この研究成果は、2016年6月20日に東京大学より主導発表されたものです。詳しくは、東京大学大学院理学系研究科のプレスリリースをご覧下さい。
星間空間で形成された有機物がどのように太陽系にもたらされたかは、太陽系および地球環境の起源を理解する上で一つの謎です。これまで炭素鎖分子のような特殊な有機分子が惑星系形成領域の手前まで存在していることがいくつかの原始星で示されていましたが、より一般的な大型有機分子の分布については不明でした。東京大学大学院理学系研究科大学院生の大屋瑶子さん、理化学研究所准主任研究員の坂井南美さんらを中心とする日仏の共同チームは、アルマ望遠鏡の観測データを解析し、太陽程度の質量をもつ若い原始星IRAS 16293-2422 Aの周りに、半径50天文単位の大型有機分子の回転リングを発見しました。これは、原始星に向かって落下してきた星間ガスと、形成されつつある惑星系円盤の境界面にあたります。星間空間で形成され星間塵に蓄えられた大型有機分子が、蒸発してきたものとみられます。この結果は、星間空間起源の大型有機分子が惑星系に供給されていることを示す直接的な証拠です。同時に、惑星系にもたらされる有機分子が原始星によって異なることがわかりました。このことは、宇宙における太陽系の普遍性・特殊性の議論に化学組成という新しい視点が必要であることを示すものです。
この研究成果は、Oya et al. “Infalling-Rotating Motion and Associated Chemical Change in the Envelope of IRAS 16293-2422 Source A Studied with ALMA”として、2016年6月20日発行の米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。
この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
大屋瑶子(東京大学)、坂井南美(理化学研究所)、渡辺祥正(東京大学)、Cecilia Ceccarelli (Universite Grenoble Alpes/CNRS), Bertrand Lefloch (Universite Grenoble Alpes/CNRS), Cécile Favre (Universite Grenoble Alpes/CNRS), 山本智(東京大学)
下は、原始星付近のガスの化学組成の模式図。左図は大型有機分子が豊富な天体 (IRAS 16293-2422 A)、右図は炭素鎖分子が豊富な天体 (L1527) での分子の分布を表します。ガスに含まれる分子の種類が、天体によって大きく異なることがわかります。また各天体の中でも、エンベロープから原始星円盤にかけて、 ガスの化学組成が劇的に変化しています。エンベロープガスと原始星円盤の境界面に、それぞれギ酸メチル(HCOOCH3)のような有機分子と一酸化硫黄分子 (SO) の回転リングが存在すます。このような化学組成は、太陽系の物質的起源を考える上で、新たな要素として注目されつつあります。
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