地球のような惑星がどのようにして作られたのか、その謎を解明することは私たち生命の起源を知る上でも重要な問題です。惑星は原始星の周りを取り巻く原始惑星系円盤内で星間塵(ダスト)や星間ガスが集まって形成されると考えられていますが、いつ、どこで、どのように惑星形成が始まるのか、その最初の一歩はわかっていません。一方で惑星が円盤内で作られると、その重力によって円盤にリングのような模様ができることが知られています。実際、アルマ望遠鏡の観測では多くの原始惑星系円盤でリング構造が見つかっており、惑星存在が示唆されています。ただ惑星が作られる過程を調べるためには、まだ惑星が存在していないことが確実な円盤を詳細に調べることが重要です。しかしながら、そのような惑星の痕跡がない円盤を発見することの困難さや、その円盤を詳細に調べることの難しさから、惑星形成がどのように始まるのか、その様子はまだはっきりとはわかっていません。
そこで国際研究グループは原始星の中でも比較的若い天体、おうし座DG 星に着目し、その原始星を取り巻く円盤をアルマ望遠鏡で詳細に調べました。円盤内のダストが放つ波長1.3mmの電波強度の分布を0.04秒角という非常に高い空間分解能で観測し、円盤の詳細な構造を明らかにしました。その結果、おうし座DG 星周囲の円盤は、のっぺりとしていて比較的年を経た原始星の周囲の円盤で見られるリングのような模様がないことがわかりました。これは、おうし座DG 星の円盤にはまだ惑星が存在せず、惑星形成前夜の様子を捉えたと考えられます。
さらに波長を変えて円盤を観測し(0.87 mm, 1.3 mm, 3.1 mm)、その電波強度や偏光強度(電波の波の振動方向がどれだけそろっているかの度合い)を調べました。ダストの大きさや量の分布パターンに応じて、異なる波長の電波強度の比や、ダストにより散乱される電波の偏光強度が変わります。したがって、観測結果をダストの大きさや量の分布が様々なパターンでの観測シミュレーションと比較し、よく一致するパターンを探すことにより、惑星の材料となる星間ダストがどの程度成長しているのか、その大きさや量の分布を推定することができます。そうして、ダストの大きさは円盤の内側よりも外側(およそ40 天文単位以遠; 太陽系の海王星に相当する距離よりも少し遠く)の方が比較的大きい、すなわち惑星形成の過程が進んでいることがわかりました。これまでの惑星形成論では、内側から惑星形成が始まると考えられていましたが、今回の結果はその予想と反し、むしろ外側から惑星形成が始まる可能性を示しました。一方で、内側でもダストの大きさは小さいですが、ガスに対するダストの含有量は通常の星間空間よりも10倍程度も高いことがわかりました。さらに、これらのダストは円盤面によく沈殿しており、惑星を作る材料を溜め込んでいる段階だと考えられます。今後、このダストの溜め込みを引き金として、惑星形成を開始する可能性が考えられます。
今回の観測はアルマ望遠鏡の0.04秒角という非常に高い空間分解能に加え、3つの波長で偏光を含むダストの放つ電波を観測したことにより、可能となりました。惑星の痕跡がない「のっぺりとした円盤」でダストの大きさや量を明らかにしたのは、今回の研究が世界で初めてとなります。それにより、これまでの理論研究や、惑星形成の痕跡が見られる円盤の観測では予想できなかった惑星形成現場の新たな側面が見えてきました。本研究の意義について、国立天文台の大橋聡史特任助教は、「これまでのアルマ望遠鏡では、多様な円盤構造を捉えることに成功し、惑星の存在を明らかにしてきました。しかし一方で、『惑星形成がどのように始まるのか?』という問いには、惑星形成の痕跡がない、のっぺりとした円盤の観測が重要となります。今回の研究は、その惑星形成の初期条件を明らかにしたという点で非常に重要な成果だと考えています。」と述べています。
この研究成果は Satoshi Ohashi et al. “Dust Enrichment and Grain Growth in a Smooth Disk around the DG Tau Protostar Revealed by ALMA Triple Bands Frequency Observations”として米国学術雑誌The Astrophysical Journal (アストロフィジカル・ジャーナル)に2023年8月28日付で掲載されました(DOI: 10.3847/1538-4357/ace9b9.)。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP18H05441, JP19K23469, JP20K04017, JP20K14533, JP20H00182, JP22H01275, JP23H01227)、the RIKEN pioneering project, Evolution of Matter in the Universe、the DFG-Grant “INSIDE: The INner regions of protoplanetary disks:SImulations anD obsErvations” (project No. 465962023)、the EC H2020 research and innovation programme for the project “Astro-Chemical Origins” (ACO, No. 811312) and the PRIN-MUR 2020 MUR BEYOND-2p (Astrochemistry beyond the second period elements, Prot. 2020AFB3FX) の支援を受けて行われました。
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行うことを目的とします。