文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞

アルマ望遠鏡の研究者が平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 を受賞しました。受賞したのは、石黒正人、長谷川哲夫、井口聖の3名、平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 (研究部門)です。

日本独自の計画としてスタートした建設計画に初期から携わってきた石黒名誉教授は、受賞の喜びを次のように語っています。
「2013年、3月13日。この日は私にとって生涯最高の日となりました。
開所式典の最後にチリのピニェラ大統領の号令で、山頂のアンテナ群が一斉に動いた瞬間はとても感動的で、涙があふれ出るのを止めることができませんでした。また、プロジェクトを進めてきた30年間の苦難の歴史や、それをいっしょに乗り越えてきた同志の顔が走馬灯のように頭の中を駆け巡りました。
この感動がさめやらぬうちに、今度は文部科学大臣表彰という栄誉を受けることになり、大変喜んでおります。この表彰は、日本のアルマチーム全員が表彰されたものだと考えております。日本が世界の人々も驚く素晴らしい貢献を成しえたのは、優秀なメンバーが集まって、献身的な努力を惜しまなかったからです。また、幅広い日本国民の皆様の暖かい御支援の賜物でもあります。今回の喜びをこれらの方々と分かち合えればとても幸せです。」

そして現在、東アジア地域の代表を務める東アジア・プロジェクトマネージャが井口教授です。井口教授は、国際共同プロジェクトとなったアルマ計画を率いてきた経験を次のように振り返ります。
「日本は他国より先んじて 1980年代からアルマ計画の原案を検討してきたものの、計画そのものの予算上の承認を頂いたのは他の地域に比べて2年遅れでした。その中でも、アルマ望遠鏡の第一号機アンテナを我々が完成させたことは、日本の技術の結集と絶え間ない努力によるものであったと感じています。
2つの異なった口径のパラボラアンテナを上手く組み合わせる開口合成法の研究を進め、実際のアルマ望遠鏡を使った試験観測により、飛躍的に電波画像の精度を向上させることを実証できた時は本当に感動しました。」

アルマ望遠鏡の66台のパラボラアンテナのうち、多くは直径12メートルですが、日本だけがひと回り小さい直径7メートルのアンテナを開発、製造しました。電波望遠鏡は直径が大きい方が高い空間分解能を得られますが、一方でアンテナ同士を十分近づけることができず、正確な天体画像を得ることが難しいという欠点がありました。その欠点を補うべく開発されたのが、日本担当のACA(エーシーエー)です。正確な天体画像を得るために最適なアンテナの直径、台数、配置が考えだされ、直径12メートル4台、直径7メートル12台の計16台が誕生しました。今回の受賞は、このACAに関する研究とその成果が大きく評価されたものです。「この成果は今回受賞した3名だけでなく、東アジア、欧州、北米、そしてチリ共和国のアルマ望遠鏡計画に携わった皆で成し遂げたものであり、中でも今から10年以上前にACAの基本設計を行い昨年チリで亡くなった故森田耕一郎 国立天文台教授の多大な貢献無くしては達成できなかったものです。」と、受賞した3名は述べています。

現在、チリに赴任し国立天文台チリ観測所長としてプロジェクトの中枢を担う長谷川教授は、本格運用を迎えたアルマ望遠鏡に込められた期待を次のように語ります。
「アルマは21世紀の天文学を変える画期的な望遠鏡ですが、ACAはそれに広がりを持つ天体を正確に捉える力を与えることにより、アルマが天文学研究に与えるインパクトをさらに大きなものにしました。ACAが可能にした高精度の天体画像によって、惑星系の誕生や銀河の進化の姿、そして生命につながる宇宙の物質の進化のようすが、次々に明らかにされていくでしょう。」


表彰者:
・石黒 正人 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台 名誉教授
・長谷川 哲夫 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台 教授
・井口 聖 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台 教授

「高精度天体画像観測を可能にする開口合成型電波望遠鏡の研究」

業績:
天体の姿を描き出す望遠鏡の究極の姿に、多数のパラボラアンテナを組み合わせて一つの巨大な望遠鏡として働かせる開口合成型電波望遠鏡がある。この手法では、天体を高空間分解能で観測できる大きな利点があるが、一方でパラボラの直径より狭い間隔でアンテナを配置できないため、天体の広がった部分に欠落が生じ、観測された天体画像が歪むという天体の物理的状態を正確に把握する上で大きな障害があった。
本研究では、銀河の誕生、惑星系の誕生、そして生命の起源に迫る新世代天文観測装置であるアルマ望遠鏡の設計の中で、通常の開口合成型電波望遠鏡に小口径のパラボラアンテナ群を加え、これら両者のデータを結合することにより電波画像の精度を飛躍的に向上させることを検討し、最適なアンテナの口径と台数とその配列を決定した。
本研究により、これまでの天体の淡く広がった部分のデータ欠損がなくなり、画像の精度が格段に向上していることが、アルマ望遠鏡の天体試験観測の中で確認された。
本成果は、天文学に革命をもたらすアルマ望遠鏡の性能を飛躍的に向上させ、世界の多くの研究者に宇宙の神秘を解き明かす天体画像を提供することに寄与することが期待される。

主要論文:
・「The Atacama Compact Array (ACA)」、Publ. Astron. Soc. Japan, Vol.61, no.1、p1~12、2009年2月発表
・「An Optimization Method of Super-Synthesis Observation by “Number of Weighted Holes”」、Tran. IECE, J65-B, no.8、p74~83、1982年8月発表

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