天の川銀河に存在する恒星の多くは単独ではなく連星として生まれてきます。特に質量の大きな恒星の多くは連星です。こうした星は恒星進化や重元素の供給に大きな影響を与えますが、近接した大質量連星がどのように形成されるのかは、まだよく理解されていません。これまでに知られている連星は誕生から長期間経ったものが多く、形成過程を再現することが難しいためです。
この疑問に答えるため、上海交通大学のイーチェン・チャン氏が率いる国際研究チームは、ガスが降着して成長中の大質量原始星を2つ含むIRAS 07299−1651という天体に注目しました。研究チームは、以前の研究でアルマ望遠鏡を用いて分子雲に深く埋もれたこの若い連星を検出し、力学的な性質を調べています。当時の結果は、大きなガス円盤の分裂によって近接連星が形成される従来の描像と概ね一致していました。しかし、そのシナリオでは説明しにくい点が一つありました。それぞれの原始星を取り巻く円盤の向きが一致していないように見えたのです。
さらなる調査として、2つの星の微小な固有運動を測定する長期観測計画が立案されました。この測定には、アルマ望遠鏡の高い角分解能と位置決定精度が必要でした。8年近くにわたる観測をつなぎ合わせて、研究チームは星の軌道運動を示すわずかな位置変化を捉えました。「初めて、まだ誕生途中の2つの大質量星が互いに回りあっている様子を目撃したのです」と、論文の責任著者であるイーチェン・チャン氏は言います。
さらに研究チームは、アルマ望遠鏡による複数波長の観測と、カール・ジャンスキーVLA、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)、欧州南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)による観測を組み合わせることで、形成中の大質量連星のこれまでで最も詳細な姿を描き出しました。共著者の田中圭氏は、「アルマ望遠鏡の複数波長観測により、軌道解析に不可欠な原始星の質量を絞り込むことにも成功しました。さらに、JWSTなどによる新たな観測と新しいメンバーの専門性も加わり、円盤とジェットの構造を立体的に捉えられたことを、とても感慨深く思います」と手ごたえを語りました。
これらの観測によって、連星系の三次元構造が非常に詳しく明らかになりました。軌道の推定だけでなく、アルマ望遠鏡はそれぞれの原始星を取り巻くコンパクトな星周円盤まで分解し、それぞれの星の性質に強い制限を与えました。一方JWSTの観測は星から吹き出すジェットの方向を特定しました。ここから2つの驚くべき発見がありました。1つ目は、星の軌道が大きな離心率を持ち、円に近い軌道ではなく、大きく歪んだ軌道であること。2つ目は、それぞれの星周円盤が、互いに対しても、また軌道面に対しても大きく傾いていることです。筆頭著者のヤオ・ワン氏は、まるで立体パズルを解いているようでした。観測一つ一つが新しいピースとなって、最終的に星の軌道、星周円盤、ジェットが一つの完成した絵になったのです」と述べています。
もし2つの星が単一のガス円盤が分裂して生まれてきたとしたら、これらの特徴を説明できません。そのような従来の考え方では、星も円盤もおおむね同じ向きを持つと考えられます。今回決定された三次元構造は、近接した大質量連星が従来とは異なる過程で形成されたことを示唆しています。独立に誕生した2つの星が、分子雲中で成長途中に近距離で遭遇して重力的に結びついた可能性が示されたのです。「本研究は、星の一生の最初の段階が極めて複雑であることを物語っています。互いに出会い、重力の中でダンスを踊ってやがて結ばれるチャンスもあるのです」と共著者のジョナサン・タンが表現しています。
同時に、有力な新しい観測的アプローチも示されました。これまでの研究では、天球上の離角を測定することしかできず、まれに視線方向の速度差を知ることができただけです。長期間の高精度観測によって、これまで困難だった分子雲に埋もれた連星系の三次元構造の測定がついに可能になったのです。
今後の観測で、IRAS 07299−1651 の軌道はさらに精密に求められるでしょう。それ以上に重要なことは、同じ技法で若い大質量連星を多数観測することで、この形成メカニズムの普遍性が確かめられ、宇宙で最も大質量な星々がどのように連星系を形成するのかを明確に理解できるようになります。この研究は「大質量連星の誕生」という天文学の未解明問題に風穴を開ける可能性があるのです。
図1:円内は、アルマ望遠鏡により波長0.9mmの連続波で観測された、星形成領域IRAS 07299−1651中心部にある連星系。再現された軌道線が描かれている。それぞれの星を囲む電離した星周円盤の回転方向が、ドップラーシフトによって赤方/青方偏移した水素の再結合線で捉えられており、矢印は双極方向に噴き出すジェットの向きを示している。背景はJWSTで観測したこの領域の中間赤外線画像(赤 = F470N、緑 = F405N, 青 = F360Mのフィルタ画像の合成)。(クレジット:NASA, ESA, CSA, STScI, Joseph DePasquale (STScI), ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Yichen Zhang)
図2:形成途中にある近接大質量連星の想像図。それぞれの星を取り巻く円盤の角度が互いに傾いている。(クレジット:Yichen Zhang)
この研究成果は、Yao Wang et al. “An eccentric massive protobinary assembled via a core-merger parabolic encounter” として Nature Astronomy 誌に2026年9月7日付で掲載されました。
DOI: 10.1038/s41550-026-02953-z
– イーチェン・チャン(Yichen Zhang) – 上海交通大学 副教授
– ヤオ・ワン(Yao Wang) – 上海交通大学 博士課程学生
– ルビン・フェドリアニ(Ruben Fedriani) – アンダルシア天体物理学研究所
– ジョナサン・タン(Jonathan C. Tan) – チャルマース工科大学/バージニア大学 教授
– 田中 圭 – 東京科学大学 助教
関連リンク
•アルマ望遠鏡で迫る大質量連星系の起源 -誕生のダイナミクスを解明-(アルマ望遠鏡プレスリリース 2019.03.28)
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。