アルマ望遠鏡のアップグレード:バンド5受信機量産へ

アルマ望遠鏡の建設は現在も続いていますが、さらに能力を高めるための開発も並行して続けられています。すでに量産が行われている7種類の受信機に加えて、今回バンド5受信機(観測周波数 163~211 GHz、波長約1.4~1.8 mm)の量産が決定されました。バンド5受信機により、これまで観測されていなかった周波数帯の電波による銀河の誕生や惑星系に存在する水の研究などが可能になります。

バンド5受信機は、欧州と北米の研究機関が共同で開発・製造することになっています。受信機の心臓部は欧州南天天文台、オランダのNOVA (Netherlands Research School for Astronomy)、スウェーデンのチャルマース工科大学オンサラ天文台の協力で開発されます。一方で、多数のアンテナに搭載された受信機を同期して動作させるための高精度発振器は、アメリカ国立電波天文台が開発を担当します。この二つの部品が組み込まれて、バンド5受信機はアルマ望遠鏡に搭載されます。

バンド5受信機が受信できる周波数帯の電波をとらえることで、生まれたての銀河を観測し宇宙最初の星がいつごろ生まれたかを調べることができます。また太陽系外惑星の材料となる原始惑星系円盤を観測し、その円盤の中に水分子が存在するかどうかを調べることもできます。宇宙には大量の水分子が存在していますが、その水分子が出す電波は地球の大気に含まれる水に邪魔されてしまうため、地上から宇宙にある水分子を精密に観測するのは困難でした。きわめて乾燥しているアタカマ高地において高感度なバンド5受信機を使用することで、アルマ望遠鏡はこの困難を克服しようとしているのです。

バンド5受信機のうち最初の6台については、欧州委員会(EC)のフレームワークプログラム6(FP6)による支援を受けたオンサラ天文台とイギリスのラザフォード・アップルトン研究所、欧州南天天文台の協力で2006年から設計と開発、製造が行われてきたものです。アンテナ66台に搭載されるものと予備を含めた残り67台の製造は、NOVAとオンサラ天文台、欧州南天天文台、アメリカ国立電波天文台の協力によって今後5年をかけて行われます。

[写真1] 量産に先駆けて製造されたバンド5受信機のうちの1台。宇宙からやってきた微弱な電波はパラボラアンテナで集められ、受信機の中で電気信号に変換されます。バンド5受信機は波長1.4~1.8 mm(周波数211~163 GHz)の電波を受信できます。 Credit: Onsala Space Observatory/Alexey Pavolotsky

[写真2] 受信機のチューニングに欠かせない高精度発振器と電気回路を搭載したウォーム・カートリッジ・アセンブリ(WCA)。アメリカ国立電波天文台で開発されたものです。 Credit: NRAO/AUI/NSF

[写真3] ウォーム・カートリッジ・アセンブリの中で重要な役割を果たしている増幅器。アメリカ国立電波天文台により設計され、BAE Systems社で製造されたものです。市販の増幅器は100 GHzまでしか対応していませんが、それを超える高い周波数の電波を増幅するために開発されました。 Credit: NRAO/AUI/NSF

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