原始惑星系円盤形成の謎を解く

中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)のIndrani Das氏がリードする国際チームが、星形成コアから落下するガスが原始惑星系円盤に徐々に流れ込んでいく様子を初めて明らかにしました。数値計算とアルマ望遠鏡による観測を組み合わせた研究成果は、学術雑誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。

(この記事は、2026年4月15日にASIAAから発表されたニュースに基づくものです。)

高密度の分子雲コアが重力崩壊をして生まれてくる若い星の周囲には、原始惑星系円盤が作られます。外側を包み込む「エンベロープ」と呼ばれる領域から、中心の星と円盤にガスと塵(ちり)が供給されます。円盤の中で最終的に生まれる惑星は恒星の周囲をケプラー運動しますが、エンベロープから流入してくるガスが円盤に取り込まれてケプラー運動を始めるメカニズムは、謎として残っていました。

ASIAAの博士研究員Indrani Das氏らによる最近の研究で、若い恒星を取り巻くエンベロープ‐円盤の系に、明確な遷移領域が初めて見出されました。Das氏はこの領域を「 ENDTRANZ (Envelope Disk Transition Zone)」と名付けています。理論的・観測的な証拠によって、外側から落下するガスの運動がある領域で徐々にケプラー運動に遷移することが特定されたのです。従来の力学モデルでガスの運動が急激に変化すると考えられてきたのとは全く対照的な発見です。

「ENDTRANZの存在は、若い恒星の周りで円盤が形成される間に質量と角運動量が再分配されることの帰結です。ケプラー回転よりもゆっくりと回転しているエンベロープから流入するガスが、どのように円盤状に広がって、整然としたケプラー回転に従っていくのかを決める過程なのです。」Das氏は、ENDTRANZの発見が、太陽系をはじめとする恒星とその周りの惑星系の形成を理解する重要なステップであることを強調しています。

Fig1

図 1:ENDTRANZの概念図。エンベロープと円盤の境界で、外側から落下するガスの運動が原始惑星系円盤のケプラー回転に徐々に遷移していく領域が、赤い帯状の環で示されている。数値計算で得られた比角運動量の2次元分布を生成AIでイラストとして可視化している。(クレジット:Indrani Das/ASIAA)

 

ENDTRANZの物理状態を解明するために、研究チームはまず数値シミュレーションを実行しました。星を含まない分子雲コアの重力崩壊から恒星‐円盤系の形成までをモデル化するFEOSADコードを用いた計算の結果、回転しながら落下するエンベロープから回転円盤に遷移する領域で、比角運動量の距離分布に幅を持った「ジャンプ」が生じることが示され、研究チームはこれこそENDTRANZの力学的な証拠だと判断しました。比角運動量(単位質量辺りの全角運動量)は、物質がどれほどの速さでどれほど遠くを公転しているかを質量にかかわらず示せる値で、収縮する分子雲の運動を示すのに有効です。

共同研究者であるカナダ理論天体物理学研究所のShantanu Basu氏は、「ENDTRANZの目印となるこの指標から、回転速度が徐々に変化することで現れ、円盤の進化を促進している物理過程を診断することができます」と説明しています。

Fig2

図2:全体的に収縮する分子雲コアのシミュレーション結果から、回転速度と比角運動量(左右の縦軸がそれぞれの目盛)の変化を、恒星からの距離(天文単位、au)を横軸として示した図。オレンジ色で示された領域がENDTRANZに相当し、破線と点線がその外縁・内縁を示している。(クレジット:Indrani Das/ASIAA.)

 

シミュレーション研究の示唆を得た上で、研究チームは地球から450光年の距離にあるおうし座分子雲中の原始星L1527 IRSを調査しました。この原始星は半径約70天文単位の円盤を伴っています。アルマ望遠鏡の高分解能を活かした大規模観測プログラム「eDisk(Embedded Disks in Planet Formation:惑星形成中の埋もれた円盤)」の観測データから、L1527 IRS周囲で、シミュレーションとよく似た比角運動量分布の「ジャンプ」が初めて確認されたのです。16天文単位の幅にわたるこのジャンプは、エンベロープ‐円盤の間の遷移領域の観測的証拠であると言えます。

「観測結果とシミュレーションがそれぞれ示している比角運動量の距離依存性を注意深く比較調査して、原始星L1527 IRSの周りに ENDTRANZ が存在する証拠にたどり着きました」と説明するのは、本研究の共同研究者でアルマ望遠鏡の大規模観測プログラムeDiskの研究代表者でもあるASIAAの大橋永芳氏です。

Fig3

図3:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡搭載の近赤外線カメラNIRCamで撮影された若い原始星系L1527 IRSの画像(左)と、アルマ望遠鏡大規模観測プログラムeDiskで観測されたガスの運動を示す図(右2枚)。右図の(a)は比角運動量、(b)は回転速度の半径分布を、私たちに向かう前後方向の速度(青方偏移、赤方偏移)を持つ成分ごとに表示している。オレンジ色で強調された領域で、比角運動量の距離分布にジャンプが見られ、回転しながら落下するエンベロープのガスがケプラー回転する円盤に取り込まれていく遷移領域ENDTRANZの証拠とみなされる。(クレジット:(左) NASA, ESA, CSA, STScI; (右)Indrani Das/ASIAA.)

本研究でENDTRANZの存在が明確に示されたことで、複雑な物理現象をさらに深く探査し、若い恒星系に同じような兆候を探していくことが可能になり、星・惑星系形成の研究に新たな扉を開くものとなるでしょう。「様々な面で、この研究は始まったばかりだと思います。」Das氏はそう語っています。

この研究成果は、Das, I. et al. “Modelling the Break in the Specific Angular Momentum within the Envelope-Disk Transition Zone”として Astrophysical Journal誌に2026年4月15 日付で掲載されました。
DOI: 10.3847/1538-4357/ae4725

– 研究チームは以下の各氏で構成されています。
Indrani Das(中央研究院天文及天文物理研究所、台湾)
Shantanu Basu(カナダ理論天体物理学研究所、カナダ)
Nagayoshi Ohashi(中央研究院天文及天文物理研究所、台湾)
Eduard Vorobyov(インスブルック大学、オーストリア)
Yusuke Aso(韓国天文研究院、韓国)

– 共同発表機関
中央研究院天文及天文物理研究所、カナダ理論天体物理学研究所、インスブルック大学

関連リンク
Unveiling the Mystery of Protoplanetary Disk Formation Around Young Stars(ASIAA)
CITA, Canada
University of Innsbruck : Newsroom

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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