アルマ望遠鏡、互いに傾いた原始惑星系円盤を連星系で発見

アルマ望遠鏡を使った観測により、若い連星系おうし座HK星を構成するそれぞれの星のまわりに、傾きの異なる原始惑星系円盤が発見されました。連星系を成すそれぞれの星のまわりの原始惑星系円盤の様子をこれほどまでにはっきりと描き出したのは、今回のアルマ望遠鏡による観測が初めてのことです。この観測結果は、大きくゆがんだ軌道や傾いた軌道を持つ太陽系外惑星の起源の謎を解く鍵になると考えられます。この観測結果は、2014年7月31日発行の科学誌「ネイチャー」に発表されました。

図1
図1. アルマ望遠鏡の観測結果をもとにした、おうし座HK星の想像図。
連星を構成する二つの若い星のまわりに、傾きの異なる原始惑星系円盤が取り巻いています。
Credit: R. Hurt (NASA/JPL-Caltech/IPAC)
図2
図2. アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測した、おうし座HK星の合成画像。
Credit: B. Saxton (NRAO/AUI/NSF), K. Stapelfeldt et al. (NASA/ESA Hubble)

私たちを日々照らしてくれる太陽は単独の星ですが、宇宙に存在する星の多くはふたつの星が互いのまわりを回りあう連星系を成しています。連星系は宇宙の中では多数派ではあるものの、そこにはまだ謎が多く残されています。例えば、そうした複雑な環境でどんな惑星が作られるのか、まだよくわかっていません。このためには、それぞれの星のまわりで惑星の材料がどのように分布しているかを詳しく調べる必要があります。一般的には惑星の材料は若い星を円盤状に取り巻いており、原始惑星系円盤と呼ばれます。

「アルマ望遠鏡によって、私たちは原始惑星系円盤を持つ連星系をこれまでで最もはっきり見ることができました。そして、その円盤の向きがそろっていないことを発見したのです。」と、この論文の筆頭著者であるエリック・ジェンセン氏(アメリカ、スワースモア大学)は語っています。

連星系おうし座HK星を構成する2つの星は、地球から約450光年の距離にあり、誕生してから500万年以内の若い星です。2つの星の間隔はおよそ580億kmと見積もられており、これは太陽と海王星の間の距離の13倍に相当します。2つの星のうち明るい方をおうし座HK星A、暗い方をおうし座HK星Bと呼びます。

おうし座HK星Bのまわりにある原始惑星系円盤は、地球から見ると真横を向いており、星の光を一部さえぎっています。このため、可視光や赤外線で観測した場合にはシルエットとして円盤を観測することができます。一方、おうし座HK星Aの原始惑星系円盤は星の光をさえぎっていません。このため星の光が強すぎて、原始惑星系円盤のかすかな光をとらえることができません。しかし原始惑星系円盤は星に比べてミリ波を強く出しているため、アルマ望遠鏡ではこの円盤を直接観測することができるのです。

アルマ望遠鏡による観測の結果、研究チームはおうし座 HK星Aのまわりの円盤の姿を初めてとらえただけでなく、その円盤の回転の様子も初めてとらえることに成功しました。この結果、おうし座HK星AとBのまわりの円盤は、互いに少なくとも60度の角度を成していることがわかりました。つまり、2つの円盤は連星系の軌道面と同じ面にはなく、少なくとも1つの円盤が大きく傾いているということになります。

図3. 連星系おうし座HK星の2つの星を取り巻く原始惑星系円盤をアルマ望遠鏡で観測した画像。
アルマ望遠鏡では原始惑星系円盤の中のガスがどのように動いているかを、ドップラー効果を用いて測定しました。画像では私たちの方向に向かってくる物質の分布を青、遠ざかっていく方向に動いている物質の分布を赤で示しています。2つの星のまわりの原始惑星系円盤が、それぞれ回転している様子がわかります。
Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (IPAC)

「円盤どうしの傾きの違いがこれほどはっきり存在することは、この連星系の大きな特徴と言えます。」と、レイチェル・アケソン氏(カリフォルニア工科大学・NASA太陽系外惑星科学研究所)は語っています。「これまでの観測からこうした傾きを持つ円盤の存在は予想されていましたが、アルマ望遠鏡を使った今回の観測によって、連星系の原始惑星系円盤でどんなことが起きているのかをよりはっきりと見ることができました。」

星や惑星は、宇宙に漂う星間物質(ガスや塵)の中で作られます。星間物質が自らの重力によって収縮していくと次第に回転をはじめ、中央の赤ちゃん星(原始星)の重力に引かれて落下してきた星間物質は、原始星のまわりに円盤状に集まります。

しかし、連星系であるおうし座HK星の場合は星間物質の動きはもっと複雑です。2つの星の軌道とそれぞれの星のまわりにある原始惑星系円盤が同じ平面上に無い場合、原始惑星系円盤の中で作られる惑星は大きく傾いた軌道や長く引き伸ばされた楕円の軌道を持つことになります(注)。

「私たちの観測結果は、惑星の軌道を乱すメカニズムが惑星誕生の段階に存在していることを示しています。そして、親星である連星の形成過程に大きく影響を受けているようです。」とジェンセン氏はコメントしています。「他の説を棄却することはできませんが、連星であることが大きく影響していることは確かです。」

研究チームは、おうし座HK星のように原始惑星系円盤の向きがそろっていない連星系が一般的なものなのか、それとも珍しいものなのかを調べたいと考えています。今回観測対象となったおうし座HK星が特徴的な一例であることは研究者たちも述べていますが、私たちの住む天の川銀河全体を見渡した時に、円盤の向きがそろっていない連星系がたくさんあるのかどうかは、今後多数の天体を観測することで明らかになってくるはずです。

ジェンセン氏は、「連星系が惑星の軌道に及ぼす影響を理解することは、研究を進めていく上での大きな一歩です。しかしこれだけでは、特異な軌道を持つ太陽系外惑星のすべてを説明することができません。残された謎を解いていくこともまた、ワクワクする研究の次の一歩なのです。」と述べています。


論文・研究チーム

今回の研究成果は、 Jensen & Akeson “Misaligned Protoplanetary Disks in a Young Binary Star System”として、2014年7月31日発行の科学誌「ネイチャー」に掲載されました。

この研究を行ったチームのメンバーは、以下の通りです。
Eric L. N. Jensen (Dept. of Physics & Astronomy, Swarthmore College, USA), Rachel Akeson (NASA Exoplanet Science Institute, IPAC/Caltech, Pasadena, USA)


連星を構成する2つの星とそれぞれのまわりの原始惑星系円盤が同じ平面になかった場合、一方の星の重力によってもう一方の星のまわりの円盤が乱され、円盤の形(円盤を形成するガスや塵の軌道)がゆがみます。こうしたゆがんだ円盤の中で作られる惑星もやはり隣の星の重力を受けるため、その軌道が傾いたりゆがんだりします。

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