若い銀河円盤に伝わる地震波を検出

この研究成果は、2023年12月22日にオーストラリア国立大学他からプレスリリースされたものです。詳しくは、オーストラリア国立大学のプレスリリース(英語)(https://reporter.anu.edu.au/all-stories/astronomers-detect-seismic-ripples-in-ancient-galactic-disk)をご覧ください。

オーストラリア国立大学の津久井崇史氏率いる国際研究チームは、チリ共和国にある世界最高の性能を誇る巨大電波干渉計「アルマ望遠鏡」を用いて、宇宙が現在の年齢のわずか10%だった頃の活発に星を作っている銀河BRI1335-0417の銀河内の細かなガスの動きを調べ、銀河の平坦な円盤構造に地震のように垂直に運動する振動波(銀震)が形成されていることを明らかにしました。この振動運動は外部から新たなガスが銀河に流入するか、他の小さな銀河との衝突によって生じると考えられます。どちらの場合もガスが円盤に流れ込み、星形成の原材料となります。この発見は、ガスの流入により活発に星を作り、姿を変えている銀河のダイナミックな成長を示しており、宇宙初期の銀河成長の理解の手がかりになります。

宇宙初期の銀河は、現代の銀河と比べて星を形成する速度がはるかに高いことが知られています。天の川銀河と同程度の質量を持つBRI 1335-0417は、星形成速度が数百倍にも達します。この高い星形成率を実現するために、星の材料であるガスがどのように銀河に供給されているのでしょうか?このプロセスの理解の鍵は、銀河内のガスの動きや分布を解明することにあります。電波観測では、観測者に近づくガスが発する電波(光の一種)の波長は短くなり、遠ざかるガスからの電波の波長は長くなるため(ドップラー効果)、波長の変化を分析することで銀河の中でのガスの動きを調べることができます。しかし、宇宙初期の遠方銀河でのガスの運動を詳細に測定することは望遠鏡の感度の限界により一部の銀河でしか可能ではありませんでした。赤外線で非常に明るい遠方銀河の一つであるBRI 1335-0417において、高感度、高分解能のアルマ望遠鏡観測により、近傍の銀河と同程度の詳細さで(銀河内のおよそ70の異なる場所で)ガスの運動を調べることができました。

津久井氏は、BRI 1335-0417の極めて質の高いガス運動速度データから、銀河円盤の大局的な回転運動を差し引くことで、細かいスケールの微弱な運動を分析しました。その結果、細かいスケールでのガスの速度が渦巻状のパターンを示し、ガスの分布が示す渦巻状のパターンと一致しました(図1)。これらの特徴は数値シミュレーションで調べられた銀河円盤内を伝わる地震波現象と一致しており、ガスや、他の小さな銀河が円盤に激しく衝突していることを示唆しています。回転運動は速度差が大きく、空間スケールが大きいため測定が比較的容易でしたが、地震波のような速度差が小さく、空間スケールが小さい運動の測定は困難であり、遠方銀河で測定されるのは初めてのことです。

Fig1

図1 左: BRI 1335-0417のガス分布、中:円盤に伝わる地震波による小さいスケールのガス運動。青い領域は私たちの方向に近づく運動、赤い領域は遠ざかる運動を示している。黒線は渦巻状のパターンを示している。
(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Tsukui et al.)
右:似た分布と運動が地震波を再現した数値シミュレーションでみられる。赤い領域は観測領域と同じサイズを示している。
(Credit: Bland-Hawthorn and Tepper-Garcia 2021)

さらに、ガス分布を調べると、円盤に棒状の構造が存在することが判明しました。棒状の構造は私たちの天の川銀河など一部の銀河に見られ、銀河内のガスを撹乱し中心へと運ぶ役割を果たします。BRI 1335-0417で発見された棒状構造は、これまで知られている中で最も遠いものです。また、この銀河は、知られている中で最も遠い渦巻銀河でもあります。宇宙初期における渦巻構造は珍しく、その正確な形成シナリオは未だに不明です。しかし、本研究の成果は、この渦巻構造が円盤内の垂直地震波と一致し、同じガスや他の銀河の降着イベントがこの銀河の渦巻構造を作り出したことを強く示唆しています。これらの結果は、初期銀河における渦巻構造の形成シナリオに関する新たな手がかりとなります。銀河における棒状構造と渦巻構造の起源は、宇宙の謎の一つであり、最近打ち上げられたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)もその解明に向けた探求を行っています。星の分布や運動を取得できるJWSTは、星の原材料となるガスを調べることができるアルマ望遠鏡のデータと組み合わせることで、BRI 1335-0417のような初期の渦巻円盤銀河の形成過程のさらなる理解の一助となるかもしれません。

銀河円盤内で地震波が形成される現象の理解には、今後も多くの研究が必要です。我々の住む天の川銀河内の18億個もの星の正確な位置と動きを測定することができるガイア望遠鏡は、最近天の川銀河円盤の垂直方向の振動を明らかにしました。この観測結果を理解するため、共著者の一人であるJoss Bland-Hawthorn氏とその同僚Thorsten Tepper-Garcia氏が行ったコンピューターシミュレーション(図2)は、円盤垂直波とそれに伴う渦巻状構造を示しています。このシミュレーションモデルは本研究の観測の特徴とよく似ており、観測データの解釈において重要な役割を果たしました。銀河の時間進化を観測することは不可能ですが、物理法則と観測の両方に基づくコンピューターシミュレーションは、これらの現象の正確な起源と進化の解明に役立つかもしれません。

Fig2

図2 Bland-Hawthorn and Tepper-Garciaによる円盤銀河のコンピューターシミュレーション。円盤が近くにある小さな銀河によって乱され、銀河円盤が垂直に振動する「銀震」が伝わる様子がみられる。(Credit: Bland-Hawthorn and Tepper-Garcia, University of Sydney).

論文情報

この研究成果は、Takafumi Tsukui et al. “Detecting a disk bending wave in a barred-spiral galaxy at redshift 4.4” として2023年12月22日に英国の査読付き論文誌 Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載されました。

Takafumi Tsukui, Emily Wisnioski, Joss Bland-Hawthorn, Yifan Mai, Satoru Iguchi, Junichi Baba, Ken Freeman: “Detecting a disk bending wave in a barred-spiral galaxy at redshift 4.4”, MNRAS https://doi.org/10.1093/mnras/stad3588

参考リンク

オーストラリア国立大学

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