アルマ望遠鏡が、電波による高解像度太陽観測を開始しました。アルマ望遠鏡は、太陽の彩層と呼ばれる領域から放たれる電波を観測することができ、その領域の温度を直接測定することが可能です。太陽黒点の周囲での活発な活動を詳細に観測することで、太陽に関するさまざまな謎に迫ることが期待されています。
アルマ望遠鏡は、星や惑星の材料となる非常に低温のガスや塵(マイナス260℃程度)が放つ電波を捉えることを得意としていますが、高温の太陽が放つ電波も観測することができます。しかし、太陽から放たれる電波はそれ以外の天体からやってくる電波に比べて圧倒的に強いため、電波の強度や電波放射領域の形状を観測で精密に測定するには、太陽観測のためだけの特別な仕組みや観測手法を開発する必要がありました。このため、世界中から太陽観測の専門家たちが集まり、2014年から2016年にかけてアルマ望遠鏡は太陽を観測する試験を繰り返してきました。今回公開する画像は、2015年12月18日の試験観測で得られたものです。
太陽黒点は、太陽内部で作られた磁力線が束になって太陽表面に現れたその断面であり、非常に活発な活動を引き起こします。太陽黒点は、周囲の太陽表面より温度が低いため、暗く見えます。アルマ望遠鏡の観測では、太陽表面のすぐ上にある「彩層」と呼ばれる領域から放たれる電波が観測されており、黒点周囲の彩層の温度分布を高解像度で調べることが可能です。彩層は太陽表面より高温になっていますが、その加熱メカニズムを明らかにすることもアルマ望遠鏡の大きな目標です。また同じ電波でも、波長を変えると見える深さが異なります。波長が長いほど彩層の深い部分を見ることができるので、図1と図2では図2のほうがより深く、太陽表面に近い場所を見ていることになります。
アルマ望遠鏡での太陽試験観測に従事した国立天文台チリ観測所の下条圭美助教は、「太陽は、最も我々に近い恒星ですが、いまだ謎の多い天体です。これまで電波からガンマ線までさまざまな波長により太陽は観測されてきましたが、高分解能のミリ波・サブミリ波観測は太陽物理学にとって未知の世界です。アルマ望遠鏡の太陽観測データから、今まで見えなかった現象が発見され、我々の太陽に対する理解が大幅に進むことが期待されています。」と語っています。
アルマ望遠鏡による太陽観測については、2016年10月に開催された「三鷹 星と宇宙の日」で下条氏がミニ講演を行いました。講演の録画は以下でご覧いただけます。
動画: アルマ望遠鏡ミニ講演『アルマ望遠鏡で見る太陽』
国立天文台は、太陽観測においては長い歴史を持ち多くの観測装置を運用しています。国立天文台太陽観測所では、東京都三鷹市に設置した望遠鏡で、可視光と赤外線で太陽の全面観測を行っています。また太陽観測衛星「ひので」は、宇宙空間からX線で太陽全面を、紫外線と可視光で太陽の一部を詳細に観測しています。さらに野辺山電波へリオグラフ(現在は名古屋大学宇宙地球環境研究所が運用)は、アルマ望遠鏡が観測する電波よりも10倍ほど波長の長い電波で太陽全面を継続的に観測しています。これらとアルマ望遠鏡による観測成果を合わせることで太陽の姿を多角的に描き出し、私たちに最も身近な恒星を総合的に理解することを目指します。
画像3: 可視光で撮影した太陽全面の写真とアルマ望遠鏡画像の比較。アルマ望遠鏡では、黒点の周囲を拡大してその詳細を観測することができます。この可視光画像は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた太陽観測衛星ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリーによって撮影されたものです。
ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA