アルマ望遠鏡が明らかにした遠方銀河の活発な星形成

概要

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のJohn D. Silverman (ジョン・シルバーマン) 特任助教らの研究グループは、南米チリのアタカマ高原にあるアルマ望遠鏡やフランスのビュール高原にあるビュール高原電波干渉計 (PdBI) といった電波望遠鏡を用い、遠くの宇宙にある7つのスターバースト銀河の観測を行いました。その結果、遠方のスターバースト銀河の環境が、激しい星形成が起きている近くのスターバースト銀河と似ていることが分かりました。この結果から、昔の宇宙でも現在と同じような環境下で爆発的な星の形成が起きていた可能性が示されました。

図1
画像を拡大する (jpg)

衝突し、爆発的に星形成が起きている銀河の例 Zw II 96。今回アルマ望遠鏡ではこの天体よりもずっと遠方で活発に星を作っている銀河を観測した。
Credit: NASA, ESA, the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration and A. Evans (University of Virginia, Charlottesville/NRAO/Stony Brook University)

研究の背景

銀河では時折、スターバーストと呼ばれる爆発的に星が作られる現象が起きます。こうした爆発的な星の形成が起きている銀河のことをスターバースト銀河と呼び、銀河の進化に重要な役割を果たしていると考えられています。我々の近くにあるスターバースト銀河では、ガスが星へと変換される効率が高いことが知られており、通常の銀河での星の形成とは違ったメカニズムを示している可能性があります。また宇宙の歴史を辿ると、従来の研究から銀河における星の形成は、90億年前に最も盛んだったことが知られています。しかし昔の宇宙でも、近くのスターバースト銀河で起きているようなガスから星への高い効率での変換が起きていたかどうか、あるいは昔の宇宙では充分すぎるほどのガス供給があったために活発な星形成がおきていたのかどうかなど、爆発的な星形成が引き起こされる物理的メカニズムは完全には明らかになっていません。星形成を盛んにするような環境がどのようなものかを調べ理解することは銀河の進化の過程を理解する上で重要です。

本研究について

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のJohn D. Silverman (ジョン・シルバーマン) 特任助教らの研究グループは、南米チリのアタカマ高地にあるアルマ望遠鏡とフランスのビュール高原にあるビュール高原電波干渉計 (PdBI、注1) の二つの電波望遠鏡を用いて、星形成の盛んな遠くにある7つの銀河が放つ一酸化炭素分子ガスの電波を観測しました。観測した7つの銀河はCOSMOSフィールド (注2) と呼ばれる天域において赤外線宇宙望遠鏡ハーシェルが行った観測で見つけられた星形成の盛んな銀河です。さらにその一部は、ハワイのすばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器FMOS (注3)を用いて2014年に近赤外領域での観測も行っています。FMOSの観測では、分光で得られる正確な赤方偏移 (注4) の値や星が作られる割合 (星形成率) 、金属量を測るのに用いられる水素原子や窒素原子、酸素原子それぞれから出される輝線を得る事が出来ました。

図2
画像を拡大する (png)

画像2. 左:アルマ望遠鏡で得られたPACS-867銀河における一酸化炭素ガスの分布図。星形成の行われている外へも分子ガスのかたまりが分布している。
中央:ハッブル望遠鏡の高性能カメラACSを用い得られたPACS-867銀河の画像。銀河の合体の結果、大きくかき乱された構成物中に存在する若い星から発せられる紫外線を示す。左図のガス分子の位置(青の等高線)とダストに包まれ新しい星が作られている場所が重なる。
右:スピッツァー望遠鏡で得られたPACS-867銀河の赤外画像(3.6ミクロン)。ダストにつつまれた星と分子ガスとの関連を示す。
Left image credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman (Kavli IPMU), Center image credit: NASA/ESA Hubble Space Telescope, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman (Kavli IPMU), Right image credit: NASA/Spitzer Space Telescope, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman (Kavli IPMU)

観測結果の解析から、今回観測した遠方のスターバースト銀河では、一酸化炭素分子ガスの量はすでに減少していたものの高い星形成率を保っており、期待されるほど早いガス量の減少はないものの、近くのスターバーストと似た状況を示していることが分かりました。この結果はつまり、昔の宇宙でも現在と似た環境下で爆発的な星形成が起きていた可能性を示したことになります。今回の研究成果はあらゆる望遠鏡を用い得られた結果ですが、なかでも遠方の銀河に存在するガスや塵の密度が特に高い部分 (分子雲 注5) を詳細に調べる事のできる、アルマ望遠鏡の能力を生かし得られたものです。

John D. Silverman特任助教は成果について「これらの観測は、高赤方偏移銀河の重要な性質を容易に観測できるアルマ望遠鏡の持つ特殊な能力を明確に示すもので、 今回の成果はアルマ望遠鏡によりもたらされた注目すべき結果です」と述べています。

今後、アルマ望遠鏡を用いた電波による観測とFMOSを用いた近赤外線による観測の両面から、遠方のスターバースト銀河をさらに調べることで、過去の宇宙においてどのような環境下で爆発的な星形成が起きていたのかをより詳細に明らかにし、過去から現在に至るまでの銀河の進化に迫ることが期待されます。

[注1] ビュール高原電波干渉計 (Plateau de Bure Interferometer:PdBI)は、フランスにあるビュール高原の標高2550mに位置する口径15mのパラボラアンテナ7台から構成されたミリ波電波望遠鏡。ミリ波電波天文学研究所(IRAM)が運営しています。2014年から2019年の完了を目指しNOEMA (NOrthern Extended Millimeter Array) としてアップグレードが行われています。

[注2] COSMOS フィールドは、ろくぶんぎ座付近にある天域のことです。宇宙進化サーベイ (Cosmic Evolution Survey) のプロジェクトは、この天域をすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡など様々な観測装置で且つ様々な波長で観測することにより銀河の形成や進化の謎に迫ろうとしています。

[注3] FMOS (Fiber Multi-Object Spectrograph)は、ハワイのマウナケアに位置するすばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器です。400本の光ファイバーを用い多数の天体を同時に近赤外線で分光観測できます。

[注4] 物体からの光が、観測者から見て遠ざかるような運動によって波長が引き延ばされる現象。宇宙は膨張しているため、遠くの天体ほど我々から遠ざかる速度は早く、赤方偏移の値は大きくなります。つまり、赤方偏移の値が大きい天体を観測するということは、遠くのより昔の宇宙の天体を観測していることになります。

[注5] 分子雲は、ガスや塵の密度が特に高い部分です。主成分である水素分子のほか一酸化炭素やアンモニアをはじめとした炭素や窒素、酸素などからなる分子も存在することが分かっており、星が生まれる上での材料となります。分子雲は可視光を遮ってしまうため、分子雲で星が作られていく様子の観測には赤外線や電波が用いられます。

論文

この研究成果は、Silverman et al. “A higher efficiency of converting gas to stars pushes galaxies at z~1.6 well-above the star-forming main sequence” として、2015年10月発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
上図を拡大する
アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA, “アルマ望遠鏡”)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

NEW ARTICLES