この研究成果は、2024年9月4日にアメリカ国立電波天文台(NRAO)からプレスリリースされたものです。詳しくは、アメリカ国立電波天文台のプレスリリース(英語)(https://public.nrao.edu/news/alma-detects-wiggle/)をご覧ください。
アルマの干渉計技術による詳細な観測で、若い星周辺に形成される息を飲むような美しい渦巻き状の腕構造が重力の影響で生じていることが明らかになり、惑星誕生の過程を理解する手がかりが得られたことになります。
従来、惑星の形成は、若い星をとり巻く円盤(原始惑星系円盤)の中で、塵の粒子が数千万年の長い時間をかけて徐々に集まり、より大きな塊へと成長を続けて惑星になるという「ボトムアップ」過程で理論的に説明されていました。数マイクロメートルの塵粒子が成長して、センチメートルサイズ、メートルサイズ、キロメートルサイズの塊へと大きくなっていきます。一方、別の理論では、惑星は原始惑星系円盤で起こる重力不安定性のために渦巻き構造の腕が分裂して「トップダウン」の過程で短期間に形成されるという考え方もあります。
技術、機器、観測対象天体の選択に関する最良の組み合わせによって、ジェシカ=スピーディー(カナダ、ビクトリア大学、物理・天文学科の博士課程の学生)に率いられた国際的なチームは、特徴の良く知られている若い天体、ぎょしゃ座AB星を取り囲む原始惑星系円盤を観測しました。その結果、惑星形成に関する「トップダウン」理論を支持する観測的な証拠を見つけました。
「アルマ望遠鏡の優れた感度と高い速度分解能によって円盤の奥深くに存在するガスを探ることが可能となり、ガスの動きを高精度で計測することができました。この研究を実現することができる唯一の観測手段でした。」とスピーディーは語ります。
ぎょしゃ座AB星の円盤では現在形成中と思われる原始惑星が既に数個発見されています。その中には木星の9倍も重たい原始惑星も含まれます。この原始惑星たちは、中心星の周りを反時計回りに回っているはっきりとした渦巻き構造の腕の中に、塊状のものとして現れています。ぎょしゃ座AB星自体は太陽の2.4倍の重さで、生まれてからの年齢が400万年程度であると推定されています。「ボトムアップ」理論で原始惑星ができるには400万年は短く、ぎょしゃ座AB星の観測事実は天文学の大きな謎となっていました。
アルマ望遠鏡を用いた13COの観測。ぎょしゃ座AB星周辺の、惑星が形成されている円盤の巨大な渦巻き構造とその大局的な速度ゆらぎが明らかに。クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NSF NRAO), VLT/SPHERE (ESO), Speedie et al.
スピーディー、彼女の指導教員であるルオビン=ドン、そして研究チームは、システムの巨大な渦巻き構造の腕がどのように運動しているかを研究するためにアルマ望遠鏡を使い始めました。「安定な円盤とは異なり、重力的に不安定な円盤は速度場内に独特の揺らぎを持ちます。」と、本研究論文の共著者でもあるカサンドラ=ホール博士(ジョージア大学、計算宇宙物理学の准教授)が述べます。続けて、彼女が主導した4年前の研究についても語りました。「2020年に我々は世界最先端のシミュレーションを行い、重力不安定説に太鼓判を押すことができるような兆候が存在することを予測しました。それは明確であり検証可能でしたが、ちょっと恐ろしい感じがしました。もしその兆候が見つからなければ、私たちが円盤の理解に関して何か大きな間違いをしていることを意味するからです。」
「我々が検出したぎょしゃ座AB星周辺の円盤内の重力不安定性は、惑星形成に関する「トップダウン説」の観測的な証拠を直接示すことになるものと確信しています。」と、スピーディーはまとめました。
アルマで得られたキューブデータのスライスを通して、どの様に速度の小刻みな変化が検出されたかを示すアニメーション。クレジット;ALMA (ESO/NAOJ/NSF NRAO), J. Speedie.
MRIが脳をスキャンして画像を生成するように、アルマ望遠鏡は原始惑星系円盤内部の視線方向に沿ったガスの速度と位置をマッピングした3次元のデータキューブを作り出しました。このデータキューブの断面図を綿密な考察にもとづいて解析することで、スピーディーと研究チームのメンバーは、重力不安定性の証拠となる速度の小刻みな変化を明確に同定することができました。
「私たちは、特定の原始惑星系円盤に対して今までで最も高い感度と速度分解能を併せ持つ観測を行いました。」と、スピーディーが語ります。「アルマのデータは、重力不安定性が実際に起きていることをはっきりと示しています。このような大局的な渦巻き構造と速度パターンを形成するメカニズムは、重力不安定性のほかには考えられません。」スピーディーは、ホールの予測についてこう付け加えます。「これはまさに『科学者は研究によって予測し、そして見つけた』という科学の典型的な話です。ホールが予測した重力不安定性の証拠を、私たちが見つけたということです。」
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。