金星観測データの再解析とデータアーカイブへの再登録について

アルマ望遠鏡による金星の観測データの一部の再解析が完了し、アルマ望遠鏡科学データアーカイブにて公開されました。

この観測データは、カーディフ大学(イギリス)のジェーン・グリーブス氏らの研究チームからの観測提案に基づき、2019年に取得されたものです。この観測は、東アジア天文台がハワイで運用するジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を使って金星にホスフィン(リン化水素、PH3)の兆候が発見されたことを受けて実施されたものでした。

ホスフィンが生命体によって作られる可能性のある物質であることから、金星におけるホスフィンの発見は大きな注目を集めました(参考:2020年9月16日発表のプレスリリース「金星にリン化水素分子を検出 ~生命の指標となる分子の研究に新たな一歩~」)。また、世界中の研究者によってデータや研究の再検証が行われました。これは、健全な科学研究のプロセスの一部といえます。

この検証のなかで、アルマ望遠鏡のスタッフが、アルマ望遠鏡で得られたデータの一部に問題があることを発見しました。データ解析の過程で分光データ(スペクトル)に天体起源でない波形が生じており、ホスフィンの検出の信頼性に影響を与える可能性がありました。金星のように強く電波を放射する天体において微弱な信号を検出することは、容易ではありません。このような観測を実現するためには、アルマ望遠鏡の装置を厳密に調整する必要があります。加えて、アルマ望遠鏡のスタッフは、データ解析に使用したソフトウェアに軽微な問題があることも見出しました。金星観測のための特定の望遠鏡セットアップとこのソフトウェアの問題が組み合わさることで、データに人為的な波形が生じることもわかりました。

このため、データに問題があった場合の標準的な手順に従って、該当のデータはアルマ望遠鏡科学データアーカイブからいったん削除されました。この度、データの再処理が完了したため、データは再び科学データアーカイブに登録され、世界中の天文学者がダウンロードして検証することが可能になっています。

グリーブス氏らの研究チームは、この再処理されたデータを使って金星大気に関する研究を行っています。データが再びデータアーカイブに登録されたことで、この研究に関心を持つ他の研究チームも、再処理されたデータを利用してホスフィン検出の妥当性を検証することが可能になっています。

NEW ARTICLES