アルマ望遠鏡を支える人々④
観測の最前線「アルマ望遠鏡コントロールルーム」で働く天文学者のシゴト

標高5000mの砂漠の高地に建設されたアルマ望遠鏡は、標高2900mに位置する「アルマ望遠鏡山麓施設」から遠隔操作されています。山麓施設では技術者を中心に100名以上が交代で詰めていて、日々の望遠鏡メンテナンスや観測など様々な活動を行っています。まさに、「アルマ望遠鏡の最前線基地」。ここで働く天文学者は常時5名ほどと、ごく少数です。では、天文学者たちはここでどんな仕事をしているのでしょうか?今回は、高橋智子(たかはしさとこ)国立天文台チリ観測所助教(インタビュー当時)に、山麓施設での天文学者の役割について聞きました。(インタビュー実施:2018年7月)

実は「ガテン系」、人里離れた高地での仕事

── 今回は、「山麓施設で天文学者はどんな仕事をしているのか?」を皆さんにお伝えしたいと思っています。よろしくお願いします。

高橋: よろしくお願いします。私は、合同アルマ観測所の科学運用部門(Department of Science Operation)の一員です。科学運用部門には、天文学研究を行う研究者たちや、望遠鏡のオペレーター、技術的なバックグラウンドを持つ人など様々な職員がいて、私は研究者です。科学運用部門のメンバーは、ここ山麓施設では望遠鏡の運用に関わるいろいろな仕事をしています。その様子をご紹介したいと思います。

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高橋智子(国立天文台チリ観測所)。インタビューは、山麓施設の西側に開けたテラスで行いました。 Credit: 国立天文台

── まずは基本的なところからですが、高橋さんは山麓施設に常駐しているんですか?

いいえ、科学運用部門のメンバーが交代で山麓施設に滞在しています。私も、普段は主にサンティアゴの合同アルマ観測所のオフィスで仕事をしています。ここ山麓施設には、1回8日間、年に8回くらい出張して現場での観測運用をしています。試験観測の時間が多かった数年前は、1年に10回以上来るような時期もありました。

── サンティアゴから山麓施設までだと、飛行機で2時間、さらに空港から観測所のシャトルバスに乗って2時間くらいですね。チリ国内の移動とはいえ、往復するのは大変そうです。

チリの地図

アルマ望遠鏡施設の立地。チリの首都サンティアゴには中央事務所があり、北部のアタカマ地方に山麓施設と山頂施設があります。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

担当している職種やその割合によってもシフトの回数が異なります。科学運用部門内でも、年に14回来る同僚もいます。

── あぁ、それはたいへん。

ここでの仕事、けっこうガテン系なんで、体力を使います。

 
── 山麓施設は標高2900mにあります。富士山だと七合目から八合目に相当する標高ですが、高山病は大丈夫ですか?

高山病にかかりやすいかどうかは体質によるところが大きいと聞いたことがありますが、私は2900mでは全く問題ないです。

── ここでの科学運用部門の仕事を聞く前に、そもそもアルマ望遠鏡で観測をする仕組みと、科学運用部門がなぜ山麓施設に常駐する必要があるのかを教えてください。

アルマ望遠鏡は、世界中の天文学者が使える望遠鏡です。でも、その天文学者たちが実際にここに来て望遠鏡を操作するわけではありません。アルマでは観測時の状況に応じて観測順序を臨機応変に組み替える、「ダイナミック・スケジューリング」という運用の手法を取っています。なので、観測を実際に行うコントロールルームには科学運用部門のメンバーがいて、現地の状況に応じて、私たちが世界の天文学者の代わりに観測を実行しているんです。

 

66台のアンテナを、4人で遠隔操作する

── なるほど。そしてここがそのコントロールルームですね。

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アルマ望遠鏡コントロールルームの望遠鏡操作卓の前で。 Credit: 国立天文台

── 実際観測するときには、ここに座るんですか?

そうです。ここでの勤務は3交代制で24時間カバーしています。当番の時間にはこのディスプレイの前あたりにいますね。

── たくさんディスプレイがありますが…。

たとえば、大気中の水蒸気量や大気の揺らぎ量が表示されているディスプレイがあります。これを見て、今の天候だとどの周波数帯まで観測できるかなどを判断しています。大気中の水蒸気量が増えると、高い周波数の観測がしづらくります。

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ディスプレイの右半分に、現在の気象条件を示すグラフが表示されています。一番上のグラフは可降水量(Precipitable Water Vaper: PWV)の時間変化を表すグラフです。PWVとは、ある面積の中で地表から大気最上層までに含まれる水分をすべて水に変換した時に、何ミリメートルの高さになるかを表しています。撮影時のPWVは1.76mmでしたが、天気の最も良いときには0.5mmを切る日も年に数日あります。周波数の高い電波ほど水蒸気に吸収されやすい性質を持つため、アルマ望遠鏡を用いた最高周波数での観測を行うためにはPWVが低いタイミングを見計らう必要があります。その下(右のウインドウの上から2番目)は、大気の揺らぎの変化を表すグラフです。Credit: 国立天文台

 
別のディスプレイには、今の天候条件で実行に適した観測プロジェクトの一覧が出ています。アルマ望遠鏡の観測は、研究者から提出される観測提案書に基づいて行われます。審査があって、それに採択されたプロジェクトだけが実際に観測されます。ここには今シーズンに採択されたプロジェクトがリストされていて、審査結果の順位、必要な解像度(アンテナの配置)、観測時の天体の位置や、その時の天候など、様々な条件をもとにして、観測を実行していきます。あとは地域バランスも重要ですね。アルマ望遠鏡は東アジア、ヨーロッパ、北米の協力プロジェクトなので、観測時間は各地域の貢献割合に比例して分配されます。つまり、ヨーロッパからのプロジェクトばかりが実行される、なんてことは許されません。優先順位付けには、そういう地域バランスも考慮されています。

観測当番を担当する私たちは、現在の状況に合わせて、優先順位の高い観測を実行していきます。望遠鏡の初期設定を行ったり、一つ一つのアンテナの状況を詳しく確認してくれたりしているのは望遠鏡を操作するオペレーターさん達なので、観測の方針を変えたい場合などは相談・協力して仕事を進めます。

このディスプレイには、観測実行のためのソフトウェアが表示されています。ここで観測ファイルを選んで実行すると、実際に望遠鏡が動いて、別のディスプレイに観測状況が出てきます。望遠鏡システムの動作モニターで、望遠鏡が問題なく動いているか、周波数が指定したものになってるか、などが確認できます。もし何かおかしな数字が出ていたら、オペレーターさんと一緒に問題を調べるわけです。

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コントロールルームにある4枚1セットのディスプレイ。これらを常時確認しながら、観測を進めていきます。
Credit: 国立天文台

観測結果を見るためのディスプレイもあります。観測中でもデータをほぼリアルタイムでモニターし、変なことが起こっていないかを確認します。また、観測終了直後には簡易的なデータ処理を行うソフトウェアが動くので、その結果を注意深く確認し、観測についてデータの品質保証チェックを行います。1時間くらい待つと処理済みの画像が出てくるんですよ。

── 実際の観測中は、こういうディスプレイをずっとチェックしている?

そう。天気の情報を見つつ、装置がきちんと動いているか、データが全てのアンテナで取得できているかなどを見ています。また、観測と観測の間の無駄な時間はできるだけ無くしたいので、次の観測を実行する準備をしておくのも大事です。並行して、取り終わったデータの品質保証チェックも行います。

── 行ったり来たりで大変ですね。

忙しいですね。トラブルがなければ今お話ししたことだけで済むのですが、トラブルが起きると観測が止まることもあります。 そのような時には、例えば1つのアンテナがトラブルを起こした場合でも、時間をかけて直すのか、そのアンテナをシステムから切り離して残りのアンテナで観測を再開するのか、判断が必要になります。アルマの観測時間は貴重なので、少しでも無駄にしたくない。実際のトラブルを調べて直すのは望遠鏡のオペレーターさんや技術者の皆さんですが、判断は私たち科学運用部門の仕事です。アルマ望遠鏡はシステムが複雑で、一人ですべての問題解決はできないので、分業するんです。「今晩の観測までにこのトラブルは直してほしい」ということを優先順位をつけて技術者の方にお願いすることもよくあります。アンテナひとつひとつがきちんと動き、望遠鏡システムとして定常的に運用できるのは、本当に技術者の皆さんのおかげです。

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アルマ望遠鏡コントロールルーム。 Credit: 国立天文台

── 慌ただしい仕事のようですが、コントロールルームは結構閑散としているように見えますね…?

そうかもしれないですね。各シフトどの時間帯も、望遠鏡のオペレーターと観測運用を行う天文学のバックグラウンドを持った職員が最低限2人ずついることになっています。集中して仕事を行うことが重要なので、最小限で静かに仕事が進められるよう気をつけています。

── 実際の観測データを見て楽しむ余裕なんてなさそうですね。

私たちが気にするのは、あくまで望遠鏡が問題なく動き、質の高いデータが取れているかという点です。アルマの観測だと、目的の天体のほかに、「較正天体」も観測する必要があります。強い電波を発する天体で、アルマ望遠鏡で見ても点にしか見えないような天体が較正天体になります。天体から来る微弱な電波は大気や望遠鏡システムというフィルターを通して観測されるので、その影響を測定し、取り除く必要があります。較正天体は装置や大気が原因となる変動をモニターする役割を果たしています。つまり較正天体がきちんと観測できていないと、研究に使うためのデータを処理することができません。較正天体が問題なく観測できてるかどうかをリアルタイムでチェックすることが、私たちの重要な確認項目のひとつになります。あとは例えば、「アンテナ45台で観測してたのに、実際にはそのうち2台くらい調子が悪かった」っていうときには、最終的に使えるデータ量が減ってしまうので、そのあたりもきちんとモニターしながら、提案者が求めている条件に合ったデータが取れてるか、をチェックしています。アルマでは、品質が保証されたデータを天文学者に送り届ける、というのが重要なミッションになります。

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山麓施設の宿泊棟に掲げられた「静かに」と注意を促す看板。24時間体制でアルマ望遠鏡を運用するため、昼間に睡眠をとるスタッフもいます。奥に見えるのは、チリとボリビアの国境にまたがるリカンカブール山(標高5916m)です。観測所周辺エリアのシンボル的な山になります。日本人が見ると富士山に似た形にも見えますね。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

 

会議とメールと観測当番。山麓施設での生活

── 山麓施設に滞在している間は、どのようなスケジュールで仕事をしていますか?

シフトによって違うんですけど、今回の滞在では、私は当番天文学者をまとめる役割を担っています。まず、1日に3回の会議があります。朝8時15分と、午後3時と5時。朝の会議は、科学運用部門のメンバーと技術者が参加します。前の晩にどんな問題が起きたかを見直し、誰がどうやってトラブル対応するか、またメンテナンス等がある際はその作業行程を確認します。3時は科学運用部門の会議で、前日の観測のまとめ、起きたトラブルの回復状況の確認、それを踏まえた今晩の観測予定について話し合います。5時の会議のメンバーは朝と同じで、日中にどの程度問題を解決できたか、それをもとに今晩は何台のアンテナを使って観測ができるか、という最終状況把握を行います。

── なるほど。

今回のシフトでは私はまとめ・調整役なので、3つの会議に出る必要があります。勤務としては、朝8時から夜8時くらいまで。夕方までに今の装置の状況や今晩の予定をまとめて、そのあとは夜シフトの人にお願いするという感じです。当番天文学者は、まとめ役が1人と、それ以外に朝シフトが一人、昼シフトが一人、夜シフトが二人いて、これで24時間カバーします。観測は24時間続く日もあれば、昼間に装置のメンテナンスや試験が入って夕方から観測が始まる日もあります。

あとは、例えば重要度の高い観測や時間指定がある観測が入ることになったらそれらが滞りなく進むように調整したり、修理から戻って来たアンテンナが望遠鏡システムの一部としてすぐに科学運用に使えるよう、チェックや調整などもします。だいたい1日中メールでのやり取りや、技術系の統括役と話して調整している感じです。長時間勤務に加えて、コーディネータは集中力や瞬時の判断力が必要となるので、これが1シフト8日間続くとさすがに疲れますね。

── アンテナのある5000mに実際に行くことはないですか?

技術者の方は1シフトに複数回上がっていますが、私たち科学運用部門が仕事で5000mに行くことはほとんどないです。年に1回学生さんの見学に同行するくらいですね。・・・コントロールルームで観測しているだけだと、自分が運用している望遠鏡が目の前になくて、現実感が無いなぁ、と思うこともあります。

── なるほど。

実は今日も、私が提案した観測を隣に座ってる同僚が実行してくれてたんですけど、実感があまりない(笑)。アルマ望遠鏡以前の観測所では、自分の目の前で望遠鏡が動いて、観測が進んでいる様子を直接みていたのですが、アルマでは望遠鏡が5000mにあるのでそうもいかず。だから、ちょっと変な感じです。

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高橋智子(国立天文台チリ観測所) Credit: 国立天文台

── 観測を実行する以外に、どんな仕事がありますか?

日々の観測運用以外で重要なのは、次の観測サイクルに向けた試験観測ですね。通常観測の合間を縫って実行しています。アルマ望遠鏡は日々進化していて、新しい機能や観測方法が追加されています。一方で、これらの新しい機能を世界中の研究者に使ってもらうためには、観測所で品質保証ができるよう試験が必要になります。例えば、「データの較正が難しくなる高い周波数の観測でも、較正天体の観測手法を工夫することでデータの質を保証する」、「観測手法の効率化を図ることで、研究データが取れる割合をもっと増やす」など。他の観測所も含めてこれまで取り組んだことのない課題に取り組む場合もあります。

── それはやっぱり天文学研究の経験のある人が現場にいないとできない仕事、ですかね。

初期の頃は全て手作業だったので詳しい専門知識を持った人の確認が必要でしたが、システム全体を理解するには同僚との協力体制が必要なのと、今は個々のシステムの自動化も進んでいるので、チームの中で手順に沿ってきちんと働ける人が重要だと思います。

── 閉鎖空間みたいな山麓施設にいろんな人が集まって仕事するには、確かにチームワークが重要ですね。山麓施設での生活はどうですか?

山麓施設の中に2018年春にオープンした新しい宿泊施設に滞在しています。少し前まではプレハブみたいな仮設宿舎だったんですけど、新しい施設になって快適になりました。施設内で出る食事も年々おいしくなってきていて嬉しいです。

── 山麓施設にいる間の気晴らしってありますか?

宿泊施設に併設されているジムやプールで運動している人、バンドを組んで音楽の練習をしている人、ビリヤードを楽しんでいる人など様々です。また、学生さんがきているときは、望遠鏡を外に出して星空鑑賞会などをやったりしますね。私の場合、毎回積極的に参加している活動はありませんが、山麓施設で働いている間は合宿みたいなので、「シフト中にこの仕事を終わらせよう!」と、目標を決めて集中して仕事を終わらせることもあります。

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最寄りの町(サン・ペドロ・デ・アタカマ)から車で約30分、標高2900mに設置されたアルマ望遠鏡山麓施設。写真中央がコントロールルームや実験室などがある技術棟で、宿舎などはこの写真の外(手前側)にあります。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

 

同僚は世界中に。連携をはかることでベストのチームを作る

── 国際的な仕事をする上での魅力とか、苦労はありますか?

なんだろう、現場がやっぱり一番楽しいですかね。アルマプロジェクトは、望遠鏡サイトを運用する「合同アルマ観測所」(私の現在の勤務地)に加え、データ処理や各地域の天文学者がアルマ望遠鏡を使うときの窓口の役割を担う日米欧の「地域センター」から成り立っています。私は、観測データをリアルタイムで確認できる現場で働くことにより興味あります。ここにいると、観測運用や観測手法での課題がある際に、自分でアイディアを出して現場で試験や検証を行うことがでます。観測運用に日々直接貢献できることを実感できるのが面白いです。

例えば、私の仕事のひとつは較正天体を探したり実際の観測で使ってもらえるよう事前チェックをしたりすることです。どのような手法や戦略で作業の効率化が測れるかというのが誰にもわからない状態から、プランやチーム作りを行いました。必要であれば、各地域センターにいるエキスパートなどとも連携し仕事を進めます。いろんな人と仕事をする機会がある、っていうのも面白いところですかね。

── なるほど、一緒に仕事する人の幅は広そうですね。

そうですね。研究者も場合によっては、限られた人、環境で仕事をしていることが多いかもしれません。一方、アルマ望遠鏡の運用に関わるというところでは、理想の望遠鏡を運用するために、チームやバックグラウンドにかかわらず、世界中に散らばるエキスパートたちと連携をはかることが重要です。自分一人では解決できないことや、こなせない量の仕事が、同僚と知恵を合わせ、協力することでうまく問題解決に繋がったりする経験は、すごく貴重だなと思います。

── 逆に大変なことは?

まず出張が多い!山麓施設への出張もあるし、天文学者だから研究会に行ったり海外の共同研究者のところに行ったりすることもある。ほぼ毎月どこかに行ってる感じですね。そうすると、家でのんびりするとか、職場で腰を据えてひとつのことに取り組む時間を確保するのが大変です。

いろいろな国籍の人が様々な観測所から雇われて異なる条件で働いているので、働き方に関する考え方が全く違ったりもします。決められた時間で働く人と裁量労働制の人という勤務時間に対する違いが一つ。さらに仕事に対する意識も、プロジェクトを成功させるため、家族のため、休暇のため、その他色々で、仕事に対する意識の違いを感じることもあります。

── まさに「文化の違い」ですね。

あと大変なのは、とにかく短時間で解決しないといけないことが多い。観測の現場で何かトラブルが起きたら、その日のうちに解決しないといけない、とか。長期プランを立てても、その通りにいかないことも多いですね。そんな中で自分の研究時間も確保しないといけなかったりと、やりがいはありますが、時間のやりくりは難しいです。観測所業務をこなしながら研究成果も求められるというのが私の立場、そんな私の業績をどう評価するか、っていうのは難しいですよね。私も私の上司もこんな環境で仕事をするのは初めてなので、皆試行錯誤しながら頑張っています。

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Credit: 国立天文台

 

アルマ望遠鏡で調べたいのは、生まれたばかりの星

── 最後になりますが、高橋さんの研究内容についても教えてください。

私は、太陽のような恒星の誕生のようすを明らかにしたいと思っています。特に、生まれて1万年程度の若い星を探す、そしてその特性を観測で調べる、というテーマに取り組んでいます。

── その研究でも、アルマ望遠鏡の登場前後ではようすがまったく違いますか?

違いますね。まず大きいのは、空間解像度と感度が非常に上がったことです。最近とったデータは解像度が0.02秒角、つまり人間の視力に換算すると3000になります。生まれたばかりの星のまわりを取り巻く塵やガスの分布がこれまでになくクリアに見えるんですよね。星のまわりの10天文単位(注:1天文単位は地球と太陽の間の間隔に相当し、約1億5000万キロメートル。土星の公転軌道半径が10天文単位)くらいの構造が見えてくる。さらに、最近は電波の偏光を手掛かりにして、原始星の近くでの磁場の構造を調べたりしています。また、この観測結果と、シミュレーションとを比較する研究も始めています。

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高橋智子(国立天文台チリ観測所)
Credit: 国立天文台

── これまでの観測では、シミュレーションとの比較は難しかったのですか?

やろうと思ったことがないくらいです(笑)。シミュレーションでは星のまわりに渦巻きみたいな複雑な構造が見えていたんですけど、それが観測でも見えるようになってきて、やっと直接比較できるようになりました。観測結果が豊富過ぎて、論文にまとめるのが大変になってきてます。最近は、日本にいる大学院生や、チリまで実習に来てくれるサマースチューデントの大学生と一緒にデータ解析や議論を行ったりもしています。

── ありがとうございました。今後の成果、期待しています。

ありがとうございました。

高橋智子(国立天文台チリ観測所 准教授)

高橋智子(国立天文台チリ観測所 准教授)

2007年に総合研究⼤学院⼤学にて博⼠号を取得。誕生後間もない原始星の探査や星周環境を調べる観測的研究を専門とする。台湾中央研究院天文及天文物理研究所での博士後研究員、サポート・アストロノマーの職を経て、2013年より国立天文台チリ観測所の職員として、合同アルマ観測所に勤務。 2015年から合同アルマ観測所にて国際職員枠で採用され現在に至る。これまでにアルマの最高周波数となるバンド10の試験チームを率い科学観測運用を実現させた。また、高周波観測、長基線観測実現に必須となる、較正天体の探査を目的としたチームを率いてきた。2020年より、新規開発から科学観測運用実現までを視野に入れた観測モード開発部門の統括、調整役を担う。

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