2017.05.09
アルマ広報に聞く、宇宙の秘密 vol.1地球以外に「生命」は存在するのか?
地球のような星、そして地球外生命体はどのくらいの確率で存在するのだろうか? そんな宇宙にまつわる素朴な疑問や仕組みについて、生命起源物質の探査にも挑むアルマ望遠鏡の教育広報担当・平松正顕助教が解説した。
インタビュー・テキスト:中村俊宏
撮影:豊島望
生命が進化するには恒星の「寿命」が重要だった
――単純な生命がいる星はけっこうあるかも? ということでしたが、地球のように進化した多様な生命がたくさんいる星となるとどうですか?
平松:これも、私たちは地球の生命のことしか知らないので、答えを出すのは難しいですね。ただ、一つわかっていることは、太陽がもっと重かったら、地球の生命が進化するための時間が足りなかっただろうということです。
――どういうことですか?
平松:恒星の寿命は重いものほど短いんです。太陽の寿命は約100億年と考えられていますが、太陽の2倍の重さの恒星の寿命はその10分の1、10億年ほどしかないのです。
――惑星系の中心にある恒星が燃えつきてしまったら、その周囲を回る惑星で生命が生まれても、進化できなくなってしまいますね。
平松:そのほかにも、系外惑星が地球のような環境になれないケースがあります。太陽は太陽系の唯一の恒星ですが、宇宙には2つ以上の恒星がお互いのまわりを回り合う「連星」になっているものがたくさんあります。
たとえば、こちらは地球から約750光年の距離にある3つの恒星による連星「3連原始星L1448 IRS3B」が誕生する様子を、アルマ望遠鏡とアメリカの電波望遠鏡JVLAによる観測で初めてとらえた写真です。こうした決定的な画像は、アルマ望遠鏡がいままでの観測技術より、10倍の感度、2倍の解像度とはるかに上回ったことで撮影することができました。
ただ、こうした連星系のまわりに惑星が生まれても、軌道が不安定になって、やがて連星系の外に飛んでいってしまったりすることがあるんです。
――では、生まれてから約46億年も、生命にとって良い環境を保ち続けている地球は、宇宙の常識からすると珍しい惑星なのでしょうか。
平松:それもまだわかりません。なぜなら太陽より軽い(寿命が長い)恒星が宇宙にはたくさんあるんです。
――太陽より重い星と軽い星、どっちが多いんですか?
平松:圧倒的に軽いほうが多いです。軽い恒星の周囲にある惑星には、生命が十分進化できる環境の星もあるかもしれません。それから、先ほど、連星系では惑星の軌道が不安定だと言いましたが、最近の観測では、連星系にも惑星が見つかっているんです。
――たしか、映画『スター・ウォーズ』で、主人公ルーク・スカイウォーカーの故郷の惑星が2つの太陽を持っていましたよね。そういう惑星が本当にあるんですね。
平松:そうなんです。ですから、系外惑星の観測や研究がさらに進めば、地球のように生命が育つ環境が奇跡的なのか、それともありふれたものなのかがわかってくるでしょう。
生命を育んできた、地球の繊細なシステム
――地球46億年の歴史で、生命の平和をおびやかすようなピンチはあったのでしょうか?
平松:隕石の衝突などは実際にありますが、極端な例をあげるなら、もし太陽系の近くで大質量の恒星が寿命を迎え、超新星爆発が起きていたら、地球の大気がすべて吹き飛ばされていたかもしれませんね。
――大気が吹き飛ぶ! 想像するだけで恐ろしいですね……。
それから、恐竜は巨大隕石の落下による影響で絶滅したと考えられています。落下した隕石は直径10キロメートルくらいだったといわれていますが、もし隕石がもっと大きなものだったら、恐竜だけでなく原始的な哺乳類も絶滅し、人類も生まれてこなかったでしょう。
――太陽系自体も銀河系のなかを動いていると思うのですが、恒星や惑星系同士が衝突することはあるのですか?
平松:太陽を野球のボール(直径約7センチ)の大きさに例えたとして、そのボールを東京に置いた場合、一番近い恒星(野球のボール)の位置は、2,000キロメートル先の北京になるんです。この2つのボールが動き出したとしても、ぶつかることはあり得ませんよね。ですから、銀河系内で恒星同士が衝突することはまずあり得ません。連星系をなす星同士の衝突ならたまにあるのですが。
――地球の大気にはオゾン層があって、それが太陽の紫外線から生命を守ってくれています。これも地球の繊細なシステムといえますか?
平松:そうですね。オゾンは酸素からできていますが、そもそも酸素は地球上の生物が作り出したものです。生物が大型に進化できたのは、酸素をエネルギー源にできるようになったためだとも考えられています。ですから生命が酸素を作り、オゾン層を生み出して、その結果、自身がさらに進化するという見事なシステムが完成したんですね。