3枚重ねのパンケーキの様な形をした原始星円盤を形成して急成長する赤ちゃん星

太陽系外惑星系形成の研究においては原始星段階での円盤は重要な役割を果たしています。中央の原始星がより進化した段階へ成長して行くことを促進するばかりでなく、円盤は原始惑星系円盤へと進化して行き、惑星形成の主な現場となっていきます。アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)の非常に高い能力(解像度、感度)のおかげで、李景輝が率いる台湾中央研究院天文及天文物理研究所のチームは、生まれて間もない原始星周辺の円盤を構成している塵の広がりを詳しく調べることに成功し、円盤の構造を明らかにしました。特に今回の観測で特筆すべきは、円盤をほぼ真横の方向(エッジオン)から観測したことに相当し、円盤の赤道面近くに生じた渦巻構造の腕の一部を明らかにしたことになります。この重要な観測によって、生まれて間もない原始星周辺における円盤形成と円盤物質が中心星に落ち込んでいくプロセスに制限を与えることができる様になります。

円盤はペルセウス座の方向で、地球から約1000光年離れたところにあるハービッグ・ハロー211原始星システムの中心に存在しています。このシステムは中心の星が生まれて間もないシステムで、重力崩壊が始まって3万5000年位しか経っていないと考えられています。図1aは、円盤を構成する塵から放出される電波をアルマ望遠鏡で検出して作成した円盤のマップになります。この図から分かることは、中心の原始星から円盤の外側まで、太陽-天王星間の距離(太陽-地球間の20倍程度)位しかなく、今回観測した円盤はとても小さな円盤であるということです。
円盤は厚みのある円盤で、まだ十分な塵が赤道面に沈殿していないことを示しています。十分な塵が赤道面に沈殿していることが、惑星形成にとって不可欠なステップとなります。興味深いことに、今回は円盤をほぼ真横から観測していることになるのですが、赤道面に沿ったかたちで3つの線状に並んだ明るい構造が示されています(図1b)。ちょうど3層に重ねられたパンケーキの様になっていますが、この様な構造は今までに観測されたことはありませんでした。これらの3層に重なっている様に見える構造は、一様に広がる円盤構造を背景にしている様に見えるので、ハイパスフィルターを図1aに適用して、コントラストを際立たせて、3層に見える構造をよりはっきりと見える様にしました。図1bの左側と右側に見える線状の構造はより温度が高い円盤の表面から放出される電波を捉えているものと考えられます。研究チームが考えた今回観測した円盤のモデルが図1cに示されていますが、円盤表面の広がった構造を示しています。より重要なのは真ん中の赤道面上の構造で、図1cで矢印で示されている円盤の回転軸に関して非対称な形をしています。(軸の上側と下側で長さが異なっています。)研究チームが考えた円盤のモデルにおける、円盤の重力によって励起された渦巻構造の腕と考えられます。より進化の進んだ段階の原始星の円盤を観測した今までの観測例では渦巻構造が形成されているものが観測されていますが、我々の今回の観測結果は、原始星に共通して渦巻構造が形成されることを支持することになります。こうした渦巻構造の腕が形成されて円盤物質が中心星へと持ち込まれ、円盤物質が中心星へと落ち込んでいくプロセスが促進されるものと考えられます。

「まだ進化の最初の段階にあるハービッグ・ハロー211の円盤を今回の観測でとらえ、円盤を構成する塵の広がりを詳しく調べることができて大変ワクワクします。今回の観測の結果から、生まれて間もない原始星周辺の円盤の姿を明らかにすることができました。今回我々がとらえることができた円盤の赤道面部分の渦巻構造の腕は、円盤物質が中心の星に落ち込み、中心星が進化して行くプロセスにおいて大変重要な意味を持つものと考えます。渦巻構造の腕が形成され、円盤物質が内側の中心星へ持ち込まれることが今までの他の研究から予測されていたからです。」この研究の筆頭著者である、李景輝は語ります。「観測された渦は塊状になっている様に見受けられますので、ここから惑星の形成が始まる可能性もあります。」

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図1. ハービッグ・ハロー211の原始星周辺の円盤(今回のアルマ望遠鏡の観測結果から作成されたマップと観測チームが考える円盤のモデル)(a)円盤を構成する塵から放出される電波をアルマ望遠鏡で観測した結果から得られた円盤のマップ。大きさの比較のために太陽系の大きさ(太陽-天王星間の範囲)も表示。(b)円盤の回転軸と垂直な方向に伸びる円盤のマップ内に現れる3本の線状の構造(図中で3本の点線で表示)、周囲のぼんやりとした部分を除いて3本の線状の構造を際立たせるためハイパスフィルターを適用。(c)今回観測された円盤を再現する円盤モデル。マップ中の左側と右側の線状の構造は円盤の上下のより温度が高くなっている表面で再現されている。一方マップ中の中央の線状の構造は円盤の赤道面に形成されたより温度の高い渦巻構造の腕で再現されている。(d)円盤モデルを円盤の回転軸方向から見た図(円盤を真上から見た図)。円盤中に形成された渦巻構造の全貌を表示。渦巻構造のより内側の部分ほどより速く回っているため渦巻構造のより外側はより内側に遅れる様にして回り、渦巻構造を形成している。

追加情報

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

論文情報

この研究成果は Chin-Fei Lee et al. “First Detection of a Linear Structure in the Midplane of the Young HH 211 Protostellar Disk: A Spiral Arm? ” として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に2023年6月27日(米国東部時間)付で掲載されました (doi: 10.3847/2041-8213/acdbca.)

この記事は、中央研究院天文及天文物理研究所が2023年7月4日に発表したプレスリリースをもとに作成しました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。

李景輝(台湾中央研究院天文及天文物理研究所、国立台湾大学)
詹凱勳(台湾中央研究院天文及天文物理研究所、国立台湾大学)
Anthony Moraghan(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)

 

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