本研究をリードしたJorge Zavala氏は「私たちは、現在知られている中で最も遠方の銀河からの微弱な信号を捉えるために、人間の目では全く何もないように見える空のある領域に対して、アルマ望遠鏡の12mアンテナを40台以上を使用して、さらにジェームズウェブ宇宙望遠鏡(JWST)を使って長時間の観測を実行しました。そして、これまで全く届かなかったような非常に遠方の、初期宇宙の生まれたての銀河の中で水素原子や酸素原子が放った輝線を捉えることに成功しました。」と語っています。これは130億光年よりもさらに先の、現在知られている中で最遠方の銀河から放たれた原子輝線の観測に成功した研究成果です。
本研究が始まったのはJWSTが最初の深宇宙撮像観測を行った2022年のことです。そこで、本研究のターゲットであるGHZ2(あるいはGLASS-z12)を含む、予想よりも多くの遠方銀河の候補が見つかってきました。
現在の銀河形成理論を検証し、銀河の初期形成過程を理解するには、このような遠方銀河候補の確認とその物理的な性質の解明が必要です。そして、そのためには、原子や分子から放たれる特徴的な輝線を分光観測で捉えなければなりません。しかし、このような観測を非常に暗い遠方銀河に対して行うことは大変でした。
本研究によるアルマ望遠鏡とJWSTを組み合わせた観測によって、このような非常に遠方の原始銀河の知られざる性質が少しずつ明らかになってきました。アルマ望遠鏡はこの銀河の中で2回電離した酸素原子が放った輝線(静止系88ミクロン)を検出し、その赤方偏移がz = 12.333であることを確認しました。これは、この銀河が、現在の宇宙年齢のたったの3 %、ビッグバンから4億年しか経っていない初期宇宙に存在していたことを意味します。つまり、この原始銀河がこれまでで最も遠い134億光年先にあることを確かめたことになります。一方で、JWSTの二つの観測装置NIRSpecとMIRIによる複数の輝線の検出により、この銀河の星形成活動がこれまでに知られていた他の遠方銀河に比べて、特に激しいことも突き止めました。さらに、その金属量(水素よりも重い元素の相対量)が、他の銀河に比べて極端に低く、太陽近傍の1/10にも満たないこともわかりました。そして、その銀河の中には普通の銀河にはあまり存在しないような若くて重くて熱い星が多いことも明らかにしました。
アルマ望遠鏡の観測からこの銀河の質量は太陽の数億倍であり、さらに驚くべきことにその質量の大半が100pc(約300光年)という狭い領域にギュッと詰まっており、まるで天の川銀河のまわりを取り囲む球状星団のようであることがわかりました。金属量、星形成活動、星密度の性質を併せて考えると、GHZ2はこれまで数十年間、その形成過程が謎であった球状星団の祖先である可能性が高くなってきました。
スウェーデン・カルマー大学のTom Bakx氏(前名古屋大学)は、「この研究成果は初期宇宙における原始銀河の研究の長き挑戦の末にようやく可能になったものです。アルマとJWSTを組み合わせることで、そこで得られる複数の輝線の情報を使って、最遠方の生まれたての銀河の性質を垣間見ることができました。」と語っています。本研究によって、初期宇宙の原始銀河の研究において、また新たな道が切り開かれました。
論文情報:
本研究成果は以下の論文に基づくものです。
– Zavala et al. “ALMA detection of [OIII] 88um at z=12.33: Exploring the Nature and Evolution of GHZ2 as a Massive Compact Stellar System”
アストロフィジカルジャーナルレターズ(2024年12月24日)
– Zavala et al. “A luminous and young galaxy at z = 12.33 revealed by a JWST/MIRI detection of Hα and [O III]”
ネイチャーアストロノミー(2024年10月30日)
– Castellano et al. “JWST NIRSpec Spectroscopy of the Remarkable Bright Galaxy GHZ2/GLASS-z12 at Redshift 12.34”
アストロフィジカルジャーナル(2024年9月3日)
– Calabro et al. “Evidence of Extreme Ionization Conditions and Low Metallicity in GHZ2/GLASS-Z12 from a Combined Analysis of NIRSpec and MIRI Observations”
アストロフィジカルジャーナル(2024年11月6日)
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。