アルマ望遠鏡が捉えた惑星系形成の現場:惑星の外側で塵が集まり、次の惑星が生まれる様子

アルマ望遠鏡は、すでに形成された惑星の外側に、次なる惑星の材料となる塵が局所的に集まっている現場を捉えました。国立天文台/総合研究大学院大学5年一貫制博士課程学生の土井聖明氏(現マックスプランク天文学研究所ポストドクトラルフェロー)らの国際研究チームは、PDS 70という若い星の周りの原始惑星円盤を、アルマ望遠鏡を用いて波長3 mmでの高解像度観測を行いました。この天体はすでに形成された二つの惑星を持つことが知られており、アルマ望遠鏡による新たな観測は、惑星軌道の外側に塵が局所的に集積していることを明らかにしました。この結果は、既に形成された惑星が次の惑星の材料を集め、その形成を駆動している可能性を示唆しています。本研究は太陽系のような複数の惑星からなる「惑星系」の形成過程の解明に貢献するものです。

惑星は、これまでに5000個以上発見されており、それらは複数の惑星からなる「惑星系」をなしています。これら惑星は、若い星を取り囲む原始惑星系円盤の中で、ミクロンサイズの固体微粒子である塵から生まれると考えられています。しかし、どのようにして塵が集まり、惑星系が形成されるのか、その過程は未だ解明されていません。

PDS 70は、惑星形成の現場である原始惑星系円盤の中に、可視・赤外観測から既に形成済みの惑星が2つ発見されている唯一の天体です(リンク:https://www.eso.org/public/news/eso1821/ )。この天体の塵の分布の解明は、形成済みの惑星が周囲の原始惑星系円盤さらなる惑星の形成にどのような影響をおよぼしているかを解明する手掛かりとなります。

この天体は過去に、アルマ望遠鏡を用いて波長0.87 mmでの観測が行われ、惑星の外側リング状に分布した塵からの放射が見られていました。しかし、この波長では塵が光学的に厚い(透明度が低く手前の塵奥の塵が隠している)可能性があり、放射の分布が分布に対応していない可能性がありました。

土井氏らの研究グループは、アルマ望遠鏡を用いて波長3 mmで原始惑星系円盤PDS 70の高解像度観測を行いました。この波長3 mmの観測は、過去の0. 87 mmの観測よりも光学的に薄く(透明度が高く)、塵の分布をより正確に捉えることができます。新たな波長3 mmの観測過去の0.87 mmの観測とは異なる放射分布を示し、惑星外側のリングの中でも特定の方向に塵の放射が集中していることを明らかにしました。このことは、成長した塵が狭い領域に集まっていることを意味します。

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PDS 70の擬似カラー合成画像。左はアルマ望遠鏡による波長0.87 mmの以前の観測画像、右は波長3 mmの新たな観測画像。アルマ望遠鏡の観測データ(赤)のほか、Keck望遠鏡による赤外連続波画像(緑)、VLT望遠鏡による可視水素輝線画像(青)を合成。Keck望遠鏡やVLT望遠鏡で見える惑星の外側に、アルマ望遠鏡で見える塵がリング状に分布していることがわかります。波長3 mmで観測された画像では特に北西方向(画像右上)に塵の放射が集中していることがわかります。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), W. M. Keck Observatory, VLT (ESO), K. Doi (MPIA)

惑星の外側に見つかった塵の集まりは、既に形成された惑星がその外側の狭い領域に塵を掃き集めていることを示唆します。この狭い領域に集められた塵が合体することで、次の惑星の形成へとつながります。太陽系のような複数の惑星からなる惑星系の形成は、このようなプロセスの繰り返しにより内側から順に惑星が形成されることで説明できることを示しています。本研究は、すでに形成された惑星が周囲の円盤に影響を及ぼし、惑星系の形成に至る過程を観測的に捉えることに成功しました。

本研究をリードした土井聖明氏は「同じ天体内でも、その中の要素ごとに異なる波長で光を放射します。そのため、同じ天体を複数の波長で観測することで、それぞれ異なる要素の特徴づけができます。この天体では可視・赤外では惑星、電波では原始惑星系円盤が観測されました。本研究では、アルマ望遠鏡の観測波長域においても、波長ごとに異なる放射分布を示し、アルマ望遠鏡での複数波長での観測の重要性を示しています。それぞれの要素は互いに影響を及ぼしあうため、さまざまな望遠鏡、観測設定で異なる要素を観測し、それらを比較することで、その系全体の理解を深めることができます。」と語っています。

この研究成果は Doi et al. “Asymmetric Dust Accumulation of the PDS 70 Disk Revealed by ALMA Band 3 Observations” として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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