天文学新時代へ! 宇宙論的距離におけるマルチメッセンジャー天文学の新たな展開 ―重力レンズ効果が解き明かした、約110億年前の爆発的な星形成活動とニュートリノのつながり―

南極に設置されたニュートリノ検出器「IceCube(アイスキューブ)」が検出した高エネルギーニュートリノ事象に対して、アルマ望遠鏡を含む望遠鏡群で追跡観測を行い、重力レンズを受けた極めて明るい銀河「Shadow Blaster(シャドウ・ブラスター)」を発見しました。多波長観測によって、それが約110億年前のコンパクトな星形成銀河であることが特定されました。これまで謎だったニュートリノの起源にマルチメッセンジャー天文学で迫り、初期宇宙の星形成銀河の集団が重要な役割を担っている可能性を示す重要な観測的証拠と言えます。

宇宙から届く高エネルギーニュートリノの起源特定は、現代天文学の最重要課題の一つです。これまでに、いくつかの活動銀河がニュートリノ放射源として特定されていますが、宇宙全体から届くニュートリノの総量を説明するには天体の数が到底足りず、まだ見ぬ主要な供給源がどこかに隠されていると考えられてきました。

今からさかのぼること約100億年前後の時代は、宇宙の歴史の中でも銀河が最も激しく星を生み出していた「宇宙の正午(Cosmic Noon)」と呼ばれる時代でした。こうした銀河ではニュートリノの材料となる宇宙線が大量に生成されており、理論的には、これらの銀河が宇宙全体から届く高エネルギーニュートリノの主役である可能性が高いと予測されてきました。しかし、宇宙論的距離にあり分厚い「塵(ちり)」に隠されている銀河において、個別のニュートリノ事象と結びつける観測的な証拠を得ることは、これまで極めて困難なことでした。

MITOS Science CO., LTD./台湾・国立中央大学の浦田裕次主任研究員、台湾・中原大学の黄麗錦(ハング・クイユン)副教授を中心として、東北大学学際科学フロンティア研究所の木村成生准教授、福井工業大学 工学部の宮本祐介教授や国立天文台の研究者らが参加する国際研究チームは、南極のニュートリノ観測装置「IceCube」が捉えた信号(IC 210922A)の到来方向を、ジェイムズ・クラーク・マクスウェル電波望遠鏡(JCMT)やサブミリ波干渉計(SMA)を用いて追跡観測し、対応するサブミリ波天体「JCMT0402-0424」を発見しました。追跡観測は、NASAのニール・ゲーレルス・スウィフト衛星も用いて多波長で行われました。スウィフト搭載のX線望遠鏡(XRT)による観測とバースト警戒望遠鏡(BAT)による長期モニタリングでは、IC 210922Aに付随する明確な対応天体は見つかりませんでした。長年にわたりガンマ線バーストやジェットを伴う潮汐破壊など高エネルギーの変動現象を観測してきた経験から、このスウィフトの結果をもって研究チームはIceCubeで絞り込まれた領域から高エネルギーの電磁波を放射する天体の存在を除外することができました。

解像度の高いアルマ望遠鏡による観測によって、手前にある楕円銀河が引き起こす「重力レンズ効果」により、弧状にゆがめられ、複数に分かれた天体の姿が明らかになりました。JCMT0402-0424は、約110億年前の宇宙に位置する極めて明るい銀河でした。通常、これほど強力なエネルギー源としてまず考えられるのは、巨大ブラックホールの活動や、潮汐破壊現象のような高エネルギー突発現象です。実際、これまでにニュートリノ放射との関連が報告・議論されてきた天体には、活動銀河核をもつ銀河や潮汐破壊現象が含まれます。それに対して今回の天体では、ブラックホール活動や高エネルギー突発現象に特徴的な強いX線やガンマ線放射は見られず、深い塵に埋もれて可視光でもほとんど見えないことから、「Shadow Blaster」と呼ばれています。

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今回の発見の概念図。宇宙ニュートリノ事象「IC 210922A」の方向にある爆発的な星形成銀河「シャドウ・ブラスター」を、アルマ望遠鏡で捉えました(右下・四角で囲まれた電波画像)。ニュートリノ(ν)の起源である初期宇宙に存在するシャドウ・ブラスター(中央・丸で囲まれた想像図)が、重力レンズ効果によって4つの明るくなった像として観測されています。(クレジット:MITOS)

銀河の姿は重力レンズによって拡大され、明るく見えています。すばる望遠鏡やジェミニ望遠鏡による可視光・赤外線のデータに基づいて手前の銀河が及ぼすレンズ効果の影響をモデル化し、通常は見ることができない初期宇宙の塵に覆われた星形成銀河の内部構造が詳細に解析されました。アルマ望遠鏡により測定された一酸化炭素分子ガスのエネルギー分布(SLED)を詳しく調べた結果、ブラックホールに加熱された兆候がないことも確認され、純粋に「猛烈な星形成活動」によってガスが温められている可能性が高いことが判明しました。解析の結果、この銀河の中心部には、わずか約1,500光年という非常に狭い領域に、太陽の数千億倍という膨大な質量のガスと塵がぎゅうぎゅうに押し込まれた「コンパクトコア」が存在することが分かりました。

この極限的な高密度環境こそが、粒子が衝突を繰り返してニュートリノを生成する「天然の粒子加速器」として機能しているのです。個々の銀河からのニュートリノは微弱でも、圧倒的な密度で星形成活動を行う銀河が数多く存在することで、宇宙を満たす高エネルギーニュートリノの総量の最大で約20%程度という無視できない割合を占める可能性が示されました。

研究チームはこれまで、特異な爆発現象やガンマ線バースト残光のミリ波・サブミリ波観測、特に偏光観測を通じて、宇宙の爆発現象における高エネルギー粒子加速の現場を調べてきました(参考リンク:[観測成果]謎の爆発現象AT2018cowの正体に、偏光観測で迫る 2019.11.18掲載、宇宙最大の爆発現象『ガンマ線バースト』の爆発エネルギーは従来予測の4倍以上と判明―世界初の電波・可視光同時偏光観測から隠れた爆発エネルギーを測定― 2022.12.9掲載)。これらの研究を通して、アルマ望遠鏡は、濃いガスや塵、磁場、コンパクトな放射領域など、可視光やX線だけでは見えにくい高エネルギー天体の隠れた構造を明らかにする能力を発揮しています。

多波長の観測画像を組み合わせた動画。光学・赤外線望遠鏡「ジェミニ北望遠鏡」で観測された銀河団をクローズアップしていくと、非常に質量の大きい楕円銀河(赤色)が見えてきます。アルマ望遠鏡は、その楕円銀河が引き起こす「重力レンズ効果」により弧状にゆがめられ、複数に分かれたはるか遠方の銀河JCMT0402-0424の姿をサブミリ波で捉えました(黄)。(クレジット:NOIRLab)

この動画についてはNOIRLabのリリース「Tracing a Neutrino Ghost to Distant “Shadow Blaster” Galaxy 」を参照。

キーワード

•IceCube(アイスキューブ): 南極の氷の奥深くに建設された1 km3の体積を持つ世界最大の「ニュートリノ観測装置」。宇宙の彼方から飛んでくる目に見えない素粒子「ニュートリノ」を捉えることで、ブラックホールや超新星爆発など、宇宙の激しい現象の謎を解き明かす鍵として期待されています。

• IC 210922A:2021年9月22日18時17分20.948秒(世界時)に、ニュートリノ観測装置 IceCube が検出した高エネルギーニュートリノ事象。宇宙起源である可能性が高い事象として世界中の望遠鏡による追跡観測の対象となりました。推定エネルギーは約750テラ電子ボルト(TeV)で、超新星1987Aから検出されたニュートリノのエネルギーと比べると、数千万倍高いエネルギーに相当します。

• マルチメッセンジャー天文学:従来から宇宙観測に使用されている電磁波(光)だけでなく、重力波や素粒子(ニュートリノ)、宇宙線など、宇宙から届く「異なる複数のメッセンジャー」を組み合わせて宇宙を研究する天文学研究の方法。

論文情報
この研究成果は、Urata et al. “Compact dusty starbursts at cosmic noon linked to high-energy neutrinos” として Nature Astronomy 誌に2026年6月17日付で掲載されました。
DOI: 10.1038/s41550-026-02884-9

研究助成
この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No. JP23K03449, JP23H04899, JP26K00733, JP26K00750)及び学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ(TI-FRIS)の支援を受けています。

関連リンク
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アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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