双子原始星からのふぞろいな分子流から連星系形成の謎に迫る

星の多くは、連星として生まれるということがわかっています。しかし、どのようにして連星が生まれたかはまだよくわかっておらず、連星が作られるメカニズムはいくつも提唱されています。例えば「乱流分裂モデル」は、星の材料である分子雲が乱流によって複数の分子雲コア(星のたまご)に分裂し、分子雲コアどうしが互いに回りあう中で星が生まれ、最終的に連星系ができる、というものです。また「円盤分裂モデル」では、原始星を取り巻くガス円盤(原始星円盤)が分裂してもうひとつの星を生み出すことで連星ができたと考えます。これらが複合的に合わさって最終的な連星系ができるという考え方もあり、どのモデルが優勢なのかまだ決着がついていません。

連星形成のメカニズムに迫るためには、数多くの若い連星系を観測し、これらの特徴を統計的に考察する必要があります。このときに注目すべき特徴のひとつは、原始星の周りにできる「円盤の向き」です。

今回、NEC/東京大学の原千穂美氏と国立天文台の川邊良平教授を中心とした研究チームは、最も若く、連星の間隔が狭い双子原始星VLA1623Aをアルマ望遠鏡で高解像度観測しました。

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米国の電波干渉計JVLAを使って行われた、波長7mmでのVLA1623Aの観測(カラー表示)。左側の天体がVLA1623Aで、双子原始星の存在を示す結果が得られました(川邊他、2018年)。双子原始星の見かけの距離は30天文単位であり、これまでの原始星の中でも特に間隔が狭いものです。右の天体(VLA1623B)は、衝撃波圧縮でできたガス塊であるという説と、別の原始星であるという説があり、正体はわかっていません。
Credit: Kawabe et al. 2018 The Astrophysical Journal, 886, 141 “Extremely Dense Cores Associated with Chandra Sources in Ophiuchus A: Forming Brown Dwarfs Unveiled?” Copyright: AAS. Reproduced with permission.

観測の結果、双子原始星のそれぞれから噴き出す、これまで知られていなかった不揃いな分子流対を検出しました。分子流は、原始星円盤の回転軸方向に飛び出すのが普通ですから、2本の分子流がそろっていないということは、ふたつの原始星円盤の回転軸も大きく傾いているということを示しています。間隔の狭い連星系で、不揃いな分子流が見つかった例は初めてです。また今回の観測では、分子流の中心部を流れるジェットの構造から、双子原始星の軌道運動に起因すると思われる、ジェットの波打ち現象を捉えることに成功しています。

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アルマ望遠鏡観測で得られた、双子原始星VLA1623Aから噴き出す分子流の分布。青色、水色、橙色、赤色は、それぞれ高速で近づいてくるガス、低速で近づいてくるガス、低速で遠ざかるガス、高速で遠ざかるガスを示しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Kawabe et al.

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VLA1623Aからの分子流について、高速度成分と低速度成分を分離した画像(上図は高速度の分子流、下図は低速度の分子流)。赤い成分は、遠ざかる成分であり、青い成分は近づいてくる成分です。緑で示したのは、一酸化炭素分子12C16Oの同位体、12C18O輝線で得られた高密度分子雲の分布(明るいほど電波強度が強い)。原始星VLA1623Aの領域には星を生み出す材料となる高密度ガスが大量にあり、分子流が高密度ガスをかき分け外側に広がっている様子がわかります。低速度成分は高速度成分に比べて複雑な構造をしていますが、それは2つの独立な分子流が視線方向に折り重なっているためです。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Kawabe et al.

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アルマ望遠鏡で観測された、VLA1623Aからの折り重なっている2つの分子流(左図)を分離してみると、放出角度は見かけ約10度異なり、近づく成分と遠ざかる成分のパターンが逆の2つの分子流から構成されます(右図の”分子流1”と”分子流2”)。逆の速度構造を持つことも考慮すると、分子流の放出角度は3次元的には約70度異なっていることがわかりました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Kawabe et al.

従来の考え方では、間隔の狭い連星系の多くは「円盤分裂」によって形成され、円盤の向きはそろっているはずだとされてきました。しかし、磁場や乱流など現実的な様々な効果を取り入れた近年の「円盤分裂モデル」では円盤の向きがそろわない可能性も指摘されています。今回のVLA1623Aの結果はこれと合致するものですが、「乱流分裂モデル」を棄却するものでもありません。今後このような観測を増やすことで、連星系形成のモデルを検証し、どのようなモデルが支配的かを解き明かしたいと研究チームは考えています。また、回転軸が不揃いな円盤からは不揃いな惑星系が生まれてくる可能性もあり、なぜ多様な系外惑星系はこれほど多様なのかという、誕生の謎にも迫ることができると期待されます。

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VLA1623Aからの高速度分子流で見られるジェット状の成分(遠ざかる成分)の拡大図(図3の”分子流1”の中心部を突き抜けている成分)。このジェットには、波打つ構造が、3周期分はっきりと確認できます。1周期の間隔は、時間でおおよそ300年であり、双子原始星の軌道周期、400~500年とほぼ一致することがわかりました。この波打ち現象は、双子原始星の軌道運動に起因していると考えられます。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Kawabe et al.

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双子原始星からの不揃いな分子流と円盤の想像図。
クレジット:国立天文台

研究発表・研究チーム
この観測成果は、『Class-0原始星連星VLA1623Aからの不整列分子流対』として、2019年9月11日から開催される日本天文学会2019年秋季年会で発表されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
原千穂美(NEC/東京大学)、川邊良平(国立天文台)、西合一矢(国立天文台)、鎌崎剛(国立天文台)、中村文隆(国立天文台)、高桑繁久(鹿児島大学)、島尻芳人(鹿児島大学/国立天文台)、平野尚美(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)、田村元秀(東京大学)、富田賢吾(大阪大学)、町田正博(九州大学)、松本倫明(法政大学)、J. Di Francesco (カナダNRC)

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(13J10869)の支援を受けて行われました。

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