電波で見た天の川銀河の中心付近の様子。右寄りの明るい天体が、超巨大ブラックホールに対応する「いて座A*」です。
The view of the centre of our galaxy with a closer view of the object known as Sagittarius A*, the bright radio source that corresponds to the supermassive black hole.
Credit: NRAO/AUI/NSF

地球サイズの望遠鏡でブラックホール撮影に挑む【5】 電波望遠鏡のしくみとは?

アルマ望遠鏡が世界中の望遠鏡と協力してブラックホールの影の撮影に挑む連載、第5回では基本に立ち返って電波望遠鏡の仕組みをご紹介します。

音楽を聞くとき、もしベースの音しか聞こえないとしたらどうでしょうか? あるいは、ものを見るときに特定の色しか見えないとしたらどうでしょうか? あり得ない、と思うかもしれませんが、実はこれは日常的に起きていることです。私たち人間の目は、「可視光」と呼ばれる光しか感知することができません。しかし、可視光以外にも光の仲間は存在します。たとえば、電波も光の仲間ですが、波長が可視光よりもずっと長いのです。電波の波長は1ミリメートル程度よりも長いですが、私たちが目にする可視光の波長はそれよりずっと短く、数百ナノメートル(1ミリメートル=100万ナノメートル)しかありません。

電波を私たちが直接見ることはできませんが、その存在は1867年、イギリスの物理学者ジェームズ・クラーク・マックスウェルによって予言されました。19世紀末までに、科学者たちは電波を発したり検知したりすることのできる装置を開発できるまでになりました。その数十年後、この機械は通信だけでなく、宇宙の探求にも使えることが明らかになりました。これまでまったく知られていなかった宇宙のある一面を、垣間見ることができるようになったのです。

天体からの電波を初めてキャッチしたのは、アメリカの無線技士カール・ジャンスキーでした。彼は1932年に、天の川からの電波を捉えたのです。その後、1964年には宇宙マイクロ波背景放射が、1967年にはパルサーが発見され、これらはいずれもノーベル賞につながりました。しかし、これは始まりに過ぎませんでした。電波観測による天文学は、その後も大きな成果を挙げ続けます。

夜のアルマ望遠鏡

電波天文学の最先端を行く、アルマ望遠鏡。66台のパラボラアンテナをつなぎ、ひとつの巨大な電波望遠鏡として機能します。 Credit: ESO/B. Tafreshi (twanight.org)

では、電波望遠鏡はどのようにして天体からの電波を捉えるのでしょうか?
 
天体からの電波をキャッチするために必要なのは、アンテナと受信機です。非常に幅広い波長域の電波をとらえるため、さまざまな種類の形と大きさのアンテナと受信機が存在します。

波長が1メートルよりも短い電波を捉える電波望遠鏡のアンテナは、たいていパラボラの形をしています。お椀のような形で、電波を焦点に集めるのです。より短い波長の電波を観測するアルマ望遠鏡やEHT/GMVAに使われるアンテナでは、パラボラ面の精度が重要です。パラボラがゆがんでいたり表面に凹凸があったりすると、電波が散乱してしまって貴重な情報が失われてしまうからです。

パラボラの焦点には副鏡が置かれ、パラボラで集められた電波を受信機に導きます。受信機では、観測したい周波数の電波を選びだし、検波と増幅を行います。受信機から出力される信号はアナログ形式ですが、別の装置がこれをデジタル化し、最終的にはコンピュータに送ります。天文学者はこのデジタル情報をもとに、天体の電波強度を描き出すのです。

十分な精度で天体の電波を調べるために、電波望遠鏡は時には数時間も対象天体を追い続けます。これは、星の写真を撮影するためにカメラのシャッターを長時間開き続けることと同じです。こうして得られた信号をコンピュータ上で足し合わせることで、天文学者は星や銀河、星雲、そして超巨大ブラックホールについての情報を読み解くことができるのです。

電波で見た天の川銀河の中心付近

電波で見た天の川銀河の中心付近の様子。右寄りの明るい天体が、超巨大ブラックホールに対応する「いて座A*」です。Credit: NRAO/AUI/NSF

しかし、電波天文学には弱点が一つあります。観測する電波の波長が長いので、高い解像度を得るのが難しいのです。巨大なパラボラアンテナを使った観測でも、人間の視力を少し越える程度の解像度しか得られません。アンテナがものを見分ける能力は、(観測する電波の波長)÷(望遠鏡の口径)という式で計算できます。この値が小さいと、小さいものまで見分けられる、つまり解像度が高いということになります。この式で分かる通り、望遠鏡の口径を大きくすればするほど解像度は向上しますが、波長の長い電波の場合、可視光望遠鏡と同程度の解像度を得るには極めて大きな口径が必要になります。

では、世界にはどんな巨大望遠鏡があるでしょうか。上下左右に向きを変えられる電波望遠鏡として世界一の大きさなのは、アメリカにあるグリーンバンク望遠鏡(口径100メートル)です。もし向きを変える必要がなければ、もっと大きな望遠鏡を作ることも可能です。中国で最近建設された500メートル球面望遠鏡(FAST)は、自然の盆地を利用した望遠鏡です。FASTで観測する電波は、アルマ望遠鏡などで観測する電波よりも波長がずっと長く、4.3メートルの波長(メートル波)まで観測することができます。他にも、FASTが2016年に完成するまで50年にわたって世界最大を誇ってきたプエルトリコのアレシボ天文台(口径300メートル)も、FASTと同じ構造です。

しかし、これよりも大きなアンテナを作ることは現実的ではありません。では、解像度を向上させるにはどんな解決策があるのでしょうか。

ノーベル賞にも輝いた技術、電波干渉計がその解決策です。広い範囲に設置されたアンテナ群で捉えた電波を合成し、全体を仮想的な一つの巨大望遠鏡とするのです。現代の電波干渉計では、集められた信号はアンテナ群の中央にあるコンピュータまでデジタル信号として光ファイバーをつたって送られ、相関器と呼ばれる専用のスーパーコンピュータによって処理されます。

アルマ望遠鏡空撮

標高5000メートルの高地に展開されたアルマ望遠鏡アンテナ群の空撮写真。Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO

世界で最も新しい電波干渉計のひとつが、チリに建設されたアルマ望遠鏡です。アルマ望遠鏡では、66台の高精度アンテナを最大で16キロメートルの範囲に展開し、電波干渉計として機能させます。電波干渉計の解像度は、個々のアンテナの口径ではなく、アンテナ群の最大展開範囲に依存します。アンテナを遠くに離せば離すほど、解像度はよくなるのです。

アルマ望遠鏡でも、アンテナで集められた信号は相関器で処理されます。すべてのアンテナがシンクロして動くことで同じ天体を観測し、ハッブル宇宙望遠鏡よりもずっと高い解像度を実現することができます。アンテナの展開範囲が広いため解像度が向上し、天体の詳しい様子を描けるようになるのです。

このように、解像度を上げるためにはアンテナの展開範囲を広げることが重要です。もしアルマ望遠鏡よりもさらに広い範囲にアンテナを設置できたら・・・、そう、解像度はもっと良くなります。何千キロメートルも離れた場所にアンテナを置いて地球サイズの望遠鏡を構成する技術を、超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometer: VLBI)と呼びます。これこそが、極めて高い解像度を実現しさまざまな天体の詳細な様子を明らかにする究極の手段なのです。天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールの姿を明らかにするためにも、VLBIは必須です。

次回の連載では、実際にVLBIの技術を使って地球サイズの望遠鏡を構築する方法について、詳しく紹介します。 

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