星形成過程において、磁場がどのような役割を果たすかは、これまでも広く議論されているテーマです。この磁場がどれほど強いのか、そして、磁場は星の材料物質を形成中の中心星まで運ぶことができるか、さらに、いつどこで重力が磁力の影響を上回るのかは、大きな謎でした。台湾中央研究院のパトリック・コッホ氏を中心とする国際研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、W51 e2およびe8と呼ばれる大質量星形成領域の磁場構造を、0.1秒角というこれまでにない高い解像度で捉えました。この領域の初期の解像度は3秒角だったので、30倍(面積に換算すると約1000倍)も解像度が向上しています。これは、アルマ望遠鏡の優れた感度と解像度によって実現したもので、磁場の分布を1000倍も鮮明にし、500天文単位という小さな領域まで初めて可視化することに成功しました。
一連の観測画像(図1)からは、4つの異なるスケールが見えてきます。それぞれのスケールは、星が形成される過程、そして中心星に物質が流れ込む過程において、磁場が果たす重要な役割を捉えています。2-3秒角の画像(外層スケール)では、強い磁場によって作られた模様が見えています(この画像では磁場は横向き。)。周辺から中心付近に向かって物質が降着している様子が映っています。0.7秒角の画像(全体崩壊スケール)では、重力の作用によって物質が集まっていく一方、局所的にはそれに抵抗する作用が磁場によって生じます。0.26秒角の画像(局所崩壊スケール)では上の塊が2つの小さな核に分裂しており、よく見るとこの部分の磁場の分布と重力の作用は全体崩壊(0.7秒角の画像)と同じような状態を表しています。このように、解像度の違いによって物質や磁場の見え方が異なるため、星が形成される過程を詳しく観察することができるのです。
最も解像度の高い0.1秒角(約500天文単位)の画像では、局所的な物質降着を表している画像(0.26秒角画像)で見られる広がった球状のガスが、複雑に入り組んだ状態でつながっている様子が分解して見えています。このガスの降着流は、星が生み出されているまさに中心に向かっており、観測された磁場はこの流れに沿っていることがわかりました。ガスの流れに沿って磁場があるということは、磁場の力がガスの流れを外圧や重力作用から守っているということであり、非常に重要な結果です。つまり、ガスの降着流は磁場に支えられて安定していることを示しており、中心星に物質が供給される過程において磁場が重要な役割を果たしている可能性を示しています。
パトリック・コッホ氏は、「今回の結果は他の望遠鏡では不可能なアルマ望遠鏡の優れた感度と解像度を証明しており、星を形成する中心核への物質の流れ込みを安定化させるという、磁場の新たな役割を発見しました」と説明しています。
論文情報
この研究成果は、Koch氏らによる論文 “A Multiscale Picture of the Magnetic Field and Gravity from a Large-scale Filamentary Envelope to Core-accreting Dust Lanes in the High-mass Star-forming Region W51”(Astrophysical Journal誌)で紹介されています。
この記事は、中央研究院天文及天文物理研究所が2023年1月4日に発表したプレスリリースをもとに作成しました。
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院科技部(MoST)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。