若い宇宙の早熟な銀河:131億年前の銀河に塵を発見

アルマ望遠鏡と欧州南天天文台VLTの観測により、最も遠方にある銀河のひとつであるA1689-zD1から初めて塵が検出されました。ビッグバン後わずか7億年後の段階で塵が検出されたことは、この短期間に銀河の急速な進化が起きた証です。

コペンハーゲン大学のダラック・ワトソン氏が率いる天文学者のチームは、VLTに取り付けられた観測機器「X-シューター」とアルマ望遠鏡を用いて、これまでに見つかった最も若く、また最も遠い銀河のひとつを観測しました。その結果、この銀河が予想よりはるかに進化の進んだものであることがわかりました。私たちの住む天の川銀河のような非常に成熟した銀河と同じくらいの塵が含まれていたのです。こうした塵は星や惑星の形成、複雑な分子の形成の助けになるため、生命の存在の基礎にもなっています。

彼らが観測のターゲットとしたのは、A1689-zD1と呼ばれる銀河です[1] 。この銀河と地球の間には巨大な銀河団Abell 1689があり、重力レンズ効果によってA1680-zD1の明るさが9倍に増幅されています。重力による増幅がなければ、このかすかな銀河からの輝きを検出することは出来なかったでしょう。

私たちが見ているA1689-zD1の姿は、宇宙年齢がまだ約7億歳(現在の5パーセント[2]) だった時のものです。初期宇宙に観測されている巨大で明るい他の銀河と比べると、A1689-zD1は質量も明るさも小さな銀河です。それゆえに、この時代の「普通の銀河」を見ていると考えられるのです。

A1689-zD1は、『宇宙の再電離』の最中にある銀河だと考えられます。『宇宙の再電離』とは、中性だった宇宙が最初期の星々の光によって電離され『宇宙の暗黒時代』が終わりを告げる現象のことです。この時期の銀河を観測するので、研究者たちは銀河の生まれたばかりの姿が見えると期待していましたが、予想に反して化学的にも複雑で多量の塵が捉えられたのです。

ワトソン氏は次のように語っています。「VLTを使ってこの銀河までの距離を測定した後、同じ天体がアルマ望遠鏡で観測されていたことに気づきました。多くは期待していませんでしたが、私たちはアルマ望遠鏡がその銀河を観測していただけでなく、しっかりと電波を検出していたことに気づいて、非常に興奮しました。アルマ望遠鏡の主な目標の一つは、初期宇宙の冷たいガスと塵の放射の中から銀河を見つけることでしたが、私たちはまさにそれを見つけたのです! 」

アルマ望遠鏡の観測から、宇宙の赤ん坊とも言えるこの銀河は意外にも早熟であることがわかりました。この年齢の銀河は、通常は重い元素(天文学の定義では「金属」=水素とヘリウムよりも重い元素)が少ないと予想されていました。重い元素は、星の内部で生産され、星が爆発するか、別の形で終焉を迎えるときに広範囲にまき散らされます。炭素、酸素や窒素のような重い元素が十分な量作られるためには、星が幾世代にもわたり、このプロセスを繰り返す必要があるのです。

驚くべきことにA1689-zD1は遠赤外線で非常に明るく[3]、この銀河ですでに多くの星が生まれ、それにともなってかなり多量の金属を生成していることを示しています。また塵が検出されただけではなく、ガスと塵の比率がより成熟した銀河と同程度の値を示していることもわかってきました。

ワトソン氏の説明によれば、「この銀河の塵の正確な起源ははっきりしないままですが、私たちの発見は、宇宙で星の形成が始まった後わずか5億年以内に、塵の形成が非常に迅速に起こることを示しています。ほとんどの星が数十億年の寿命を持つことを考えると、 これは宇宙的に見て非常に短い時間スケールでの出来事だといえます。」

この発見は、A1689-zD1が、ビッグバン後5.6億年が経過して以降継続的に一定の割合で星を形成し続けてきたか、あるいは非常に短い間に極端なスターバースト(爆発的星形成)の時期を迎え、その後星の形成活動が衰えたか、のいずれかの事実を示しています。

この観測結果が出るまで、天文学者たちはこうした方法で極めて遠方の銀河を検出することは不可能なのではないかと懸念していたのですが、A1689-zD1は、アルマ望遠鏡による短時間の観測で検出されたのです。

論文の共著者であるキルステン・クヌーセン氏(スウェーデン・チャルマース工科大学)は以下のように付け加えています。「この驚くほど塵に満ちた銀河は、とても急いで最初の世代の星を作ったようです。将来的にはアルマ望遠鏡によってこうした銀河をさらに多く発見でき、それらがなぜそんなに生き急いでいるのかを理解することができるようになるでしょう。」

ハッブル宇宙望遠鏡で観測された銀河団Abell 1689。A1689-zD1は右下の四角の中に位置していますが、この写真ではほとんど見えていません。
Credit: NASA; ESA; L. Bradley (Johns Hopkins University); R. Bouwens (University of California, Santa Cruz); H. Ford (Johns Hopkins University); and G. Illingworth (University of California, Santa Cruz)

この研究は、D. Watson et al. “A dusty, normal galaxy in the epoch of reionization”として、Nature誌オンライン版に、2015年3月2日付けで掲載されました。


[1] この銀河はハッブル望遠鏡の画像で先に捉えられ、非常に遠方にあると考えられていましたが、厳密な距離はその時点では確定できませんでした。

[2] この数値は赤方偏移(z)7.5に対応しています。

[3] 遠赤外線での放射は、宇宙の膨張によって地球に到達するまでの間にミリ波の波長帯に引き伸ばされるため、アルマ望遠鏡で検出することができます。

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