巨大な赤ちゃん星を取り巻く降着円盤の発見

中国科学院上海天文台のシン・ルー氏(国立天文台の元ポスドク研究員)らの国際研究チームは、銀河系中心部に、太陽の32倍の質量をもつ赤ちゃん星(原始星)を取り巻く降着円盤を発見しました。これほど巨大な原始星の周りに降着円盤が観測された例は珍しく、さらには、この降着円盤には二本の渦巻き腕が見られます。渦巻き腕は、1万年以上前に別の天体が接近・通過した影響によって形成されたと考えられます。今回の発見は、これまでよくわかっていなかった重い星の形成にも、軽い星と同様に降着円盤を介した成長過程が関係している可能性を示すものです。
原始星円盤-説明図改

赤ちゃん星を取り巻く降着円盤と接近・通過した天体の時間変化を追った数値シミュレーション画像(a-c)。左下から、接近時、それから4,000年後、8,000年後の様子。通過後、降着円盤に渦巻き腕が見られる。アルマ望遠鏡によって観測された渦巻き腕をもつ降着円盤とその周りにある2つの天体の電波画像 (d)。天体同士が最も接近した時から約12,000年が経過していると推測される。
Credit: Lu et al.
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太陽のような軽い星は、星の材料となる分子ガスの塊の中に円盤が形成され、その円盤を通して周囲のガスが中心へと降り積もり形成されることが知られています。赤ちゃん星(原始星)を取り巻く降着円盤は「原始星円盤」とも呼ばれ、星のゆりかごのような存在です。一方、太陽質量を大きく超える重い星(大質量星)、特に進化が速いO型原始星の形成については、軽い星と同じ過程なのか、あるいは、別の過程を経て形成されるのかはまだよくわかっていません。

地球から約26,000光年の距離にある銀河系中心部には、水素分子を中心とした高密度な分子ガスが大量に分布している「銀河中心分子雲帯」と呼ばれる領域があります。この領域は、従来の研究では星の誕生には適さない環境だと考えられていましたが、近年の観測により原始星の存在が確認され、星の形成領域としても注目されています。しかし、銀河系中心部は星の形成過程を調べる対象としては地球から遠い位置にあることに加えて、銀河中心と地球の間に分布する星間物質が邪魔をしてしまい、星が形成される様子を詳細に調査することが困難でした。

中国科学院上海天文台のシン・ルー氏を中心とする国際研究チームは、アルマ望遠鏡の長基線観測を用いて、40ミリ秒角の解像度で銀河中心分子雲帯の一部を観測しました。この解像度を持ってすれば、東京から大阪にある野球ボールを簡単に見つけることができます。その結果、銀河系中心部に、太陽の32倍の質量を持つO型原始星を取り巻く降着円盤を発見しました。その直径は、約4 ,000 au(天文単位auは地球と太陽の間の平均距離)に達します。「これは、降着円盤を持つことがわかっている最も重い原始星のひとつであり、銀河系中心部にある原始星円盤を電波で直接撮像した初めての例です。」と、研究チームメンバーのチジョ・チャン氏(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)は述べています。

さらに興味深いのは、今回発見された降着円盤には2本の渦巻き腕が見られることです。原始星円盤で渦巻き腕が検出されるのは珍しいです。研究チームが調査を続けたところ、降着円盤から約8,000 au離れた場所に、太陽質量の3倍程度の天体を発見しました。数値シミュレーションとの比較から、1万年以上前にこの天体が降着円盤に接近・通過した際に、円盤を乱し渦巻き腕が形成された可能性が示されました。「アルマ望遠鏡を用いて発見した降着円盤の渦巻き腕は、天体同士が近接した痕跡と考えられます。」とシン・ルー氏は述べています。

今回の発見により、これまでよくわかっていなかった重たい星の形成にも、降着円盤の存在が関係している可能性が示されました。「星の質量が違っても、その形成過程は同じである可能性があります。アルマ望遠鏡によるさらなる高解像度観測によって、大質量星の形成の謎が解明されることが期待されます。」と、シン・ルー氏は今後の展望についても語っています。

 

論文情報

この研究成果は、X. Lu et al. “A massive Keplerian protostellar disk with flyby-induced spirals in the Central Molecular Zone”として、英国の科学誌「ネイチャーアストロノミー」に掲載されました (DOI:10.1038/s41550-022-01681-4)。

この研究は、the initial funding of scientific research for high-level talents at Shanghai Astronomical Observatory、日本学術振興会科学研究費JP20K14528、および、the National Natural Science Foundation of China grants W820301904 and 12033005 の助成を受けて行われました。

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院科技部(MoST)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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