星の多くは、連星として生まれるということがわかっています。しかし、どのようにして連星が生まれたかはまだよくわかっておらず、連星が作られるメカニズムはいくつも提唱されています。例えば「乱流分裂モデル」は、星の材料である分子雲が乱流によって複数の分子雲コア(星のたまご)に分裂し、分子雲コアどうしが互いに回りあう中で星が生まれ、最終的に連星系ができる、というものです。また「円盤分裂モデル」では、原始星を取り巻くガス円盤(原始星円盤)が分裂してもうひとつの星を生み出すことで連星ができたと考えます。これらが複合的に合わさって最終的な連星系ができるという考え方もあり、どのモデルが優勢なのかまだ決着がついていません。
連星形成のメカニズムに迫るためには、数多くの若い連星系を観測し、これらの特徴を統計的に考察する必要があります。このときに注目すべき特徴のひとつは、原始星の周りにできる「円盤の向き」です。
今回、NEC/東京大学の原千穂美氏と国立天文台の川邊良平教授を中心とした研究チームは、最も若く、連星の間隔が狭い双子原始星VLA1623Aをアルマ望遠鏡で高解像度観測しました。
観測の結果、双子原始星のそれぞれから噴き出す、これまで知られていなかった不揃いな分子流対を検出しました。分子流は、原始星円盤の回転軸方向に飛び出すのが普通ですから、2本の分子流がそろっていないということは、ふたつの原始星円盤の回転軸も大きく傾いているということを示しています。間隔の狭い連星系で、不揃いな分子流が見つかった例は初めてです。また今回の観測では、分子流の中心部を流れるジェットの構造から、双子原始星の軌道運動に起因すると思われる、ジェットの波打ち現象を捉えることに成功しています。
従来の考え方では、間隔の狭い連星系の多くは「円盤分裂」によって形成され、円盤の向きはそろっているはずだとされてきました。しかし、磁場や乱流など現実的な様々な効果を取り入れた近年の「円盤分裂モデル」では円盤の向きがそろわない可能性も指摘されています。今回のVLA1623Aの結果はこれと合致するものですが、「乱流分裂モデル」を棄却するものでもありません。今後このような観測を増やすことで、連星系形成のモデルを検証し、どのようなモデルが支配的かを解き明かしたいと研究チームは考えています。また、回転軸が不揃いな円盤からは不揃いな惑星系が生まれてくる可能性もあり、なぜ多様な系外惑星系はこれほど多様なのかという、誕生の謎にも迫ることができると期待されます。
研究発表・研究チーム
この観測成果は、『Class-0原始星連星VLA1623Aからの不整列分子流対』として、2019年9月11日から開催される日本天文学会2019年秋季年会で発表されます。
この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
原千穂美(NEC/東京大学)、川邊良平(国立天文台)、西合一矢(国立天文台)、鎌崎剛(国立天文台)、中村文隆(国立天文台)、高桑繁久(鹿児島大学)、島尻芳人(鹿児島大学/国立天文台)、平野尚美(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)、田村元秀(東京大学)、富田賢吾(大阪大学)、町田正博(九州大学)、松本倫明(法政大学)、J. Di Francesco (カナダNRC)
この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(13J10869)の支援を受けて行われました。