2013年3月13日(現地時間)、チリ共和国北部においてアルマ望遠鏡開所式が挙行されました。これまでアルマ望遠鏡では、一部の装置を用いて行う「初期科学観測」が建設と並行して進められてきましたが、この開所式はアルマ望遠鏡が「建設プロジェクト」から「科学観測を行う観測所」へと本格的に移行することを記念したものです。
画像1. アルマ山頂施設 (AOS)空撮
アルマ望遠鏡のパラボラアンテナが立ち並ぶ、標高5000mのチャナントール高原の空撮写真(2012年12月撮影)。直径12メートルと7メートルのふたつの大きさのアンテナが並んでいます。
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アルマ望遠鏡は東アジアとヨーロッパ、北アメリカと建設地のチリが国際協力で進めているプロジェクトです。この日アルマ望遠鏡の各パートナー機関は、セバスティアン・ピニェラ・エチェニケチリ共和国大統領をはじめ350名以上の来賓をアタカマ砂漠のアルマ観測所に迎え、プロジェクトの成功を祝しました。また式典の最後にピニェラ大統領の合図に合わせて、山頂施設にあるアンテナ群が一斉に動き出し、天の川銀河の中心方向に向くというデモンストレーションも行われました。
日本からは、福井照 文部科学副大臣や村上秀徳 在チリ特命全権大使をはじめ、学識経験者やアルマ望遠鏡プロジェクトに深くかかわってきた研究者が式典に参加しました。またアルマ望遠鏡に参加する欧州各国やアメリカ合衆国などからも関係閣僚や有識者が参加し、「人類の新しい目」の本格稼働を祝いました。
ピニェラ大統領は祝辞の中で、「素晴らしい夜空は、チリが誇る数多くの天然資源の一つです。近年のチリの発展にとって、自然科学は重要な役割を果たしてきました。天文学分野における国際協力の最新かつ最大の成果であるこのアルマ望遠鏡が本格観測を開始することを、私はたいへん誇りに思います。」と述べられました。
式典では、タイス・ドゥフラウ 合同アルマ観測所長のあいさつに続き、ティム・ドゥズー 欧州南天天文台長、福井照 文部科学副大臣、スブラ・スレッシュ 米国国立科学財団長官が祝辞を述べられました、また川辺良平 合同アルマ観測所チーフサイエンティストがこれまでに実行された観測で得られた研究成果の紹介を行いました。式典にはアルマ望遠鏡建設地近くの地域住民の代表も参加し、同時にインターネットを経由して世界中に中継されました。
ダイジェスト映像:アルマ望遠鏡 開所記念式典
タイス・ドゥフラウ 所長は、アルマ望遠鏡に対する期待を次のように語っています。「アルマ望遠鏡に関わった世界中の科学者・技術者の長年にわたる努力のおかげで、アルマ望遠鏡は既存のミリ波・サブミリ波望遠鏡を大きく凌駕する性能をすでに発揮しています。世界中の天文学研究者がこの素晴らしい望遠鏡の性能を存分に引き出してくれることを期待しています。」
林正彦 国立天文台長は、「アルマ望遠鏡は、日本の電波天文学者の30年来の夢です。初めは日本だけで構想していたのですが、欧州、北米、そして台湾と協力することで、日本だけで作るよりはるかに性能の良い電波干渉計となりました。惑星が形成されていくようすや、宇宙遠方で塵に埋もれながら形成されていく銀河の姿などが、手に取るように明らかになっていくでしょう。」と語っています。
画像4. トランスポーターに乗る各国の来賓
写真左から、ティム・ドゥズー 欧州南天天文台長、ピニェラ・チリ共和国大統領、スブラ・スレッシュ 米国国立科学財団長官、タイス・ドゥフラウ 合同アルマ観測所長、福井照 文部科学副大臣です。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
人間には見ることのできない電波を観測することで、アルマ望遠鏡は星や惑星の誕生、生まれたばかりの銀河などをこれまでにないほど詳細に観測することができます。星々の間に生命の種になるような複雑な分子を探す試みも行われています。
アルマ望遠鏡は、直径12mのパラボラアンテナ54台と直径7mのアンテナ12台からなり、これらのアンテナを同期して動かすことで、全体を一つの巨大な望遠鏡として機能させることができます。それぞれのアンテナは宇宙からやってくる電波を集め、アンテナに搭載された受信機に送り込みます。受信機の中で電波は電気信号に変換され、他のアンテナで集められた電気信号と一緒にアルマ専用のスーパーコンピュータである相関器に導かれます。各アンテナでとらえられた信号をこの相関器が処理することによって、天体の電波強度分布や周波数情報が得られます。
アルマ望遠鏡は、1980年代に別々に計画されていた日本・ヨーロッパ・アメリカの次世代大型電波望遠鏡計画が、1990年代に統合されて生まれた国際プロジェクトです。パラボラアンテナ全66台のうち、日本は直径12mアンテナ4台と直径7mアンテナ12台からなるアタカマ・コンパクトアレイ(ACA)と、3種類の周波数帯を受信する受信機、ACA相関器の開発と製造を分担しています。またアルマ望遠鏡の運用にも国際チームの一員として参加しています。
画像5. アルマ山麓施設 (OSF) 空撮
標高2900mに設置されたアルマ望遠鏡山麓施設。事務所や実験室、山頂施設に立ち並ぶ望遠鏡のコントロールルームがあります。写真手前には北米、日本、欧州のアンテナ建設エリアが並んでいます。写真左奥の富士山のような山は、リカンカブール山です。
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アルマ望遠鏡のアンテナの建造はほぼ完了しており、全66台のうち最後の7台が建設の最終段階、あるいは性能評価試験の段階にあります。2011年に開始された初期科学観測では、その時までに準備の整ったアンテナだけが科学観測に使われてきましたが、それでもこれまでの望遠鏡を大きくしのぐ性能を見せています [1]。2013年からは、いよいよ本格運用が開始されました。この本格運用では、日本が製造を分担したACAが初めて科学観測に供されます。ACAが追加されることにより、以前よりも電波写真の画質が大きく向上します。これは、赤ちゃん星のまわりを包むガスや銀河の中に広がったガスなど、ぼんやりと広がった天体からの電波を高い精度で観測する際に大きな威力を発揮します。
この開所式に合わせ、アルマ望遠鏡を運用する国立天文台、欧州南天天文台と米国国立電波天文台は、16分間の短編映像 “ALMA — In Search of our Cosmic Origins”、建設記録写真集、アタカマ地域の民族天文学を紹介するブックレット、アルマ望遠鏡プロジェクトとその国際協力関係を示すパンフレットを作成しました。これらの電子版はすべて、リンクからダウンロード可能です。
短編映像 “ALMA — In Search of our Cosmic Origins”
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
日本でのアルマ望遠鏡の開発と建設には、国立天文台の研究者・技術者だけでなく多くの民間企業の協力が欠かせませんでした。
- 三菱電機株式会社:三菱電機製アンテナ群「いざよい」がALMAプロジェクトの科学観測に貢献
- 富士通株式会社:宇宙に最も近い大型電波望遠鏡「アルマ」のスーパーコンピュータが稼働
注釈
[1] 過去の代表的なプレスリリースには、「アルマ望遠鏡が見つけた「惑星のへその緒」- 成長中の惑星へ流れ込む大量のガスを発見」 、「アルマ望遠鏡、赤ちゃん星のまわりに生命の構成要素を発見」 、「124億光年彼方の銀河の「成分調査」~アルマ望遠鏡で迫る進化途上の銀河の正体~」 などがあります。
アルマ望遠鏡
リンク
開所式 ダイジェスト映像
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
- アルマ望遠鏡建設記録写真集 “In Search of our Cosmic Origins – The Construction of the Atacama Large Millimeter/submillimeter Array” (Small:8.37MB /Large: 342MB) (英語のみ)
- アタカマ地方民族天文学ブックレット (Small:2.23MB /Large: 27.2MB) (スペイン語・英語)
- アルマ望遠鏡国際協力パンフレット (Small:833KB /Large: 27.8MB) (英語のみ)
- アルマ望遠鏡パンフレット (Small:833KB /Large: 27.8MB) (英語のみ)