標高5000mにおけるアンテナ3台干渉計観測に成功

革新的な天文観測装置であるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計 (ALMA) は、その成功の鍵を握る高品質画像の生成に極めて重要となる大きなマイルストーンを達成した。チリ北部にある標高5000メートルのALMA観測サイトで天文学者と技術者で構成されるチームが3台のアンテナを結合させることに成功した。アンテナ3台の干渉計で初めて観測を行なった結果、ALMAアンテナを2台しか使わなかった場合に発生するエラーを修正することができた。これによって、史上最高レベルの解像度で低温の宇宙を正確に撮像するための道が開かれた。


2009年11月20日、ALMA観測所にとって3台目となるアンテナが無事に山頂施設(標高5000メートルのアンデス山脈のチャナントール平原に位置するALMAの高地サイト)に設置された。複雑な技術試験終了後、天文学者と技術者たちは結合された直径12メートルのアンテナ3台すべてを使って天体からの最初の信号を観測することに成功した。

標高5000mにおけるアンテナ3台干渉計観測に成功

標高5000mのALMA山頂施設に設置された3台のパラボラアンテナ
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

東アジアのプロジェクトマネージャ、井口聖は次のようにコメントをしています。「3台のアンテナで共通の天体を観測し、それぞれのアンテナ間でフリンジを検出したことはアルマシステム設計検証にとって非常に大きなことである。2台だけではどちらのアンテナ側が悪いのか判定することはできないが、3台あればそれぞれのペアを比べることでアルマシステム全体の性能を調べることができる」。

アンテナ3台の干渉計の成功は、現在ALMAへの搭載作業が進められている電気・ソフトウェアシステム全体の重要な試験であったばかりでなく、この成功は観測所の将来的な能力を予見させるものである。完成時、ALMAは66台以上の高性能アンテナを結合した干渉計として運用され、ミリ波・サブミリ波の波長で宇宙を探査する巨大な1つの望遠鏡として機能する。各アンテナで受信した信号の合成は、目標とする観測波長において 世界最高レベルの高品質の天体画像を取得するために必要不可欠なものである。

アンテナ3台の干渉計は、本格的なALMA運用に向けた重要な第一歩である[1]。2009年10月に2台のアンテナを使って行なわれたALMA高地サイトでの最初の測定によって装置の優れた性能は実証されていたが、3台のアンテナでの成功は観測所の将来にとって極めて重要な前進となる。

この極めて重要な目標を達成するために、天文学者たちは遠方の銀河系外天体が発する光、クエーサー 1924-292(天文学者の間ではALMAで観測するミリ波・サブミリ波を含む長い波長の輝線を持つことでよく知られている)を観測してきた。この天体から測定された信号の安定度は、3台のアンテナが非常に良好に機能していることを示している。

「3台のアンテナの干渉試験により見事に大気の揺らぎを相殺した結果が得られたことから、アルマシステムの設計概念が正しかったことを実証することに我々は成功した」と東アジアのプロジェクトマネージャ、井口聖はコメントしている。「待ちに待ったALMA が 5000m のサイトで本格的に始動した。今はまだ3台だが、16台のアンテナが集まれば既存の電波望遠鏡に比べ10倍程度もの感度が向上する。我々に新たな天体ショーを見せてくれるのも、もうすぐである」。

[1] 天文学では、1つの干渉計で3つ(以上)の素子を使用することを「closure phase」と呼ぶ。この技術は1958年に英国の電波天文学者Roger Clifton Jennisonによって初めて紹介され、1970年代半ば以降、天体干渉計において広く適用されるようになり、電波、赤外線、可視光の波長での高分解能天体画像の生成に利用されている。


干渉計観測の時のアンテナ


干渉計観測の時のアンテナ Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)

干渉計観測の時のプロット。横軸は時間(単位は秒)、縦軸は信号の位相差(単位はラジアン)。3台のアンテナの「closure phase」がゼロになっていることによって、干渉計システムとして間違いなく動作していることが検証できた。

干渉計観測の時のプロット。横軸は時間(単位は秒)、縦軸は信号の位相差(単位はラジアン)。3台のアンテナの「closure phase」がゼロになっていることによって、干渉計システムとして間違いなく動作していることが検証できた。

アルマについて

アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ)は、東アジア、ヨーロッパ、北米がチリ共和国と協力して建設する国際的な天文施設であり、国立天文台(NAOJ)は、東アジアのアルマ計画の執行機関です。世界最大の天文プロジェクトであるアルマは、ミリ波サブミリ波を受信する直径12メートルと7メートルのアンテナ66台以上で構成される革新的な望遠鏡です。ALMAは2012年に本格運用を開始する予定です。

アルマについて詳しくは、ALMA観測所(ALMA observatory) (英語・スペイン語のみ)をご覧ください。

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