2014年に日本を含む世界各国から集まった天文学者とエンジニアによって実現したアルマ望遠鏡「長基線試験観測キャンペーン」の一環として、地球から450光年離れたおうし座にある若い星「おうし座HL星」が観測されました。その観測画像により、太陽のような星を取り囲む惑星形成円盤の驚くべき詳細が明らかになり、その後の惑星形成研究の基礎が築かれることになります。米国国立電波天文台の天文学者であり、当データを用いた論文の筆頭著者であるクリスタル・ブローガン氏は、「長基線試験観測キャンペーンの観測対象には、低解像度でよく研究されている様々な天体の中から、高解像度で観測したら未知の構造が明らかになる可能性のある天体が選ばれました。しかし、原始惑星系円盤については、ほとんど何も見えないのではないか、特に見張るようなものは見えないのではないか、と不安を抱いていました。当時、原始惑星系円盤の進化において比較的若い段階では、円盤に目立った構造があることを示す観測結果がほとんどなかったからです。」と観測当時のことを振り返ります。
蓋を開けてみれば、それまでコンピューターシミュレーションや想像図の中でしか見ることのできなかった惑星形成時の鮮明な画像が得られました。はっきりとした隙間で隔てられた複数の同心円状のリングなどおうし座HL星のまわりに初めて観測された構造は、今や原始惑星系円盤の特徴であると考えられています。この同心円状のリングは、その後の2016年に米国国立科学財団のカール・ジャンスキー超大型電波干渉計群(VLA)によってさらに調査されています。「アルマ望遠鏡の長基線観測によって明らかにされたおうし座HL星まわりの構造は、原始惑星系円盤の形成や進化、ひいては惑星形成に関する我々の理解を根本的に変えました。今や同様の構造が様々な原始惑星系円盤で観測されており、アルマ望遠鏡による原始惑星系円盤の観測数は毎年増えています。しかし、おうし座HL星は永遠にその第一号であることに変わりはありません。」とクリスタル・ブローガン氏は語ります。
アルマ望遠鏡副所長であり、2015年に発表された論文の共著者であるスチュワート・コーダー氏は、「この結果は本当に感動的で美しく、そして奥深いものでした。数十年にわたるハードワークに加え、2014年に実現した長基線観測により、この劇的な結果がもたらされたのです。」と述べています。
2014年のおうし座HL星の観測は、天文学者に惑星形成の理論を構築するための観測的証拠を提供しただけでなく、天文学を志す学生たちに天文学の新たな可能性を見せたと言えるかもしれません。米国国立電波天文台の天文学者であり、2015年に発表された論文の共著者であるトッド・ハンター氏は、「当論文の引用数のうち83は博士論文によるものです。これは、若い研究者からも当論文が注目されていたことを意味します。」と述べています。米国国立電波天文台の中央開発研究所 (CDL) で開発され、おうし座HL星の観測に使用されたアルマ望遠鏡のバンド6受信機は、米国国立科学財団の支援により今後アップグレードされ、恒星の進化や惑星形成の謎を明らかにする望遠鏡の能力をさらに高めると期待されます。「私たちは、より強力なデジタル信号処理技術の開発と導入を含む観測機器のアップグレードに着手しています。これらのアップグレードは、一回の観測で調べることのできる分子の数を大幅に増やすことができ、惑星形成の理解をさらに深めるために不可欠なものでしょう。」とトッド・ハンター氏は述べています。
アルマ望遠鏡について
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院科技部(MoST)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。