日本のアルマ・アンテナ、標高5000mの山頂へ一番乗り
移動日:2009年9月18日 リリース日:2009年9月23日
チリ・アタカマ砂漠で建設中のアルマ(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)は、完成に向け、さらなる一歩を踏み出しました。2009年9月18日(日本時間)、初めて、標高5,000mの建設地に、アルマで使用されるアンテナが到着しました。建設地に最初に到着したのは、日本が製造したアンテナで、直径が12m、重さは100トンあります。
アルマ計画では、使用されるアンテナや観測装置は、まず、標高2,900mにある山麓施設で組み立てや試験を行います。これは、標高5,000mの高地では、海抜0m地点と比べると、酸素濃度が半分しかなく、人間が作業するのが非常に難しいからです。山麓施設での性能試験に合格したアンテナは、移動台車を用いて標高5,000mの山頂に移動されます。最初のアンテナが到着した後、次々と性能試験をパスしたアンテナが山頂に到着し、2012年から本格運用を開始する予定です。
最先端技術を結集したアルマ(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)の最初のアンテナが、巨大な専用移動台車でチリのアンデス山脈にある標高5000メートルのチャナントール高原に移動しました。重量約100トン、直径12メートルのアンテナが到着した山頂施設(AOS)は、空気が薄く非常に乾燥した土地で、アルマ望遠鏡を使った観測には理想的な場所です。
チャナントール高原の山頂施設の気象条件は、天文学にとっては理想的ですが、人間にとっては非常に厳しい環境です。酸素量は、海抜0mの場所と比べてわずか2分の1程度で、ここでの作業は極めて困難です。このため、アルマのアンテナの組立・試験は、より標高の低い2900メートルの山麓施設(OSF)で行なわれています。この比較的作業のしやすい山麓施設を出発点として、アルマ・アンテナは高地の山頂施設へ向かいました。
アルマ・アンテナは、最先端技術を駆使して作られた世界最高性能のサブミリ波アンテナです。アンテナは、山頂施設の厳しい環境でも操作することができ、強風に耐え、摂氏マイナス20度から20度までの広い温度範囲で(日本人の髪の毛の太さの1/3の)25マイクロメートルの鏡面精度を保つことができるよう設計されています。山麓施設では、高精度アンテナの広範な評価が行なわれました。アンテナ単体での試験の他、干渉計の1素子としての試験も行なわれ、火星から受信した電波で美しいフリンジ(干渉縞)を確認することができました。次のステップは、山頂5000mの実際に観測が行なわれる場所で性能を評価することです。
東アジアのアルマプロジェクトマネージャ、井口聖は次のようにコメントしています。「ついに本日、日本のアンテナがアルマで初めて標高5000メートルの山頂施設へ移動されました。アルマは国際プロジェクトのため、文化や言語の違いによる様々な困難もありました。しかしながら、チリ現地で働く合同アルマ観測所のスタッフ、これまで必死にアンテナを評価してきた国立天文台スタッフ、そしてアンテナの技術を支えた日本のアンテナメーカーが協力することで、ここまで来ることができました。」
- 山麓から山頂へ移動中の日本のアルマ・アンテナ
- 山麓から山頂へ移動中の日本のアルマ・アンテナ。
- 標高5000メートルの山頂に到着したアンテナ。
- 標高5000メートルの山頂に到着したアンテナ。
アンテナは、2台あるALMA移動台車のうちの1台に積載され、山麓施設から山頂施設までの28キロの道のりを移動しました。移動台車は、アンテナを搭載した状態で最高時速12キロまで出すことができますが、今回はすべてのことが想定どおりに進んでいることを確認するため、約7時間かけてゆっくりと移動しました。
「チャナントール高原への我々の最初のアンテナの移動は勇壮な偉業であり、アルマのエキサイティングな瞬間です。地球規模の共同により、世界でもっとも野心的な地上天文観測施設の誕生へ日々近付きつつあります。」とアルマ観測所長のタイス・ドゥフラウは語りました。
移動台車は山頂に着くと、アンテナをコンクリート製のパッド(電力・光ファイバーが備えられる基礎)の上に運び、数ミリメートルの精度で設置されます。移動台車には、レーザー誘導システムと、最近の一部の自動車にもみられる超音波衝突防止装置も付いています。これらの検出器は、近い将来、多数のアンテナが並ぶことになる山頂施設において、移動台車が移動時に高精度アンテナに衝突しないようにするためのものです。最終的には、約200個のパッド上(最長アンテナ間距離18.5キロ)に合計66台以上のアンテナが設置され、アルマは1つの巨大な望遠鏡として運用されます。
間もなく、2台目以降のアルマアンテナも高地サイトに到着します。アルマスタッフは、チャナントール高原で最初の観測ができるのを心待ちにしています。アルマでは、2010年初めに3台のアンテナの結合、2012年にアルマ望遠鏡を使った本格科学運用を開始する予定です。
アルマ望遠鏡は、電磁波スペクトルにおいて赤外線と電波の間にあるミリ波サブミリ波で宇宙を観測します。ミリ波サブミリ波は、新たな星や惑星の誕生場所である冷たいガスや塵の雲や、宇宙の果てにある遠方銀河などから放射されます。アルマは先端技術を駆使して宇宙の未知の領域を探求します。
- 標高5000メートルの山頂に到着したアンテナ。右端はアルマ山頂施設の建物。
- 標高5000メートルの山頂に到着したアンテナ。右側はアルマ山頂施設の建物。
- 標高5000メートルの山頂に到着し、移動台車から降ろされるアンテナ
- 標高5000メートルに設置された日本のアルマ・アンテナ。関係者と記念写真。
- 標高5000メートルの山頂で夕日に照らされる日本のアルマ・アンテナ
- 標高5000メートルの山頂に設置された日本のアルマ・アンテナ
- アルマの完成予想図。移動台車を用いてアンテナの配置を変えることができます。
運用時には、研究目的に最適なアンテナの配置の時に、観測が行われます。
アルマについて
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ)は、東アジア、ヨーロッパ、北米がチリ共和国と協力して建設する国際的な天文施設であり、国立天文台(NAOJ)は、東アジアのアルマ計画の執行機関です。世界最大の天文プロジェクトであるアルマは、ミリ波サブミリ波を受信する直径12メートルと7メートルのアンテナ66台以上で構成される革新的な望遠鏡です。ALMAは2012年に本格運用を開始する予定です。
アルマに関するより詳しい情報が必要な方は、チリ・アルマのウェブサイトをご覧ください。