星や惑星は、ガスや塵(ちり)の塊、分子雲の中で誕生します。極めて低温(マイナス260度以下)の分子雲中では、塵の表面を触媒として化学反応が進み、複雑な有機分子が氷として生成されると考えられています。星が誕生し、周囲の物質があたためられると、これらの氷は融け、ガスの状態で放出されます。星の赤ちゃんを包むゆりかごのような暖かい分子ガスの塊「ホットコア」では、実際に有機分子が電波観測により検出されています。太陽系の材料となった物質にも生命関連物質の材料となりうる多様な有機分子が含まれています。
一方で、放射性同位体の分析から、太陽系は超新星爆発の影響を受けた領域で誕生した可能性が示唆されています。太陽よりも約10倍以上重い星が生涯を終える時に起こす超新星爆発は、宇宙の中で最も高エネルギーの現象の一つであり、鉄より重たい元素の生成、宇宙線(高エネルギー粒子)の加速、星形成の誘発など、周囲の環境に多大な影響をもたらします。その中で誕生する星・惑星系では、高エネルギー粒子や強い衝撃波が有機分子を破壊したり、または新たな分子の生成を促したりする可能性があります。しかし、これまで超新星爆発が起きた領域でホットコアが発見された例はなく、その影響はよくわかっていません。
新潟大学の下西隆准教授らの研究チームは、超新星残骸の影響下にあるホットコアを探すため、超新星残骸RX J1713.7-3946を観測しました。この超新星残骸は、中国の歴史文献に1600年前に起きた爆発が記録されており、強い宇宙線やX線・ガンマ線放射、秒速数千キロメートル近い衝撃波など、太陽系近傍の星形成領域では見られない過酷な環境です。
アルマ望遠鏡を用いた、約0.5秒角という非常に高い解像度での観測の結果、超新星残骸内に初めて、星の赤ちゃんを包むホットコアが2天体発見されました。さらに、いずれの天体にも多様な有機分子が付随していました。2天体のうちの一つに対しては詳細な分析が行われ、複雑な有機分子の存在割合が、通常の環境下にあるホットコアと類似していることも明らかになりました。これは、超新星爆発の現場においても、有機分子が破壊などの影響を受けていないことを示します。有機分子は私たちが考えていたよりも多様な場所に存在し、過酷な宇宙環境でも化学的な豊かさが保たれるようです。
超新星爆発の影響から星のゆりかごが守られている要因として、超新星爆発に曝され始めてからの経過時間がまだ十分ではなく、有機分子がまだ壊れ始めていない、もしくは超新星爆発の衝撃波により発生する強力な磁場が宇宙線の侵入を妨げている、といった可能性が議論されています。
これが、超新星爆発が星・惑星材料物質に与える影響の普遍的な描像かどうかはまだわかりません。今後、電波望遠鏡による分子ガスの大規模観測や、赤外線望遠鏡による塵や氷の観測が進むことで、超新星爆発の影響を受けた星のゆりかごやその中にある原始惑星系円盤の物理的・化学的性質がより詳細に明らかになることが期待されます。太陽系形成環境の普遍性あるいは特殊性に対しても、これまでにない新たな知見がもたらされるでしょう。
図1. 超新星残骸に発見された星の赤ちゃんを包む暖かい分子ガスのゆりかご(ホットコア)の想像図。青色は超新星爆発により生じた高エネルギー粒子や光子、茶色は星間物質を表している。 クレジット:下西隆(新潟大学)[観測結果に基づき生成AIによる描画支援を利用]
DOI: 10.3847/1538-4357/ae6fba
この研究は、文部科学省科学研究費助成事業(課題番号: 20H05845, 24H00246, 25K07364, 25K07367, 26K00761)、内田エネルギー科学振興財団試験研究費助成 (R07-1017)、国立天文台ALMA共同科学研究事業(2024-27B)の支援を受けたものです。
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。