アルマ望遠鏡が見つけた巨大惑星系形成の現場

概要

大阪大学と茨城大学の研究者を中心とする研究チームは、アルマ望遠鏡を使った観測により、親星から遥か遠く離れた場所で惑星が誕生しつつある強い証拠を初めてとらえました。これは太陽系の形成理論の想定を塗り替える結果であり、宇宙における惑星系の多様性の起源に迫るものです。

研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、おおかみ座の方向にあるHD 142527と呼ばれる若い星を観測し、惑星の材料となる固体微粒子が星の周囲で非対称なリング状に分布している様子を確認しました。そして、固体微粒子が最も濃く集まった領域の密度を測定した結果、この場所で惑星が生成しつつある可能性が高いことが分かりました。この高密度領域は中心の親星から遠く離れており、その距離は太陽から海王星までのおよそ5倍にも相当します。これほどの遠方で惑星が形成しつつある証拠が見つかったのは、初めてのことです。研究チームは今後もアルマ望遠鏡を使ってHD 142527での惑星形成プロセスを更に詳細に調べるとともに、多くの原始惑星系円盤の観測を行い、若い星の周りでどのように惑星形成が進むかの全体像を明らかにしたいと考えています。

研究の背景

これまでに確認された太陽系外惑星の数は1000個を超え、惑星を持つ星が太陽だけでないことは今や観測事実として広く知られています。そして、それら太陽系外惑星の性質を表すキーワードが「多様性」です。太陽系の惑星とは異なり、木星のような巨大ガス惑星が水星よりも親星の近くを回る、あるいは海王星よりずっと遠くに存在する例も複数見つかっています。しかし、このように系外惑星そのものが次々と検出されていく一方で、惑星がどのように誕生するのかは、いまだ明らかになっていません。惑星形成のプロセスを解明することは現代天文学における最重要課題の一つであり、惑星誕生の現場となる若い星の周囲を調べる研究が盛んに行われています。

生まれて間もない若い星は、円盤状に分布する固体微粒子(ダスト; 注1)とガスにとり囲まれており、これを材料にして惑星ができると考えられています。最近のすばる望遠鏡による近赤外線(注2)での高解像度観測などから、円盤の構造が従来考えられていたよりもずいぶん複雑であることが分かってきました。特に、渦巻き状や溝状構造といった、惑星が原因で作られたのではないかと思える構造が多数見つかっています(注3)。しかし近赤外線では、まさに惑星が誕生しつつあるような密度の濃い領域での物質の量を正確に測ることができません。これは、大量の固体微粒子が近赤外線を吸収・散乱してしまうため、高密度領域の奥深くを調べることができないからです。そこで重要になるのが、ミリ波やサブミリ波(注4)など、電波での観測です。近赤外線より波長の長い電波は固体微粒子にさえぎられにくく、惑星誕生の現場を内部まで見通すことができるのです。つい最近までは高い解像度が得られないのが大きな問題点でしたが、アルマ望遠鏡の登場により、サブミリ波でも細かい構造を見分けられるようになりました。

アルマ望遠鏡での観測

アルマ望遠鏡を向けるべき天体として研究チームが目を付けたのは、おおかみ座の方向にある HD 142527と呼ばれる若い星でした。というのも、彼らはすばる望遠鏡を使って、この星をとり囲む円盤には星の近くと外側をへだてる溝(すきま)が存在することや、外側の円盤が奇妙な形をしていることを発見していたためです(注3)。研究チームは、アルマ望遠鏡での観測の結果、固体微粒子からのサブミリ波放射がリング状に分布している様子を確認しました(注5)。明るさの分布は一様ではなく、明るい北側と暗い南側とでは約30倍もの違いがありました。「驚くべきは、その明るさでした。」と語るのは、研究チームを率いる深川美里助教です。「サブミリ波で最も明るい領域は中心の親星から遠い場所にあり、その距離は海王星と太陽との距離のおよそ5倍にもなります。親星からこれほど離れた場所で、こんなにも明るく光る円盤は見たことがありません。明るいということは、サブミリ波を出す大量の物質がそこに集まっている、ということを意味します。十分な量の物質が寄り集まれば、惑星や彗星など、新たな天体が誕生する可能性があります。そこで私たちは、実際にどれほどの量の物質が存在するのかを調べました。」

画像1

図1:HD142527を取り巻くガスと固体微粒子の円盤。アルマ望遠鏡が観測した固体微粒子の分布を赤色、ガスの分布を緑色、すばる望遠鏡が近赤外線で観測した円盤を青色で表示している。固体微粒子が北側(画像上)に多く集まっている様子がよくわかる。円盤内の円で示した部分で特に固体微粒子が集積しており、ここで惑星が作られていると考えられる。画像下に見える青い星は、すばる望遠鏡の画像に写りこんだ背景星。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NAOJ, Fukagawa et al.
図1のラベル無しの画像 (PNG/ 101KB)

図2:アルマ望遠鏡によるHD142527の観測画像。色付けは図1と同じ。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Fukagawa et al.

サブミリ波での明るさから物質の量を計算するには、その物質の温度を知らなければなりません。研究チームは、一酸化炭素分子同位体ガスの観測により高密度領域の温度を推定し、固体微粒子の量を導出しました。その結果、2つの可能性が明らかになりました。まず、固体微粒子とガスとの質量比が一般的な宇宙空間における比と同じ(固体微粒子1に対してガス100)である場合、高密度領域は非常に重く、自分自身の重力(自己重力)で急激に周りの物質をかき集めて、木星の数倍もある巨大なガス惑星を作れるほどだということが分かりました。これは星間分子雲から星が生まれるのとよく似たプロセスですが、原始惑星系円盤の観測からその可能性がこれほど直接的に示されたのは、今回が初めてです。もうひとつは、固体の割合がガスに対して増加している場合に考えられる「ダストトラップ」(注6)の存在です。固体微粒子が局所的に濃集し、岩石惑星や彗星などの小天体、さらにはガス惑星の中心核の形成が促進されている可能性があります。つまりいずれの場合も、高密度領域の中で惑星の形成が進行中であると考えられます。

上の2つの惑星系の形成過程に関する理論的な予測については、その基礎は30年以上前から存在しています。例えば太陽系の惑星は、固体微粒子が濃集してまず惑星のもと(原始惑星)が多数でき、それらがさらに衝突合体しながら一部はガスをまとうことで形成されたと考えられています。また、宇宙の多様な惑星系の中には、自己重力による急激な成長で作られたものもあると考えられています。しかし太陽系のような惑星系を作るには、いずれの過程も、親星に近い場所(太陽系でいえば木星や土星の軌道付近)で起こるものと一般に想定されてきました。今回の結果は、この想定を覆すものです。研究チームの一員である茨城大学の百瀬宗武教授は「惑星が形成される現場を直接とらえることは、アルマ望遠鏡プロジェクトが掲げる最重要科学目標の一つです。今回の観測では、星から遠く離れた、思わぬ場所でその有力候補が見つかりました。アルマ望遠鏡は今後も私たちに多くの驚きをもたらすでしょう。」と語っています。

今回の観測成果をもとにした、HD142527のCG映像。中心で輝くHD142527のまわりをガスと固体微粒子の円盤が取り巻いている。円盤内では非常に小さな固体微粒子が飛び交っており、やがてこれらが合体して惑星のもとが作られる。
Credit: 国立天文台

今後の展望

HD 142527 における惑星形成のプロセスとして、研究チームは2つの可能性があることを突き止めました。そのどちらかに決着をつけるために重要なのは、ガスの量の測定です。研究チームでは今後も、性能の向上するアルマ望遠鏡を用いて、詳細な観測を継続する予定です。さらに深川助教は「私たちの非常に限られた知識に照らせば、HD142527は特異な天体です。しかしアルマ望遠鏡が稼働してすぐに、この天体以外にも強い非対称性を示す円盤が見つかり始めました。最終的に知りたいのは、惑星誕生をコントロールする主要な物理過程が何であるか、です。そのためには、アルマ望遠鏡で多数の原始惑星系円盤を観測し、全体像を得ることも重要です。私たちもそれに加担していければと考えています。」と述べています。

注1:固体微粒子とは、星々の間に浮かぶ、ケイ素や炭素、鉄などを含む直径0.1マイクロメートル程度の小さな粒子のことです。星間塵やダストとも呼ばれます。HD 142527 の円盤内では少なくとも 1ミリメートル程度まで成長していると考えられます。

注2:近赤外線とは、波長0.7マイクロメートルから3マイクロメートル程度の電磁波のことです。

注3:たとえば、すばる望遠鏡による観測から以下のような成果が報告されています。
『若い太陽のまわりの惑星誕生現場に見つかった巨大なすきま ~複数の惑星が誕生している現場か?~』

『すばる、新しい形の円盤を発見 ~多波長赤外線でみる惑星誕生現場の姿~』

注4:波長1ミリメートルから1センチメートルの電磁波をミリ波、波長0.1ミリメートルから1ミリメートルの電磁波をサブミリ波といいます。宇宙に存在する冷たいガスや固体微粒子からはこうしたミリ波・サブミリ波が放たれており、詳しく観測することで星や惑星の誕生の様子を調べることができます。

注5:HD 142527の円盤が明るさの非一様なリング形状(馬蹄形)をしていることは、ハワイのサブミリ波干渉計(SMA)や先行したアルマ望遠鏡の観測から知られていました。
参考:「アルマ望遠鏡が見つけた『惑星のへその緒』」
2013年1月に発表されたカサスス氏らによる上記の研究では、今回観測された円盤から内側に流れ込むガスが発見され、より内側での惑星の形成に焦点が当たっていましたが、円盤の中での惑星形成については議論されていませんでした。カサスス氏らが観測したHCO+分子では円盤の表面しか観測できず、内部まで見通せません。このため、HCO+分子が放つ電波の強度から円盤内部の温度を正確に見積もることができないので、円盤中での惑星形成を議論することが難しかったのです。今回観測された一酸化炭素の同位体が出す電波はより内部まで見通すことができ、電波強度が円盤内部の温度を反映しています。このため固体微粒子の質量を正確に求められ、その中での惑星形成の可能性についての議論が可能になりました。

注6:ダストトラップとは、固体微粒子を集め、長くそこに留めておける場所のことです。惑星が誕生するには、その最初の一歩である固体微粒子の合体・成長が効率的に行われる必要があることから、理論的に提案されました。トラップの生成理由については複数の可能性がありますが、例えば、原始星周囲の円盤に含まれるガスが渦を巻くことによって作られると考えられています。最近アルマにより、その存在が観測的に確認されました。
参考:「アルマ望遠鏡が発見した彗星のゆりかご」

論文・研究チーム

今回の研究は、Fukagawa et al. “Local Enhancement of Surface Density in the Protoplanetary Ring Surrounding HD 142527” として、2013年12月25日発行の天文学専門誌「日本天文学会欧文研究報告(Publication of the Astronomical Society of Japan)」に掲載されました。

研究チームのメンバーは、以下の通りです。
深川美里(大阪大学)、塚越崇、百瀬宗武(茨城大学)、西合一矢、大橋永芳(国立天文台)、北村良実(JAXA宇宙科学研究所)、犬塚修一郎(名古屋大学)、武藤恭之(工学院大学)、野村英子(京都大学)、竹内拓(東京工業大学)、小林浩(名古屋大学)、花輪知幸(千葉大学)、秋山永治(国立天文台)、本田充彦(神奈川大学)、藤原英明(国立天文台)、片岡章雅(総合研究大学院大学/国立天文台)、高橋実道(名古屋大学/京都大学)、芝井広(大阪大学)

この研究は科学研究費補助金・新学術領域研究『太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ』の助成を受けて実施されました。

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
上図を拡大する
アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設する国際天文施設である。ALMAの建設費は、ヨーロッパではヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、東アジアでは日本自然科学研究機構(NINS)およびその協力機関である台湾中央研究院(AS)によって、北米では米国国立科学財団(NSF)ならびにその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)によって分担される。ALMAの建設と運用は、ヨーロッパを代表するESO、東アジアを代表する日本国立天文台(NAOJ)、北米を代表する米国国立電波天文台(NRAO)が実施する(NRAOは米国北東部大学連合(AUI)によって管理される)。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とする。

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