アルマ望遠鏡モリタアレイ向け新型分光計の開発がアルマ評議会で承認

アルマ望遠鏡の中で日本が設計開発を担当したモリタアレイ向けに新しい分光計を開発することが、2017年11月に開催されたアルマ評議会で承認されました。アルマ望遠鏡がさらに画期的な成果を挙げ続けるための「アルマ望遠鏡将来開発計画」の一環として、韓国天文宇宙科学研究院(Korea Astronomy and Space Science Institute: KASI)と国立天文台が協力してこの開発を実行します。

開発プロジェクトの代表を務めるKASIのジョンスー・キム氏は、「新分光計プロジェクトがアルマ評議会で承認されたことは、費用対効果の高さに加え、KASIと国立天文台の緊密な協力関係が評価されたということを示しています。この分光計は、韓国がアルマ望遠鏡東アジアチームを通して装置開発で貢献する初めてのケースになります。」と語っています。

東アジア・アルマプロジェクトマネージャの井口聖 国立天文台教授は、「新分光計は、韓国のアルマ望遠鏡グループが行う最初の大規模装置開発プロジェクトです。アルマ望遠鏡を通して、KASIと国立天文台は協力関係を深めていくつもりです。」とコメントしています。

アルマ望遠鏡では、アンテナを最大で16kmの範囲に展開することで仮想的な巨大望遠鏡を構成し、超高解像度を実現しています。一方でアンテナ間隔を広げると、空の上で見かけ上大きく広がった天体からの電波をとらえにくくなるという欠点があります。この欠点を克服するためにはアンテナの間隔を逆に狭くする必要があり、このためにアルマ望遠鏡はアンテナを狭い範囲に密集させた「モリタアレイ(アタカマコンパクトアレイ、Atacama Compact Array [ACA])」を擁しています。日本が開発を担当したモリタアレイは12台の7mアンテナと4台の12mアンテナからなりますが、7mアンテナは干渉計として、12mアンテナは単一鏡として、それぞれ異なるはたらきをします。これらのアンテナで集められた電波は「ACA相関器」で処理されています。

アルマ望遠鏡モリタアレイのアンテナ群

アルマ望遠鏡モリタアレイのアンテナ群
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

現在のACA相関器は、干渉計として機能する7mアンテナ12台からの信号を処理することに最適化されているため、残りの12mアンテナ4台からの信号処理には最適化されていません。こうした状況を受けて、KASIと国立天文台は、モリタアレイ12mアンテナに特化したデジタル分光計の開発を検討してきました(12mアンテナからのデータ処理においては、アンテナ間のデータを組み合わせる「相関」ではなく、プリズムのように電波を「分光」することが重要なので、「分光計」と呼びます)。7mアンテナからの信号は従来のACA相関器で、12mアンテナからの信号は新分光計で独立に処理することが可能になり、モリタアレイの性能を最大限に引き出すことが可能になります。こうすることで、モリタアレイの性能、特に電波の強度を精密に測定する能力を最大化することができます。

GPUを用いた新デジタル分光計の開発にあたっては、KASIが設計・開発・性能検証・現地への輸送に責任を持ち、国立天文台はソフトウェア・ハードウェアの開発とシステム設計、アルマ望遠鏡全体システムとの統合に貢献します。開発はすでに両者の協力で進んでおり、2017年2月には基本設計審査会を開催しました。その結果を受けてアルマ望遠鏡科学諮問委員会もこの開発計画を支持し、今回のアルマ評議会での正式承認となりました。今後は2018年末の最終設計審査会を経て、2020年にアルマ望遠鏡に設置する予定です。

ACAspectrometer-201801

左は、開発中の新分光計。”GEFORCE GTX”と書かれたGPUボードが見えます。右は、新分光計のために新たに開発されたDRXPボード。アンテナから送られてくるデジタル光信号を受信する機能を持っています。
Credit: NAOJ/KASI

ACAspectrometer_NRO45m

開発中の新分光計を国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡に試験的に搭載して取得された、年老いた星ケフェウス座T星の一酸化ケイ素スペクトル。
Credit: NAOJ

NEW ARTICLES