開されました。こちらの解像度は0.04秒角(視力1500)であり、約3億km離れたジュノーの地表で60kmのサイズが見分けられるほどの高い解像度です。この観測ではジュノーが自転する様子がはっきりとらえられており、その表面の性質の場所による違いも明らかになりました。これらはいずれも、国際チーム" ALMA Partnership"を筆頭著者とする初めての論文2編として、天文学専門誌 アストロフィジカル・ジャーナル・レターズに掲載されます。

遠方銀河SDP.81の観測

SDP.81はハーシェル赤外線宇宙望遠鏡で発見された銀河で、私たちが住む天の川銀河の約500倍のペースで星を生み出す「爆発的星形成銀河」のひとつです。SDP.81は地球から117億光年の距離にありますが、その間(地球から35億光年の距離)にある別の銀河の巨大な重力によってSDP.81から来る光がゆがめられ、その姿は円弧状に引き伸ばされています。アインシュタインが提唱した一般相対性理論の中で予言されたため、こうした円弧は「アインシュタインリング」と呼ばれます。

アルマ望遠鏡は、SDP.81を波長2mm、1.3mm、1.0mmの3波長帯において、塵と一酸化炭素、水分子が放つ電波で観測しました。アンテナの間隔は最大で15kmであり、もっとも波長の短い1.0mmの観測での解像度は0.023秒角に達しました。観測の結果、重力レンズによって引き伸ばされたSDP.81の像がほぼ完全な円を描いていることがわかりました。一方過去に行われた他の電波望遠鏡による観測では、図1の左右の明るい部分だけしか見えていませんでした。これほど完璧なアインシュタインリングが捉えられることは可視光観測でも電波観測でもたいへん珍しく、アルマ望遠鏡の高い解像度と感度によって初めて得られた成果といえます。

図1

図1:アルマ望遠鏡(オレンジ)とハッブル宇宙望遠鏡(青)で観測したSDP.81。アルマ望遠鏡では重力レンズ効果により引き伸ばされたSDP.81の姿が、完全な円形に見えています。ハッブル宇宙望遠鏡では重力レンズの原因となっている手前の銀河が見えています。また、アルマ望遠鏡の解像度がハッブル宇宙望遠鏡を上回っていることもわかります。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); B. Saxton NRAO/AUI/NSF; NASA/ESA Hubble Space Telescope

アルマ望遠鏡のみで観測したSDP.81
Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO); B. Saxton NRAO/AUI/NSF

国立天文台チリ観測所の伊王野大介准教授は「この画像を初めて見た時は、たいへんおどろきました。アインシュタインリングの細部をここまではっきりと示している前例はありません。この画像から、手前の銀河の質量分布の詳細が分かるとともに、初期宇宙における星形成と分子ガスの関係を探ることができます。銀河の誕生という大きな謎の解明に向けて、また一歩前進すると期待されます。」と語っています。

一酸化炭素分子が放つ電波の観測からは、SDP.81内部の複雑なガスの運動が見て取れます。また一酸化炭素が放つ波長が異なる電波の比較からは、波長の長い電波ほど強いことがわかりました。もし銀河の中心にある巨大ブラックホールの周囲から強い電波が放たれているとすると(活動銀河核)、波長が短い電波ほど強い傾向がみられると考えられているため、SDP.81では活動銀河核による寄与は小さいと考えられます。SDP.81の性質をより深く議論するためには重力レンズ効果を詳細にモデリングする必要がありますが、アルマ望遠鏡の高解像度と高感度がもたらした高品質のデータを使えば、これまでにないほど精緻な重力レンズ効果の検証が可能になることでしょう。


SDP.81 は、ハーシェル赤外線宇宙望遠鏡のデモンストレーション観測期(Science Demonstration Phase:SDP)に観測・検出された天体カタログ(SDPカタログ)の81番目に掲載されている天体です。地球から見ると、うみへび座の方向に位置しています。

小惑星ジュノーの観測

小惑星ジュノーは、火星と木星の間を回っており、直径が240kmと小惑星としては巨大な天体です。アルマ望遠鏡は2014年10月19日に4時間にわたってジュノーを観測し、10枚の画像を得ました。この時ジュノーと地球の距離はおよそ3億kmであり、解像度0.04秒角はジュノー表面で60kmに相当します。ジュノーは周期7.2時間で自転していることが知られており、10枚の観測画像からは自転にともなっていびつな形のジュノーの姿が時々刻々と変化していく様子がはっきりわかります。電波観測でこれほど高い解像度で小惑星が捉えられたのは、今回が初めてのことです。

図2

図2:アルマ望遠鏡で観測した、小惑星ジュノーの連続写真アニメーション。自転している様子がわかります。
Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)

図3
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図3:アルマ望遠鏡が観測した小惑星ジュノー。時間が経過するにつれてジュノーが自転していく様子がわかります。
Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)

アルマ望遠鏡による高解像度観測の結果、ジュノーの表面が一様ではないことがわかりました。一般に天体の表面では、太陽に照らされる側(天体表面での「昼」)の温度が上がり強く電波を発します。天体が自転している場合、この電波の強い場所は自転とともに動いていきます。しかし地面が温まって電波を強く出すまでには時間がかかるため、必ずしも太陽直下(天体表面での「正午」)で電波が一番強いとは限らず、太陽直下を通り過ぎた後で最も電波が強くなる場合があります。アルマ望遠鏡による観測データを詳しく解析すると、ジュノーを観測し始めた当初は太陽直下を少し通り過ぎた場所で電波が最も強かった一方、観測終盤には太陽直下が最も電波を強く発するようになっていました。これは、観測終盤に太陽のほうを向いていた面が温まりやすいことを意味しています。つまり、「正午」を迎えた時に温度がもっとも高くなり、その後時間が経過すると速やかに冷えて電波が弱くなっているのです。ジュノーのように大きな小惑星は月の表面と同じように微細な砂「レゴリス」で覆われていると考えられていますが、ジュノーの表面はそのレゴリスの性質が一様でないのかもしれません。またジュノーには巨大なクレーターが存在することが知られており、今回の観測結果は、クレーター内部の物質がそれ以外の場所の物質とは性質が異なる可能性を示唆するものです。この発見は、天体の温度を測定できるという電波観測の特徴と、アルマ望遠鏡の高い解像度が合わさって初めて実現したものです。米国立電波天文台のアリエル・マレット氏は「今回の成果は、アルマ望遠鏡が小惑星観測の非常に重要な道具であることを示しています。その高い解像度を活かして、ジュノー以外の多くの小惑星の表面を詳しく観測することができるでしょう。」と語っています。

図4

図4: 小惑星ジュノーの電波強度の違いを強調して描いた図。丸印が太陽直下の位置を示します。観測を始めた当初(左)は太陽直下からずれた場所で電波が強いですが、観測終盤(右)では太陽直下が最も電波が強くなっています。
Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)

これらの観測は、2014年9月から11月にかけての「長基線試験観測キャンペーン」の一環として行われたものです。このキャンペーンは、アンテナの間隔(基線)を長く取った時にアルマ望遠鏡がきちんと機能するかどうかを確認すること、最適な観測手法・データ較正手法を確立することを目的としていました。このキャンペーンでは、今回発表したSDP.81と小惑星ジュノーに加え、2014年11月に公表した若い星おうし座HL星 、年老いた星ミラが観測対象として選ばれました。これらのデータは2014年12月17日にアルマ望遠鏡データアーカイブで公開され、世界中の研究者がこのデータを用いて研究を行うことが可能になっています。

この観測成果は、ALMA Partnership et al. “ALMA Long Baseline Observations of the Strongly Lensed Submillimeter Galaxy HATLAS J090311.6+003906 at z=3.042″、ALMA Parnetship et al. “ALMA Observations of Asteroid 3 Juno at 60 Kilometer Resolution”として、天文学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル・レターズに掲載されます。

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA, “アルマ望遠鏡”)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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