年老いた星ポンプ座U星を取り囲むガスの泡

年老いた星ポンプ座U星のまわりを取り囲む泡のようなガスを、アルマ望遠鏡が詳細にとらえました。この画像を詳しく調べることで、天文学者は星の一生の最期のようすを明らかにしようとしています。
Delicate bubble of expelled material around the cool red star U

アルマ望遠鏡が撮影したポンプ座U星のまわりのガス。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/F. Kerschbaum

ポンプ座は南天にある目立たない星座ですが、その中でひっそりと赤く輝くのがポンプ座U星です。地球から約850光年の距離にあるこの星は、「炭素星」に分類される比較的低温で明るい星であり、星の一生の最期の時期にさしかかっています(漸近巨星分枝星)。年老いた星は一般にガスを噴き出すことが知られており、今回アルマ望遠鏡が描き出した星のまわりのガスの泡もこうして星から噴き出したものです。これまでの望遠鏡に比べて圧倒的にシャープな天体画像を得ることができるアルマ望遠鏡だからこそ、この星のまわりの様子を美しく描き出すことができました。アルマ望遠鏡が撮影した画像を詳しく解析すると、およそ2700年前に噴き出したガスが泡のような構造を作っていることがわかりました。この泡の半径は、地球と太陽のあいだの距離のおよそ1万倍にも及びます。太陽系で言えば、その果てに相当するところまで中心星から噴き出したガスが広がっていることになります。

アルマ望遠鏡で得られたのは、実は1枚の画像だけではありません。わずかずつ異なる周波数の電波を分析することによって、奥行きの情報も得られるのです。ガスは星から四方八方に飛び出しており、地球から見るとある部分は私たちのほうに近づいてくるように、また別の部分は私たちから遠ざかる方向に動いています。こうしたガスの動きがドップラー効果を起こし、電波の周波数がわずかにずれるのです。この周波数の差から、ガスが噴き出す速度がわかります。星からのガスの放出が球対称であると仮定すれば、ガスの動きから空間的な広がりも推定することができます。ちょうど、CTスキャンで体の断面図を見るようなものです。

こうした年老いた星のまわりのガスの化学組成を調べること、そしてどのようにガスが噴き出して泡構造を作るのかを調べることは、個々の星がどのように一生を終え、噴き出したガスによって銀河全体がどのように化学的に進化していくのかを理解する手がかりになります。

論文・研究チーム
この研究成果は、F. Kerschbaum et al. “Rings and filaments: The remarkable detached CO shell of U Antliae”として、天文学専門誌「アストロノミー・アンド・アストロフィジクス」に掲載されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
F. Kerschbaum (University of Vienna, Austria), M. Maercker (Chalmers University of Technology, Onsala Space Observatory, Sweden), M. Brunner (University of Vienna, Austria), M. Lindqvist (Chalmers University of Technology, Onsala Space Observatory, Sweden), H. Olofsson (Chalmers University of Technology, Onsala Space Observatory, Sweden), M. Mecina (University of Vienna, Austria), E. De Beck (Chalmers University of Technology, Onsala Space Observatory, Sweden), M. A. T. Groenewegen (Koninklijke Sterrenwacht van België, Belgium), E. Lagadec (Observatoire de la Côte d’Azur, CNRS, France), S. Mohamed (University of Cape Town, South Africa), C. Paladini (Université Libre de Bruxelles, Belgium), S. Ramstedt (Uppsala University, Sweden), W. H. T. Vlemmings (Chalmers University of Technology, Onsala Space Observatory, Sweden), and M. Wittkowski (ESO)

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