日本の7mアンテナ1号機、アルマ観測所へ引き渡し

アルマ望遠鏡の口径7mアンテナ1号機が性能確認審査をクリアし、5月2日にアルマ観測所への引き渡しが行われました。このアンテナは日本が製作を担当する12台の7mアンテナの最初の1台であり、この引き渡しはアルマ望遠鏡の本格運用に向けた大きなステップとなります。

アルマ望遠鏡は、口径12mのパラボラアンテナ54台と口径7mのパラボラアンテナ12台の計66台を結合することでひとつの巨大な電波望遠鏡として機能します。この66台のパラボラアンテナのうち、日本は口径12mアンテナ4台と7mアンテナ12台、計16台の製造を分担しています。これらのアンテナは日本国内で製造後、分割して船便でチリに送られ、アルマ観測所山麓施設(標高2900m)内のアンテナ組み立てエリアで全体システムの組み上げと多数の項目にわたる調整、試験が行われます。その後国立天文台スタッフによって天体を使った詳細な性能試験が行われ、性能確認審査を経てアルマ観測所に引き渡されます。日本の12mアンテナは、1号機が2008年末にアルマ観測所の第1号アンテナとして引き渡されて以降、これまでに4台全ての引き渡しが行われています(2008年12月19日『日本の12mアンテナが第1号アンテナとして引き渡し』) 。そして今回、口径7mアンテナの1号機が性能確認審査に合格し、アルマ観測所に引き渡されました。今後、アルマ観測所のスタッフにより受信機の搭載と総合的な電波性能試験、試験観測がおこなわれ、標高5000mの山頂施設に移設されて科学観測に使われることになります。

東アジア・アンテナマネージャの稲谷順司(国立天文台ALMA推進室教授)は今回の引き渡しを受けて、「7mアンテナの製造では、12mアンテナで実証された技術を継続しつつ、合計12台の性能の良くそろったアンテナを実現するための様々な工夫が盛り込まれました。また、パラボラの口径が小さくなった分、より精度の高いアンテナになりました。12台すべてを完成させアルマ観測所に引き渡すのは容易な仕事ではありませんが、今回の引き渡しで今後の明るい見通しを確信することができました」と述べています。

日本が担当するパラボラアンテナ16台からなるシステムを、アタカマ・コンパクトアレイ(Atacama Compact Array; ACA)と呼んでいます。ACAは、天体からやってくる電波の強度を精度よく測定するために欠かせない装置です。ALMAのように、多数のパラボラアンテナで受信した電波をコンピュータで合成してひとつの大きな電波望遠鏡として機能させる仕組みを「電波干渉計」と呼びます。電波干渉計ではそのアンテナの広がりと同じ口径を持つ電波望遠鏡と同等の視力(解像度)を得ることができ、アンテナを広い範囲に配置すればそれだけ高い解像度を得られます。こうしてアンテナの間隔を広げていくことで天体の詳細な構造を調べることができるのが電波干渉計の強みです。しかし逆にぼんやりと広がった雲のような天体を観測しづらくなります。広がった天体を観測するにはアンテナ間隔を狭くする必要がありますが、米欧が製造を分担する口径12mのパラボラアンテナでは、隣り合うアンテナが衝突するのを防ぐため15mよりもアンテナを近づけることができません。一方ひとまわり小さなACAの7mアンテナを使えばアンテナ間隔をより狭くすることができ、その分広がった天体までしっかりと観測することができます。またACAの口径12mアンテナは干渉計としてではなく単一の電波望遠鏡としてはたらき、対象天体から来る電波の強度を正確に測ることができます。これらタイプの違う3つのパラボラアンテナを組み合わせることで、アルマ望遠鏡は高い解像度と広がった天体に対する高い観測性能、そして電波強度の正確な測定能力をあわせもつ極めて強力な電波望遠鏡となるのです。

アルマ望遠鏡は、ヨーロッパ、北アメリカ、東アジアとチリの国際協力プロジェクトです。

写真1. トランスポーターに載せられて組み立てエリアから運び出される7mアンテナ(写真:山田真澄)

写真2. アルマ観測所山麓施設に移設された7mアンテナ(写真:齋藤正雄)

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