乱流の中で生まれた互い違いの双子星

アルマ望遠鏡による観測で、「離れた連星系がどのようにして生まれるのか」という天文学の長年の謎に決定的な答えが導き出されました。韓国・キョンヒ大学のジョンユァン・リー氏と国立天文台の立松健一氏らをはじめとする国際研究チームは、連星をなす生まれたばかりの2つの星の自転軸が互いに傾いていることを発見しました。これは、大きなガスのかたまりが乱流によってちぎれ、それぞれの中で星が生まれたことを示しています。より近い位置にあった2つの星の間隔が次第に大きくなったことで離れた連星系が作られる、という説もありましたが、今回の観測はこの考え方を明確に否定するものであり、連星形成に乱流が大きな役割を果たしていることを強く示唆しています。

非常に若い原始連星系IRAS 04191+1523の合成画像

非常に若い原始連星系IRAS 04191+1523の合成画像。
アルマ望遠鏡が捉えたふたつの星のまわりの円盤を白、それらを覆う濃いガスの雲を黄色で示しています。また、ハーシェル宇宙望遠鏡が遠赤外線で捉えた塵の分布を赤で示しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Lee et al., ESA/Herschel/PACS

非常に若い原始連星系IRAS 04191+1523の想像図

非常に若い原始連星系IRAS 04191+1523の想像図。
濃いガスの雲の中で、自転軸の向きが互い違いになった赤ちゃん星の様子を示しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

宇宙に存在する星の半数以上は、連星系をなしています。このため、連星系の誕生メカニズムを知ることは、宇宙全体の星の進化を理解する上で重要です。

連星系には、2つの星の間隔が広いものと狭いものの2つのタイプがあります。間隔が狭い連星系については、アルマ望遠鏡の別の観測によって、最初の星の誕生時に周囲にできるガス円盤の中で次の星が生まれている様子がとらえられました [1] 。一方で、間隔が広い連星系がどのようにしてできるのか、確定的な証拠は得られていませんでした。間隔が狭い連星系が、互いの星の重力の影響で何百万年もかけて次第に広がっていくと考える研究者もいれば、母体となった大きなガス雲が乱流によってちぎれ、それぞれの中で星が生まれると考える研究者もいました。

この問題に挑むため、研究チームはアルマ望遠鏡観測のターゲットとして連星系IRAS 04191+1523を選びました。この生まれたばかりの双子星は、おうし座の方向およそ450光年の距離にあり、2つの星の間隔は太陽と海王星の距離の約30倍(860天文単位)と、「離れた連星系」に分類されます。この双子星の年齢は50万歳よりもずっと若いと考えられており、離れた連星系の生まれたばかりの姿を調べるにはうってつけの天体といえます。

研究チームは、双子星のそれぞれを取り囲むガス円盤に含まれる一酸化炭素分子が出す電波を詳しく解析し、ガス円盤の回転方向を調べました。その結果、2つのガス円盤の向きがそろっていないことがわかりました。2つの円盤のなす角は、77度にもなります。

もし連星系がガス円盤の分裂によってできたとすれば、ガスの回転の勢いがそのままそれぞれの星に持ち込まれるため、2つの星の自転軸の向きがそろうはずです(ジャイロ効果)。連星系の間隔がその後しだいに広がったとしても、この自転軸の向きは大きくは変わらないと考えられています。IRAS 04191+1523を構成する2つの星の自転軸が大きく傾いているという観測事実は、ガス円盤の分裂によってできた連星系が進化して間隔の広い連星になったという考え方を明確に否定するものです。

「今回の発見でとくに面白いのは、アルマ望遠鏡データから導き出した2つの星の質量が、太陽の1/10以下と、非常に小さいことです。離れた連星系、特にこうした低質量の星からなる離れた連星系の形成過程はこれまで謎でした。しかし今回のデータが示していることは、こうした低質量連星や、もしかしたらさらに軽い褐色矮星の連星も、より重い普通の星と同じように、乱流に満ちたガスの分裂で生まれる可能性が高いということです。この連星系は、間隔の狭い連星が互いの重力によって広がったと考えるには若すぎます [2] 。ですから、乱流が大きなガス雲を引きちぎったことで生まれた双子のガス塊のそれぞれで星が生まれた、と考えるのが自然なのです。」と、リー氏は語っています。


論文・研究チーム
この研究成果は、Lee et al. “Formation of Wide Binaries by Turbulent Fragmentation”として、イギリスの天文学専門誌『ネイチャー・アストロノミー』オンライン版に2017年7月1日(日本時間)に掲載されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Jeong-Eun Lee (Kyung Hee University), Seokho Lee (Kyung Hee University), Michel Dunham (State University of New York at Fredonia), 立松健一(国立天文台/総合研究大学院大学), Minho Choi (Korea Astronomy and Space Science Institute), Edwin A. Bergin (University of Michigan), Neal J. Evans II (Korea Astronomy and Space Science Institute / The University of Texas at Austin)


 
1 アルマ望遠鏡による三連原始星L1448 IRS3Bによる観測では、最初にできた連星の周囲を取り巻くガスの円盤が分裂し、3つ目の原始星が作られる様子が明瞭に描き出されました。参考:2016年10月27日公開の最新情報「ガスと塵の円盤の中で生まれる三つ子の赤ちゃん星」
2 アルマ望遠鏡による連星系おうし座HK星の観測では、互いに傾いた円盤を持つ連星の姿が描き出されています。しかしこの星は今回観測されたIRAS 04191+1523よりずっと進化が進んでいるため、生まれた時はもっと間隔が狭かった可能性を否定することができません。参考:2014年7月31日公開の最新情報「アルマ望遠鏡、互いに傾いた原始惑星系円盤を連星系で発見」

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