回転軸の傾きがそろわない原始惑星系円盤-惑星軌道は最初から不揃い?-

理化学研究所開拓研究本部坂井星・惑星形成研究室の坂井南美主任研究員、イーチェン・チァン基礎科学特別研究員と千葉大学先進科学センターの花輪知幸教授らの共同研究グループは、アルマ望遠鏡を用いて成長途上にある若い「原始惑星系円盤」を観測し、円盤の回転軸の傾きに内側と外側でずれがあること、円盤内部で星間塵が合体成長し始めている可能性があることを見いだしました。本研究成果は、惑星軌道の回転軸の傾きにばらつきのある惑星系など、近年次々に発見されている多様な構造の系外惑星系の起源や、惑星形成の開始時期の解明につながると期待できます。
星と惑星系は、銀河の中に漂うガスや塵からなる分子雲が自己重力で収縮することで誕生します。生まれたばかりの原始星の周りでは、原始星へ回転しながら落下する降着ガスの内側に円盤が形成されます。この円盤の中で将来惑星が誕生することから、原始惑星系円盤と呼ばれています。このため、円盤の形成過程の理解は惑星形成とも密接な関係にあります。
今回、共同研究グループは、この初期円盤に着目し、アルマ望遠鏡による電波観測でその詳細構造を明らかにしました。内側と外側の回転軸の傾きのずれ(ワープ構造)の発見は、原始星や円盤へ外から降着してくるガスの回転軸が時間とともに変化していることを示しています。さらに、2波長の電波強度比の空間変化を測定し、内側の円盤では星間塵の合体成長が始まっている可能性が高いことを示しました。
本研究は、英国の科学雑誌『ネイチャー』の掲載に先立ち、オンライン版(12月31日付け:日本時間2019年1月1日)に掲載されます。

※このプレスリリースは、理化学研究所主導で発表されたものです。

背景

星と惑星系は、銀河の中に漂うガス(主に水素分子)や塵からなる分子雲が自らの重力で収縮することにより誕生します。生まれたばかりの星(原始星)の周りにはたくさんのガスが存在し、原始星に向かって落下していきます。落下してきたガスは、回転軸の向きを保ったまま、最終的には遠心力と重力が釣り合った半径に落ち着き、「原始惑星系円盤」を形成します。

このため、降ってきたガスの角運動量(回転の向きと勢いを表す量)が、原始惑星系円盤の向きや大きさの起源と考えられます。原始惑星系円盤の中で惑星が形成され、惑星系となるため、原始惑星系円盤の形成過程の理解は惑星形成の理解と密接な関係にあります。

近年、若い原始惑星系円盤において、円盤内の環状構造やらせん状構造が次々と明らかになっています。特に、環状構造のような円盤内の「構造形成」は惑星形成の始まりとも考えられ、惑星形成がこれまで考えられてきたよりもずっと早くから始まっている可能性が指摘されています。成長過程にある初期の円盤は周囲のガスに埋もれているため、円盤や落下するガスだけを抽出するのは困難です。しかし、坂井主任研究員らはこれまで、ガスに含まれるさまざまな分子ガスが放射する電波(輝線)を利用し、落下するガスや若い円盤を切り分ける手法を開拓してきました。

本研究では、初期円盤の一つであるIRAS04368+2557原始星周りを回転する円盤に着目し、チリのアタカマ砂漠に建設された「アルマ望遠鏡」を用いて、高空間分解能の電波観測を試みました。これにより、初期の円盤に構造はあるか、またそこに含まれている星間塵の大きさが、分子雲に含まれる星間塵に比べて成長しているかを調べました。

研究手法と成果

IRAS04368+2557はおうし座の方向、地球から450光年離れた場所にある生まれたばかりの太陽型原始星です。この原始星を中心としてその周りに、ケプラー運動 [1] で回転している半径80~100天文単位 [2] 程度の原始惑星系円盤が形成されていることが分かっています。この円盤はまだ形成途上で若いため、周囲のガスや塵が次々と円盤に降着し、通常の原始惑星系円盤と比べて鉛直方向に膨らんだ構造をしていることが特徴です。

共同研究グループは、この円盤をアルマ望遠鏡を用いて波長0.9mmと1.3mmの電波観測を行いました。この円盤は地球から真横に見えるため、円盤の半径によって異なる厚みや星間塵が出す電波強度などを調べることができます。高感度・高分解能観測の結果、中心の原始星から遠ざかるにつれて半径に対する円盤の厚みの比が大きくなる「フレア構造」が捉えられました。さらに、円盤の厚みと半径の比が原始星から半径40~60天文単位の位置で急に変化していることから、「二重フレア構造」になっていることが分かりました。また、この位置を境に、円盤の傾きが変化していることも分かりました。これは、円盤の回転軸の傾きに内側と外側でずれがあることを示します。このずれは、原始星や円盤へと外から降着してくるガスの回転軸が時間とともに変化しているからだと考えられます。

原始星IRAS04368+2557周りの初期円盤のアルマ望遠鏡による観測結果。

原始星IRAS04368+2557周りの初期円盤のアルマ望遠鏡による観測結果。
(a)波長0.9mmと1.3mmの電波観測により明らかになった、円盤の厚みと中心の原始星からの距離(半径)の関係。厚みは原始星から遠ざかるにつれてだんだん大きくなり、さらに半径40~60天文単位で急に大きくなっている。このことから、円盤が二重フレア構造であることが分かる。
(b) 星間塵が出す電波の分布。波長0.9mm(上)と1.3mm(下)の両方で、中央面(黒点線)が半径40~60天文単位の位置から外側でわずかに水平から鉛直方向に歪んでおり、内側と外側で円盤の傾きが異なることが分かる。
Credit: Sakai et al.

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波長0.9 mmの電波強度分布における円盤平均軌道面からのずれと半径の関係。赤は北側、青は南側のずれを表しており、南北のずれが対称であることが分かる。下の図は、ずれを角度で表現したもの。40~60天文単位を境に、角度が数度変化していることが分かる。赤と青の点が観測値で、実線はすべてワープ構造を仮定したモデル計算の結果。これは、円盤の内側と外側で回転軸の傾きにずれがあることを示している。
Credit: Sakai et al.

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内側と外側で回転軸の傾きがずれる「ワープ構造」をした原始惑星系円盤の想像図。
Credit: 理化学研究所

このような構造は「ワープ構造」と呼ばれ、これまで「伴星」を持つ進化の進んだ原始惑星系円盤では知られていましたが、今回のように伴星を持たない、かつ形成初期の円盤で発見されたのは初めてのことです。ワープ構造は、惑星軌道の回転軸の傾きにばらつきのある惑星系など、近年次々と発見されているさまざまな形態の系外惑星系(太陽系以外の惑星系)の起源として注目されていました。しかし、そのような多様性の起源としては、古在機構 [3] や惑星重力散乱 [4] など3体問題での理解が主流でした。しかし一方で、複数の惑星の軌道面が他の惑星の軌道面から同じようにずれている星や、主星と惑星軌道の回転軸の傾きがずれた星なども発見され、伴星の存在のみでは説明が難しいことが問題となっていました。

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「ワープ構造」をしている円盤の断面の概念図。外円盤のさらに外側は、エンベロープと呼ばれる降着ガスへとつながっている。原始星に近づくにつれて密度や温度が高くなるため、電波強度も高くなり、実際の観測データでは中心付近が最も明るく見える。内円盤と外円盤で回転軸の傾きにずれがあるため、このような構造となる。
credit: 理化学研究所

さらに、波長1.3 mmに対する0.9 mmの電波の相対強度と半径の関係を調べたところ、半径60天文単位よりも内側で有意に0.9 mmの電波強度が相対的に弱くなっていることが分かりました。二つの波長帯間の相対強度は星間塵の大きさに依存し、短い波長の相対電波強度が小さくなるほど星間塵のサイズが大きいことを示しています。このような手法は星間塵成長の指標として広く用いられており、円盤を空間的に解像しない観測と、それをもとにした星間塵成長の可能性についての議論は、これまでにも活発に行われてきました。しかし、今回のような若い円盤で、その変化の空間分布が捉えられたのは初めてのことです。
検出された初期円盤は厚く、その後重力束縛により薄い構造になっていくと考えられます。解析結果は、そのような厚い初期円盤において、すでに星間塵が成長し始めている可能性を示しています。これは、円盤内での構造形成、すなわち惑星形成へとつながるきっかけを表す現象かもしれず、従来の惑星形成に関する理解を大きく変える結果となる可能性があります。

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相対電波強度の半径依存性。北側と南側の観測データを平均して求めた、波長1. 3mmに対する0.9 mmの電波の相対強度(縦軸)と原始星からの距離(半径:横軸)の関係。半径60天文単位よりも内側で0.9 mmの電波強度が相対的に小さくなっている。これは、円盤の内側にサイズの大きな星間塵が存在することを示す。なお、半径25天文単位以下は、正確に光学的厚み効果補正ができないため参考値である。
Credit: Sakai et al.

今後の期待

IRAS04368+2557は原始星進化の初期段階にあるため、原始星の質量に比べて周囲を取り巻くガスの質量が同程度かむしろ大きい状態にあります。このような初期円盤では、外側では降着がまだ激しく起こっており、その降着ガスによって円盤はさらに成長し大きくなっていきます。円盤の回転軌道面は、降着ガスの持つ角運動量の向きに垂直だとすると、ワープ構造の存在は、過去に降着したガスの角運動量が時期によってわずかに異なっていた可能性を意味しています。

原始星へと重力で集められるガスは、周囲のガス分布に密度のゆらぎがあり必ずしも一様ではありません。そのような状況では、原始星や円盤へと降着するガスの量や向きも時期によって異なる可能性は高く、ワープ構造の存在はむしろ自然ともいえます。その意味で、本研究の成果はどこの天体でも起こり得る一般的現象かもしれません。

また、円盤垂直方向に重力束縛されて薄くなる前の初期円盤において、構造変化と関連する位置で星間塵の成長が始まっている可能性についても、どのようなきっかけで惑星形成が開始するのかという問題と関連して、重要な知見といえます。さまざまな構造の系外惑星系の起源解明に向けて、他の初期円盤構造の詳細観測が待たれます。

論文・研究チーム
この研究成果は、Sakai et al. “A Warped Disk around an Infant Protostar”として、英国の科学誌『ネイチャー』オンライン版に2019年1月1日(日本時間)に掲載されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
坂井南美(理化学研究所)、花輪知幸(千葉大学)、イーチェン・チァン(理化学研究所)、樋口あや(理化学研究所)、大橋聡史(理化学研究所)、大屋瑤子(東京大学)、山本智(東京大学)

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No. 25108005、16H03964、18H05222)の支援を受けています。


 
1 原始星の重力と回転するガスの遠心力が釣り合った運動。太陽系の惑星も同様に、太陽の周りをケプラー回転している。
2 天文学で用いられる距離の単位。1天文単位は地球と太陽の距離に由来し、約1億5000万km。
3 離れた別の惑星の影響により、軌道の傾きと離心率が交互に変動する天体力学的な効果。古在由秀 元国立天文台長らにより発見された。この機構が働くと、大きな離心率を持つ軌道は、傾いた円軌道に変化することができる。
4 近くを通過する惑星の重力により、軌道が変化すること。同じ平面を回る惑星であっても、この効果により傾いた軌道に変わり得る。

 

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