アルマ望遠鏡の観測可能周波数帯が、さらに広がります。欧州と北米が主導して開発・量産していたバンド5受信機(観測周波数163~211 GHz、波長では1.4~1.8 mm)がアンテナに搭載され、初観測に成功したのです。この周波数帯は、たとえば宇宙に漂う水分子からの電波を探るのに有用であるため、バンド5受信機の稼働によってアルマ望遠鏡がさらに幅広いテーマの天文学に貢献できると期待されています。
アルマ望遠鏡では30~950 GHzの観測周波数帯を10に分け、それぞれに最適化した受信機を開発しアンテナに搭載しています。周波数の低いほうからバンド1、バンド2、という名前が付けられ、最も高い周波数帯はバンド10です。このうち日本はバンド4,8,10の3つの周波数帯の受信機を開発し、その各受信機について全アンテナに搭載するための66台+予備7台の計73台を量産しました。これらの受信機はすでに科学観測に供されています。今回ファーストライトを迎えたバンド5受信機は、スウェーデンのチャルマース工科大学オンサラ天文台が中心になって開発し、オランダの天文学研究組織NOVA (Netherlands Research School for Astronomy)と米国立電波天文台との協力で量産されたものです。またチリ現地でのバンド5受信機の組み込みに際しては、国立天文台のスタッフも貢献しています。
バンド5受信機の観測周波数帯で特筆すべきは、水分子が出す電波(波長1.64mm)が含まれることです。水は地球大気にも含まれるため、宇宙にある水分子からの電波を観測するには高地や乾燥した場所でなくてはいけません。この点でアルマ望遠鏡の立地はほかの望遠鏡に比べて大きな利点になります。さらにアルマ望遠鏡の高い感度と解像度を活かして、さまざまな天体における水分子の分布を描き出せると期待されています。
欧州のアルマ望遠鏡プログラムサイエンティストのレオナルド・テスティ氏は、バンド5受信機の重要性を次のように語っています。「バンド5受信機によって、我々が知る生命誕生の必要条件である水を、太陽系内、天の川銀河内、そしてその外において検出することが容易になるでしょう。また遠方宇宙での電離炭素からの放射も観測可能です。」
新しい受信機の性能を確認するための試験観測では、衝突銀河アープ220の中心部、天の川銀河中心近くの星形成領域いて座B2、年老いて超新星爆発に近づく星おおいぬ座VY星などが観測されました。試験観測では一部のアンテナに搭載されたバンド5受信機だけが使われましたが、今後より多くのアンテナに搭載されたバンド5受信機を使って世界中の研究者がさまざまな天体を観測することになっています。新しい成果にぜひご期待ください。
【画像2】アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で撮影した衝突銀河アープ220の中心部の様子。
アルマ望遠鏡バンド5受信機で得られた電波放射の分布を赤で示しています。
Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/ESA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)