アルマ望遠鏡、原始星円盤へのガス流入の詳細を明らかに

アルマ望遠鏡を使った原始星TMC-1Aの観測から、この原始星を取り巻くガス円盤とその周囲でのガスの動きがこれまでになく詳細に明らかになりました。高い感度を持つアルマ望遠鏡によって、原始星を取り巻くガス円盤と、そこに向かってゆっくりと落下するガスを初めて直接見分けることに成功したのです。これは、原始星周囲の円盤の成長と進化の謎に迫る重要な一歩といえます。

太陽や夜空に輝く星は、宇宙に漂うガスが自らの重力によって集まることで誕生します。宇宙には「星の卵」ともいえるガスの集合体が数多く発見されており、その中に赤ちゃん星(原始星)を宿したものも多くあります。おなかの中の赤ちゃんに母体から栄養が供給されるように、原始星を取り巻くガスの集合体から中心の原始星に向かってガスが流れ込むことで、原始星は次第に成長していきます。この時ガスは直接原始星には取り込まれず、いったん原始星のまわりを円盤状に回るようになります。しかし、この円盤が星の誕生過程のどの段階で作られ、どのように成長していくのかは、観測的研究からも理論的研究からもまだ明らかになっていません。これは、十分な解像度と感度で原始星の周囲を観測できていなかったことに原因があります。

東京大学大学院理学系研究科の大学院生 麻生有佑氏と国立天文台ハワイ観測所の大橋永芳教授らを中心とする研究グループは、原始星を取り巻く円盤の構造を詳しく調べるため、おうし座にある原始星TMC-1A(地球からの距離 約450光年)をアルマ望遠鏡で観測しました。TMC-1Aは誕生直後の非常に若い星で、その周囲にはガスの円盤があり、さらにそれを取り巻くようにガス雲(エンベロープ)が取り囲んでいることが知られています。

観測の結果、研究グループはエンベロープから円盤に向かってガスが降り積もり、円盤内でケプラー回転(注)するようになる領域を観測から直接精度よく見出すことに初めて成功しました。エンベロープから円盤にはガスが流れ込んでいるため両者は連続的につながっており、従来の研究ではこれらを見分けるのは困難でした。これらを見分けるためには、まず内側にある円盤の回転速度を観測から精度よく見積もり、外側でその回転速度と合致しない成分を探す必要があります。円盤のガスは中心の星に近いほど高速で回転していますが、内側ほどガスの量が少なくなります。このため、円盤の内側から発せられる電波は弱くなってしまい、精度良く測定することが難しいのです。今回の観測では、アルマ望遠鏡の高い感度のおかげで、高速回転する円盤の速度とその広がりを高い精度で求めることができました。そのおかげで、外側にある異なった速度を持つ構造、すなわちエンベロープとの境界が特定でき、エンベロープから円盤に降り積もってくるガスの速度も精度よく見積もることに成功しました。

図1

図1. TMC-1Aの観測画像。アルマ望遠鏡で観測した原始星周囲を取り巻くガスの分布を赤で表しています。また原始星には一般的に見られる、原始星から噴き出すガス流をアルマ望遠鏡で捉えた様子を白色で合成しています。原始星TMC-1Aの位置は十字で示しています。(十字のない図1
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Aso et al.

図2

図2. TCM-1Aのまわりのガスの運動を表した図。こちらに近づく方向に動くガスを青色、遠ざかる方向に動くガスを赤色で表現しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Aso et al.

図3

図3. TMC-1Aの想像図。中心に原始星があり、それを回転するガス円盤が取り巻いています。ガス円盤にはさらに外側からガスが流れ込んでいます。
Credit: NAOJ

動画: TMC-1Aの想像図。Credit: NAOJ

今回の観測から、TMC-1Aの円盤とエンベロープの境目は中心の原始星から約90天文単位の場所にあることがわかりました。これは、太陽系の最も外側の惑星である海王星の軌道の約3倍にあたる大きさです。また原始星の質量は太陽の0.68倍であることもわかりました。円盤の速度を精度よく求めることができたため、この原始星の質量もこれまでより高い精度で決定することができました。さらにエンベロープから円盤に向かって流れ込むガスの速度はおよそ毎秒1km、その量は1年間に太陽質量の50万分の1程度であることもわかりました。従来、このようなガスの流入は単に重力に引っ張られて落下すると考えられてきましたが、今回見つかったガスの流入は、重力に引っ張られて落下する場合よりも緩やかなものであり、これまでの描像とは大きく異なります。磁場の力によってガスの運動が妨げられているのが原因ではないかと考えられます。

今回の成果をまとめた論文の筆頭著者である麻生氏は、「若い星の周りの円盤は惑星の母体です。この円盤がどのように作られるかを調べるためには、本研究のようにエンベロープに埋もれた成長途中の円盤を観測し、円盤とエンベロープを精度よく切り分け、境目がどこに位置するのかを詳しく調べることが重要です。境目の位置は原始星の成長とともに、外側へ広がっていくことが予想されますが、それも近い将来アルマ望遠鏡の観測で明らかになるでしょう」と述べています。


この研究成果は、Aso et al. “ALMA Observations of the Transition from Infall Motion to Keplerian Rotation around the Late-phase Protostar TMC-1A” として、2015年10月発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。


太陽系の惑星は、太陽の重力に支配された動きをしています。内側の惑星ほど短い周期で、外側の惑星ほど長い周期で太陽を周回しています。17世紀、ヨハネス・ケプラーはこうした惑星の動きに潜む法則を見出し、「ケプラーの法則」を提唱しました。そしてこの法則に従う運動を「ケプラー回転」と呼びます。

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA, “アルマ望遠鏡”)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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