アルマ望遠鏡が発見した、赤ちゃん星を包む大きな温かい繭

南米チリのアルマ望遠鏡による観測から、生まれたばかりの若い星のまわりに温かく巨大な分子の雲が見つかりました。この温かい雲は、太陽程度の質量をもつ若い星のまわりにこれまで見つかっていた典型的な雲よりも10倍以上大きく、この若い星が特殊な状況にあることを示しています。この結果は、星が誕生する過程がこれまで考えられていたよりも多様であることを示唆するものとして注目されます。この成果は、2013年9月20日発行の天文学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル・レターズに掲載されました。


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図1.今回発見された赤外暗黒星雲MM3に含まれる原始星周囲の想像図。原始星を繭のように温かいガスが取り巻き、極方向に分子流が噴き出している。
Credit: 国立天文台
図1の高解像度版 (JPEG/ 3.7MB)

太陽のような星は、宇宙に浮かぶ極低温(マイナス260℃程度)のガスや固体微粒子が重力によって集積することで作られます。こうした星の材料が特に高密度に集まった領域を「赤外線暗黒星雲()」と呼び、そこは星団が生まれてくる現場だと考えられています。星はその大部分が星団の一員として生まれてくると考えられているため、赤外線暗黒星雲を詳しく探ることは、夜空に輝く星の多くがどのようにして生まれてくるのかを調べることに繋がります。

このような星雲の中で生まれたばかりの星(原始星)のまわりには、その星の母体となったガスや固体微粒子が繭のように分布しており、星が発する光によって徐々に温められていきます。原始星を取り囲むこのような温かい(マイナス160℃程度)ガスの繭を、「ホットコア」と呼びます。ホットコアの中では、固体微粒子や氷の中に閉じ込められていたさまざまな分子が蒸発して、豊かな化学組成を作り出します。この中には、メタノール(CH3OH)やシアン化エチル(CH3CH2CN)、ギ酸メチル(HCOOCH3)などの有機分子も多く含まれます。

電気通信大学の酒井剛氏を中心とする国際研究チームは、わし座の方向にある赤外線暗黒星雲 G34.43+00.24 MM3(以下、MM3)をアルマ望遠鏡で観測しました。その結果、MM3の中にメタノール分子の電波を強く放つ、これまで知られていなかった若い天体が見つかりました。メタノール分子が出す電波を詳しく分析したところ、メタノールを含むガスの温度がおよそマイナス140℃と推測されました。つまり、MM3の中にはホットコアがあり、その内部には原始星が埋もれていることが明らかになったのです。さらにそのホットコアの大きさを調べたところ、800×300天文単位(1天文単位は太陽と地球の間の平均距離 約1億5000万km)という大きな広がりを持っていることが確認されました。太陽程度の質量をもつ他の原始星のまわりで見つかっているホットコアの大きさは典型的には数十天文単位程度ですから、今回発見されたホットコアがいかに大きいものかがわかります。酒井氏は「アルマ望遠鏡が誇る高い感度と解像度によって、わずか数時間の観測でこれまで知られていなかった天体を発見することができました。星団形成領域での星形成を理解する上で重要な発見です。」と述べています。

研究チームはさらに硫化炭素や一酸化ケイ素が放つ電波を観測し、MM3の原始星から噴出するガス(分子流)の分布をこれまでにないほど鮮明に描き出すことにも成功しました。このガスが噴き出す速度は秒速28km、その広がりは4400天文単位に及びます。この分子流の広がりと速度から計算すると、MM3の原始星がガスを噴き出し始めたのはわずかに740年前であることがわかりました。原始星が分子流をともなっていること自体は一般的なことですが、これほど若い分子流はたいへん珍しいものです。つまり、MM3の原始星は非常に若いにもかかわらず巨大なホットコアを持っている天体であることになります。

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図2. MM3の赤外線観測画像(左、NASA MSX衛星による画像)とアルマ望遠鏡による原始星周囲の観測画像(右、赤色等高線はギ酸メチルの電波強度、カラーは硫化炭素の電波強度を表す)。
Credit: 酒井剛/電気通信大学/国立天文台
図2の高解像度版 (JPEG/ 1.5 MB)

ではなぜMM3の原始星を包むホットコアはこれほど大きいのでしょうか。短期間で星のまわりの広大な領域を温めることができたということは、MM3の原始星は一般的な原始星よりも多くのエネルギーを発しているということになります。成熟した星である太陽の内部では、水素がヘリウムになる核融合反応によって大量のエネルギーが生み出されていますが、原始星内部ではまだ核融合反応は起きていません。代わりに、原始星に降り積もってくる大量のガスの重力エネルギーが光のエネルギーに変換されて光っています。つまりMM3の原始星では、何らかの原因によって通常の原始星の場合よりも大量のガスが一気に降り積もってきている、ということになります。あるいは、ホットコアの中に原始星が複数含まれていて、そのために温度の高い領域が大きく広がっている可能性もあります。今回の観測では、ホットコアの中の様子までは明らかにすることができておらず、大きなホットコアが出来上がった本当の理由はまだわかっていません。酒井氏は「アルマ望遠鏡の解像度がさらに向上すれば、星に降り積もるガスの様子をより詳細に調べることができ、星形成の多様性の謎に迫れるはずです。」と今後の観測に期待しています。

星の材料になるガスや固体微粒子の集まりを、分子雲と呼びます。このガスの主成分が水素分子であることからその名前があります。分子雲にわずかに含まれる固体微粒子によって光がさえぎられるため、星々の手前にこの分子雲が浮かんでいる場合、分子雲はシルエット(暗黒星雲)になって見えます。分子雲の中を探るには透過力の強い赤外線がよく使われますが、密度の高い分子雲は赤外線でも中を見通すことができず、暗黒星雲に見えます。これが赤外線暗黒星雲です。

論文・研究チーム

今回の研究は、Sakai et al. “ALMA Observations of the IRDC Clump G34.43+00.24 MM3: Hot Core and Molecular Outflows” として、2013年9月20日発行の天文学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル・レターズに掲載されました。

研究チームのメンバーは、以下の通りです。
酒井剛(電気通信大学)、坂井南美(東京大学)、J. B. Foster(米 イェール大学)、P. Sanhueza、J. M. Jackson(米 ボストン大学)、M. Kassis(米 ケック天文台)、古家健次、相川祐理(神戸大学)、廣田朋也(国立天文台)、山本智(東京大学)

本研究は科学研究費補助金(21224002, 23740146, 25400225, 25108005)によるサポートを受けて行われました。

アルマ望遠鏡

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
上図を拡大する
アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設する国際天文施設である。ALMAの建設費は、ヨーロッパではヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、東アジアでは日本自然科学研究機構(NINS)およびその協力機関である台湾中央研究院(AS)によって、北米では米国国立科学財団(NSF)ならびにその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)によって分担される。ALMAの建設と運用は、ヨーロッパを代表するESO、東アジアを代表する日本国立天文台(NAOJ)、北米を代表する米国国立電波天文台(NRAO)が実施する(NRAOは米国北東部大学連合(AUI)によって管理される)。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とする。

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