アルマ望遠鏡、タイタンの大気中で有機分子の偏りを発見

アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのマーティン・コーディナー氏が率いる国際研究チームは、アルマ望遠鏡で土星の衛星タイタンを観測し、その大気の中で有機分子が大きく偏って分布していることを発見しました。タイタンの大気中には強い風が吹いているため、こうした分布の偏りはすぐに拡散してしまうと考えられてきましたが、今回の発見はそうした従来の考えを覆す成果と言えます。今回の発見は、わずか3分という極めて短い時間の観測で得られたものですが、この世界で起きる複雑な化学反応の過程を理解する糸口になることでしょう。

「今回の発見はまったくの予想外で、画期的な成果につながると思います」と、コーディナー氏は語っています。「今回発見されたような東西方向の分子の偏りは、タイタンの大気ではこれまで発見されたことがありませんでした。その原因はまだ不明で、興味深い新しい謎を私たちに投げかけています。」

タイタンは厚い大気と湖、川、海を持ち、太陽系の中でもっとも地球に似た天体であると言えます。しかしその極寒の表面にあるのは水ではなく、メタンやエタンのような有機分子の液体です。またタイタンの大気は、太陽光と土星の磁場のエネルギーによって多彩な有機分子が作られていることから、「天然の化学工場」として長く研究者の興味を引き付けてきました。現在のタイタンの大気は、生まれて間もないころの地球の大気と化学的な特徴が似ていると考えられており、地球の歴史を探るうえでも重要なターゲットなのです。

今回研究チームは、アルマ望遠鏡の高い感度と解像度を活かし、タイタンの大気におけるシアン化水素(HCN)の異性体HNCとシアノアセチレン(HC3N)の分布を調べました。シアノアセチレンは、全体としてはタイタンの北極と南極上空に集まっているように見えました。これは、タイタンではある種の分子が極地方の上空に濃集しているというNASAの土星探査機カッシーニによる観測結果と一致します。

驚きの結果が現れたのは、研究者が地表高度による分子ガスの分布の違いを調べた時でした。もっとも上層(地表から300km以上)の大気では、シアノアセチレンの濃集が両極上空から少し(緯度にして約25度)ずれたところで起きていたのです。またHNC分子も、シアノアセチレンと同様に上層大気では両極上空からずれたところに集まっていることがわかりました。タイタンの大気中では東西方向に秒速60mという強い風が吹いているため、これまでは分子の分布の偏りが発生したとしてもすぐに均一化されていると考えられていました。今回の発見は、まったく予想外だったのです。

研究チームの一員でNASAゴダード宇宙飛行センターの惑星科学者コナー・ニクソン氏は「強い風が吹いている中でこうした分子の分布の偏りができるということは、その分子の形成がとても短いタイムスケールで起きていることを示しており、非常に驚くべきことです。風によってこうした偏りはなくなってしまうと私たちは考えていましたから。」とその驚きを述べています。

今回の発見は、アルマ望遠鏡にとって太陽系主要天体の大気を対象とした初めての観測成果となります。タイタンをはじめとする太陽系天体の大気をよりよく理解するために、さらなる観測も期待されています。

「アルマ望遠鏡の観測から、生命の構成要素となるような有機分子の形成と変動の様子が明らかになると考えられます。」と、米国立電波天文台のアンソニー・レミジャン氏は語ります。「太陽系の他の興味深い天体についても、アルマ望遠鏡がその新たな姿を明らかにしてくれるだろうとワクワクしています。」

この研究は、M. Cordiner et al. “ALMA Measurements of the HNC and HC3N Distributions in Titan’s Atmosphere”として、2014年10月22日発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。

下の画像は、アルマ望遠鏡がとらえた土星の衛星タイタンの大気中のHNC分子(左)、上層大気におけるHC3N分子(中央)、低層-中層大気におけるHC3N分子(右)の分布です。
Credit: NRAO/AUI/NSF; M. Cordiner (NASA) et al.

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