アルマ望遠鏡、冥王星の精密位置測定でNASAニューホライズンズ探査機をナビゲート

アルマ望遠鏡により、冥王星とその衛星カロンの位置が非常に精密に測定されました。この位置情報は、2015年に冥王星接近を予定しているアメリカ航空宇宙局(NASA)の冥王星探査機ニューホライズンズの軌道修正に活かされます。

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図. アルマ望遠鏡で観測された冥王星(中央)とその最大の衛星カロン。2014年7月11日と15日に観測されたデータを比較すると、カロンが冥王星のまわりを回っているのがわかります。この画像では、7月15日に取得された冥王星・カロンの画像に、11日に撮影されたカロンの画像を重ねています。
Credit: B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

冥王星の観測はこれまで大型光学望遠鏡を使って何十年も続けられてきましたが、探査機を確実に送り込むために天文学者は今も冥王星の位置と軌道の決定作業に取り組んでいます。冥王星は太陽から非常に遠くにあるので、位置測定の精度を高めるためにはたいへんな努力が必要です。冥王星の軌道は地球の軌道の約40倍も大きく、冥王星が軌道を一周するには248年かかります。冥王星が発見されたのは1930年ですから、これまで人類が観測できたのは冥王星の軌道の1/3にしか過ぎないのです。

「このように限られた観測データしか人類は手にしていないので、冥王星の位置には数千kmの誤差があるかもしれません。これほど大きな誤差があると、ニューホライズンズ探査機の軌道修正の計算に支障が出てしまいます。」と、ニューホライズンズ計画のプロジェクトサイエンティストであるハル・ウィーバー氏(ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所)は語っています。

NASAは、アルマ望遠鏡が測定した冥王星の位置情報と、冥王星発見時から現在までの可視光による観測データから求めた位置情報をもとに、ニューホライズンズ探査機の最初の軌道修正(Trajectory Correction Maneuver, TCM)を今年7月に行いました。適切な時期に適切な分量だけロケットを噴射することで、探査機を冥王星に向かう軌道に乗せるのです。ニューホライズンズ探査機は、冥王星接近後はさらに遠くにあるエッジワース・カイパーベルト天体の探査を予定しています。今後の探査のためにできるだけ燃料を残しておきたいので、冥王星に向けた軌道修正ではロケット燃料の消費を最小限に抑える必要があります。

そのためには、はるか彼方にある冥王星の位置を出来るだけ精密に求めておく必要があり、それには高精度な位置の基準(地上の緯度・経度の基準となる「三角点」のようなもの)を確立しておくことが欠かせません。しかしこの広い宇宙で、冥王星のような小さな天体の位置と軌道を精密に計測するための基準を見つけるのは、簡単なことではありません。一般的には、こうした基準には遠くの星々が使われます。遠くの星は、長い年月が経過してもその位置をほとんど変えないので、これらを基準にして冥王星の天球上での相対的な位置を決めるのです。しかし、星々はわずかとはいえ年々位置を変えています。ニューホライズンズ探査機を正確に冥王星まで導くためには、より高精度な位置基準が必要なのです。

人類が観測した天体のうち、最も遠くにあって最も見かけの位置が変わらない天体は、100億光年以上彼方にあるクェーサーです。こうした天体を基準にして冥王星の相対的な位置を観測すれば、より高精度な位置決定が可能です。しかしクェーサーは可視光では非常に暗いため、従来のような光の望遠鏡による位置決定が困難です。そこで、アルマ望遠鏡の出番です。クェーサーは、アルマ望遠鏡が観測可能な電波(ミリ波)では非常に明るく見えるのです。

「アルマ望遠鏡による冥王星の観測は、冥王星の位置測定の誤差をこれまでの半分にすることを目標として行われました。具体的には、J1911-2006と名付けられた非常に電波の強いクェーサーを位置の基準として使いました。」と、米国国立電波天文台の天文学者で現在チリのアルマ望遠鏡山麓施設に滞在しているエド・フォマロン氏は語っています。アルマ望遠鏡による観測では、このクェーサーの位置を基準にして、冥王星の位置を測定しました。観測では冥王星とその衛星カロンの極低温の表面から発せられる電波をとらえることができました。その表面温度はマイナス230℃にもなります。

観測チームは、冥王星の初観測を2013年11月に実施しました。そして軌道を精密に決定するために、2014年4月に1度、7月に2度の観測が行われました。さらに10月にもさらなる観測が予定されています。「地球が太陽の周りを移動するので、間隔をあけて何度も観測することで冥王星をさまざまな位置から見ることができます。これによって私たちは、冥王星までの距離とその軌道を精密に決めることができるのです。」とフォマロン氏は語っています。天文学で天体の位置を測定するには、視差が使われます。視差とは、2地点から同じ物体を見た時の見かけの位置のずれのことで、三角測量と同じ原理です。天体の位置を測る際には、地球が太陽の周りを移動することを利用して天体の見かけの位置のずれを測定し、そこから距離を計算します。

「最新鋭のアルマ望遠鏡の成果が、人類初の冥王星探査という歴史的事業を支えてくれることにたいへん興奮しています。」と、ニューホライズンズミッションの責任者であるアラン・スターン氏(サウスウェスト・リサーチ・インスティテュート)は語っています。「私たちは、ニューホライズンズ探査機のためにアルマ望遠鏡が取得してくれた素晴らしいデータと、それを実現してくれたすべてのアルマ望遠鏡チームメンバーに感謝しています。」

下の画像は、2014年7月15日に観測された、冥王星とカロンです。
Credit: NRAO/AUI/NSF

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