「アルマ2」計画の推進について

アルマ望遠鏡は、2021年に初期科学運用の開始から10周年を迎えました。この間、惑星の誕生や銀河の初期進化、宇宙の有機分子探査をはじめとしてさまざまなテーマで多くの観測成果をあげてきました。これらアルマ望遠鏡による成果や天文学全体の進展を背景として、国立天文台は、2020~2030年代に挑むべき次の科学目標とそのために必要なアルマ望遠鏡の機能強化についての議論を、国内外の研究者コミュニティと協力して行ってきました。その結果は「アルマ望遠鏡将来開発ロードマップ」としてまとめられており、これと整合してアルマ望遠鏡の科学運用を継続しながら機能強化を行う計画を、日本では「アルマ2」計画と呼びます。

ALMA's world at night

Credit: ESO/B. Tafreshi (twanight.org)

 

アルマ2計画では、以下の3つの新たな科学目標を掲げます。

【科学目標1】地球型惑星形成領域における惑星系形成過程の理解

アルマ望遠鏡は多くの原始惑星系円盤を高解像度で撮影し、その構造の普遍性と多様性を明らかにしてきました。また、最も地球近傍にある原始惑星系円盤を持つ星であるうみへび座TW星の円盤において、地球軌道サイズまで描き出すことに成功しました。アルマ2では、解像度を向上させることにより、より遠方の原始惑星系円盤を詳細観測し、地球軌道サイズが分解できる天体数を約100倍に増加させます。多数の原始惑星系円盤で、地球型惑星形成領域を含む円盤の全域にわたって惑星材料である塵の成長場所や円盤構造を作り出す惑星の重さと存在場所を突き止め、惑星系の形成過程を明らかにすることを目指します。

 

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アルマ望遠鏡が観測した若い星うみへび座 TW 星の周囲の塵円盤。中央の拡大図では、地球軌道スケールの隙間が写し出されています。うみへび座 TW 星は、原始惑星系円盤を持つ星としては地球にもっとも近い距離(175 光年)にあります。アルマ 2 計画によって解像度を向上させることで、多くの原始惑星系円盤で地球軌道スケールの構造を描き出すことを目指します。
Credit: S. Andrews (Harvard-Smithsonian CfA), ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

 

【科学目標 2】 惑星系誕生過程での生命素材物質の理解の飛躍的前進

アルマ望遠鏡は、原始星の周辺や原始惑星系円盤において、メタノールをはじめとする有機分子の検出に成功しました。アルマ2計画では、解像度と感度を向上させることで、原始惑星系円盤内での有機分子の検出にとどまらず、生命素材物質の分布と進化を明らかにすることを目指します。また円盤内での重水素存在比の空間分布を明らかにし、水の起源に迫ります。はやぶさ2などの探査機で行う太陽系内始原天体での水や有機分子の探査、可視赤外線観測による太陽系外惑星大気での生命の兆候探査と組み合わせ、アルマ2は地球外生命探査という人類の究極的な課題に挑む上での基本的知見を与えることを大きな目標としています
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【科学目標 3】 宇宙における元素合成の開始地点の探究

アルマ望遠鏡が宇宙年齢5億年の時代に酸素を検出したことで、さらにその2億年前に最初の星が誕生したことが示唆されました。これは、宇宙初期の新しい探針として酸素輝線が有望であること、宇宙年齢3億年(赤方偏移z=15)が銀河形成史において極めて重要な時期であることを示す結果です。アルマ2では、感度向上と観測周波数帯域の拡大によって遠方銀河の検出効率を1桁以上向上させ、この時代の銀河の直接検出を目指します。具体的には、宇宙誕生後約3億年で発生したとされる第一世代星の超新星爆発で放出された酸素を直接捉え、最初の星形成の時期を精度よく求めることで、宇宙における元素合成の開始地点を特定することが目標です。
これらの科学目標を実現するため、アルマ2計画では、アルマ望遠鏡に比べて感度を約2倍、空間解像度を2倍以上、同時観測可能な周波数帯域を2倍以上に拡張します。具体的には、アルマ望遠鏡のアンテナや施設を活用し、アンテナに搭載されている受信機とデータを処理する相関器の高機能化や、データ処理技術の向上などによって、これらの機能強化を実現します。そのための研究開発は順調に進んでおり、国立天文台先端技術センターではアルマ2計画に必要な高感度・広帯域受信機の実証実験にすでに成功しています(注:参考:2021年7月8日発表のプレスリリース「世界初!宇宙空間の多くの分子からの電波を同時に受信するシステムの開発に成功 ―宇宙の進化や星・惑星が形成されるメカニズムの解明に向けて―」)。また高解像度化についても、試験観測では目標値に迫る解像度が実験的に達成されています。
この計画は、天文学のみならず広く学術コミュニティから強い支持を受け、日本学術会議の提言「第24期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2020)」において「重点大型研究計画」に選定されたのに続き、文部科学省「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップの策定 -ロードマップ2020- 」に掲載されました。

 

アルマ望遠鏡は国際共同運用を行っており、機能強化計画には世界の研究者コミュニティが合意しています。機能強化計画の策定にあたっては、科学者コミュニティの代表らからなる国際ワーキンググループやアルマ科学諮問委員会、多くの研究者が参加したワークショップ等での議論を経て、科学目標、開発項目とその優先順位について、合意が得られています。その結果は、「アルマ望遠鏡将来開発ロードマップ」としてまとめられています。日本アルマ2計画は、このロードマップに完全に整合する計画として実施します。

アルマ2計画の提案者である常田佐久 国立天文台長は「アルマ2計画が各所で高い評価を受けていることをうれしく思います。アルマ2計画の研究テーマは、宇宙における私たちのルーツに迫る取り組みといえます。国立天文台は、科学研究と技術開発の両面でアルマ2計画を強力に推進し、天文学の一分野にとどまらない人類普遍の真の知的財産を生み出すことを目指します。」と語っています。

また、東アジア・アルマプロジェクトマネージャのアルバロ・ゴンサレス 国立天文台教授は「アルマ2は、日本におけるアルマ望遠鏡プロジェクトの第2段階です。アルマ望遠鏡を新たな科学的目標に向けてアップグレードすると同時に、研究者コミュニティが画期的な研究計画を継続して実施できるよう、科学観測を続けます。文部科学省の権威ある「ロードマップ2020」に本プロジェクトが掲載されたことは、素晴らしいことです。私たちは、アルマ 2プロジェクトの新たな枠組みの下で、日本の研究者コミュニティに貢献し、望遠鏡の性能と機能を向上させ、高い生産性を維持するために今後も最善を尽くしていきます。」と語っています。

今後とも、アルマ望遠鏡及びアルマ2計画へのご支援をよろしくお願いいたします。

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