今回観測された132億光年

視力6000で見る宇宙 【vol.2】130億光年以上先の「宇宙最初の銀河」を探す

1000億もの星が含まれる銀河が、いつ、どのように生まれたのか。これは、現代天文学に残された大きな謎のひとつです。アルマ望遠鏡は、その比類なき感度と解像度を武器に、この謎に挑んでいます。
アルマ望遠鏡は宇宙の始まりにどこまで迫れるのか、「最初の銀河」とはどんなものなのか。長年にわたり銀河の研究で活躍してきた放送大学の谷口義明教授に、アルマ望遠鏡を使った銀河誕生の研究についてお話を聞きました。
インタビュー・テキスト:中村俊宏

渦巻銀河の美しさに魅了されて天文学を志す

――谷口さんが天文学者になろうと思ったきっかけは、渦巻銀河との出会いだったと伺いました。

谷口:僕は子供のころ、蝶を捕って集めるのが好きだったのですが、それは美しいものに対する憧れだったと思います。そして中学生の時、同級生から『天文ガイド』という雑誌を借りて読んでみたら、その中に渦巻銀河の写真があったんです。「どうしてこんなに美しいものが宇宙にあるんだろう」と不思議に思いましたね。それで小さい望遠鏡を買ってもらって、高校に入ったら天文部に入って、仲間たちと星や銀河を見るようになりました。そして進学した東北大学でも、銀河の研究をしようと思ったのです。

 

――銀河には、渦巻銀河以外にどんな種類がありますか?

谷口:「渦巻銀河」は名前のとおり、渦巻き模様が見られる銀河ですね。有名なアンドロメダ銀河がそうです。私たちの天の川銀河(銀河系)も渦を巻いていると考えられていますが、銀河の中心部分に棒のような構造を持っていて、「棒渦巻銀河」という種類になります。それから「楕円銀河」は円形や楕円形をしていて、渦模様はありません。これらは円や楕円形に見えますが、実際には球をつぶしたような回転楕円体構造をしています。他にも、渦巻銀河と楕円銀河の中間のような形の「レンズ状銀河」や、決まった形を持たない「不規則銀河」などがあります。これらは銀河を形状で分類したものといえます。

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左上:渦巻銀河 Credit: 国立天文台
左下:棒渦巻銀河 Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN)
右:楕円銀河 Credit: NASA, ESA, and the Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration; Acknowledgment: M. West (ESO, Chile)

 

──その中で、渦巻銀河の美しさに特に魅了されたのですね。

谷口:でも大学で銀河のことを学ぶうちに、考えがちょっと変わってきました。確かに渦があったり、中心に棒があったりというのは、見た目は美しいのですが、銀河の性質を調べると、渦巻銀河と棒渦巻銀河はじつは変わらないんです。銀河の性質というのは、たとえばどんな星々で銀河が成り立っているか、といったことです。そうすると、渦があろうが棒があろうが、銀河の「進化」にはあまり影響を与えていないのかな、と思い始めたんです。

 

──銀河の渦巻模様は、見た目の美しさはあるけれども、銀河を研究する上ではそれほど面白くないと思われるようになった、ということですか?

谷口:ええ。ですから特異性のある銀河、例えば銀河の中で星が大量に生まれている「スターバースト銀河」とか、あるいは銀河の中心に超大質量ブラックホールがひそんでいて、そのために激しく光っている「活動銀河中心核」とか、そういったものを研究したほうが面白いのかなと思うようになりました。それで最初は、スターバースト銀河の研究を始めたんです。「スターバースト」は今では言葉として定着していますけど、僕がやり始めた頃は「何それ?」という感じだったので、肩身の狭い思いをしつつ研究していましたけどね。

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谷口義明 (放送大学・教養学部・教授)

宇宙で最初に生まれた銀河の姿を見たい!

──先ほど、銀河の「進化」という言葉が出ましたが、これはどういう意味ですか?

谷口:天文学では「誕生」と「進化」が、どの研究分野でもキーワードとなっています。銀河でいうと、銀河は宇宙138億年の歴史の中で、いつ、どうやって生まれたのか、つまり銀河の誕生の謎を解くことが目指されています。さらに、誕生した銀河がどのように進化してきたのかも、まだ解明されていません。

 

──進化という言葉は生物学の用語としてなじみ深いですが、天文学でも使うのですね。

谷口:そうです。たとえば銀河は、化学組成がどんどん変わっていきます。ビッグバンの時に宇宙に存在したのは、水素とヘリウムだけでした。我々の身体を作っている炭素や鉄などの元素は、銀河の進化の過程で恒星の内部で核融合反応によって作られて、最後に星の死によって周囲にばらまかれたり、最近話題になった中性子星の合体で作られたりして、銀河のガスの中に蓄積されてくるのです。そうした銀河の誕生と進化の過程を、天文学者は理論的に研究したり、望遠鏡を使って調べたりしています。

 

──最初の銀河は、いつごろ誕生したと考えられているのですか?

谷口:宇宙の中で最初の星(恒星)が生まれたのは、宇宙の年齢が2億歳くらいのころだと考えられています。宇宙は現在、約138億歳ですから、今から136億年前ですね。そして最初に生まれた星々が銀河の「種」になりますので、最初の銀河の誕生も同じころだと考えられています。ただし、これは理論的な話であって、まだ誰も宇宙で最初に生まれた銀河の姿を見ていません。

 

──最初の銀河の誕生の様子を望遠鏡で調べるには、どうすればいいのですか?

谷口:できるだけ遠くの銀河を観測すればいいのです。光の速度は有限(秒速約30万キロメートル)なので、遠くの天体を見ると、その天体の過去の姿が見えます。ですから、遠方の銀河を見ると、誕生して間もない頃の銀河の姿を調べることができるのです。

 

──望遠鏡は、いわば過去の宇宙の様子を見に行けるタイムマシンなのですね!

谷口:まさにそうですね。ですが、世界中のどの望遠鏡も、宇宙で最初に生まれた銀河の姿を見ることにまだ成功していません。でもアルマ望遠鏡を使えば、それができるのではないかと僕は思っています。

 

アルマ望遠鏡は遠方の銀河の塵やガスを見る

──遠くの銀河を見ることができる望遠鏡として、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡も有名だと思います。アルマ望遠鏡とは、何がちがうのでしょうか?

谷口:簡単にいうと、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡は、銀河を構成する星が放つ光を観測します。それに対して、アルマ望遠鏡は遠方の銀河の中にある塵(ちり)やガスが放つ電波を観測します。

 

──アルマ望遠鏡は星の光ではなく、塵やガスが放つ電波を見るのですね。

谷口:そうです。アルマ望遠鏡は電波の一種であるミリ波やサブミリ波を観測できますが、宇宙にはこのサブミリ波を特に強く出す銀河もあります。こうした銀河を「サブミリ波銀河」といいます。

 

──どんな特徴を持つ銀河ですか?

谷口:銀河全体が濃い塵に覆われているんです。銀河の中にある星は光を放っているのですが、塵によって全部吸収されてしまうので、光は外部に出てきません。ですから、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡では観測できないのです。ですが、光を吸収して温められた塵は、サブミリ波を放ちます。そこでこうした銀河を、サブミリ波をとらえるアルマで観測するのです。

サブミリ波銀河の想像図

サブミリ波銀河の想像図
Credit: 国立天文台

 

──サブミリ波銀河が塵で覆われているのは、なぜですか?

谷口:2つの理由があると考えられています。1つは、先ほど話した「スターバースト」によるものです。スターバーストは、太陽の10倍や50倍といった質量の、いわゆる「大質量星」と呼ばれているものが一挙にできる現象です。1万個以上できているものをスターバーストといいますが、中には大質量星が1億個ぐらい作られているとんでもない銀河があるんです。そして大質量星は寿命が短いので、数百万年から1千万年くらいで爆発(超新星爆発)を起こして、星の内部でできた物質を大量に周囲にばらまきます。これが塵の材料になります。こうして銀河があっというまに塵だらけになって、銀河の中で新たな星が生まれても、その光は覆い隠されてしまうんです。

 

──だから、塵が放つサブミリ波を観測するんですね。

谷口:正確には、塵が温められると遠赤外線を放出します。ですが宇宙膨張のために波長が引き伸ばされて(赤方偏移)、サブミリ波として観測されるのです。

 

──もう1つの理由は何ですか?

谷口:これも先ほどお話しした「活動銀河中心核」によるものです。我々の天の川銀河を含めて、多くの銀河の中心部には、太陽の数百万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールがひそんでいることがわかっています。その周囲にガスがあって、ガスがブラックホールに落ち込む時に超高温になって光るのが、活動銀河中心核です。活動銀河中心核からは強烈な紫外線が放出されますが、それが周囲にある塵を温めて、やはりサブミリ波を放つのです。

 

──遠方の銀河、つまり生まれて間もない銀河には、こうしたサブミリ波銀河が多いのですか?

谷口:そうなんです。生まれて間もない銀河は、スターバーストや活動銀河中心核によって激しい活動を行いながら、急速に進化を遂げています。そうした進化の様子を見ることは、サブミリ波が観測できるアルマ望遠鏡の得意技なのです。

遠方の銀河の中にある炭素や酸素を見つける

谷口:それから、アルマは遠方銀河の温められた塵が放つミリ波・サブミリ波だけでなく、銀河のガスの中にある酸素や炭素が放つ特有のミリ波・サブミリ波もキャッチできます。酸素や炭素は誕生直後の宇宙には存在せず、大質量星の超新星爆発などによって銀河の中にばらまかれます。ですから、酸素や炭素がいつごろからどのくらいのペースで遠方銀河の中に蓄積されてきたのかを調べられれば、宇宙の初期に銀河がどのように進化していったのかがわかるのです。

ALMA and Hubble Space Telescope views of the distant dusty galax

ハッブル宇宙望遠鏡で観測された銀河団エイベル2744。この画像の一角に、132億光年先の銀河A2744_YD4が位置しています。アルマ望遠鏡はこの銀河で、塵と酸素が放つサブミリ波を検出しました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA, ESA, ESO and D. Coe (STScI)/J. Merten (Heidelberg/Bologna)

 

──逆にいうと、酸素や炭素が存在しない遠方銀河を見つけられれば、その銀河は生まれたての銀河だといえるのですか?

谷口:そういうことになりますね。酸素や炭素が見つかれば、それは生まれてから少し時間が経った銀河、化学的に進化している銀河であるという証拠になります。
 それと、遠方銀河の中で酸素や炭素が見つかると、他にも良いことがあります。その銀河までの距離を正確に見積もることができるのです。炭素や酸素は、もともとは特有の赤外線を放ちます。それが宇宙膨張によってどのくらい引き伸ばされて、我々の元にサブミリ波として届くのか、それを調べることで、遠方銀河までの距離が測定できます。

 

──今は遠方銀河までの距離を正確に測定できていないのですか?

谷口:少し専門的な話になりますが、銀河までの距離を測る場合は、銀河の中に含まれている水素原子が放つ「ライマンアルファ線」という特有の光(紫外線)を使って調べます。でも、遠方銀河のまわりには水素原子がいっぱいあって、銀河の中から出てきたライマンアルファ線を逆に吸収してしまうために、観測しにくく、時には精度が少し怪しい場合もあります。これに対して、遠方銀河中の酸素や炭素が放つサブミリ波は何にも吸収されないので、遠方銀河までの距離を正確に求められるのです。
 

130億光年先の巨大天体・ヒミコの正体は「初代銀河」?

谷口:アルマが観測した遠方の天体で非常に面白いものに「ヒミコ」という天体があります。130億光年先にある、宇宙が8億歳のころに存在していた、巨大なガスのかたまりです。2009年にすばる望遠鏡が発見しました。大きさは約5万5000光年あって、これは同じ時期に存在した一般的な天体の10倍もの大きさがあるんです。

 

──宇宙が8億歳のころに存在していたということは、ヒミコは最初の銀河が生まれた時代(宇宙が2億歳のころ)よりもずっと後の時代の天体だということですよね?

谷口:そうです。ところが、アルマ望遠鏡でヒミコを観測してみたら、ヒミコには塵や炭素が放つサブミリ波がまったく検出されなかったんです。これは驚きでした。ヒミコの中には塵や炭素が当然あると思われていたのに、まったく見つからなかったのですから。

巨大天体ヒミコの想像図

巨大天体ヒミコの想像図。原始的なガスが渦巻く中で、3つの星の集団が作られています。
Credit: 国立天文台

 

──ということは、ヒミコは水素やヘリウムのガスだけでできた天体だということですか?

谷口:そうですね。塵や炭素を持たないヒミコは、まさに誕生しつつある「初代銀河」なのかもしれません。

 

──でも、宇宙が8億歳のころに存在していたヒミコが、塵や炭素を持っていない、つまり進化していない銀河だというのは、おかしくありませんか?

谷口:ですが、その可能性はシミュレーションの観点からも、ありえるんです。なぜかというと、宇宙には「大規模構造」といって、物質の密度の濃い部分と薄い部分との「ムラ」があるからです。宇宙の中で銀河はある時いっせいに生まれたのではなくて、水素やヘリウムのガスの密度が高い場所では早くから星や銀河が誕生して、ガスの密度が低いところではもっと遅くに星や銀河が生まれ始めたと考えられています。必ずしも全宇宙の中で最初に生まれた銀河ではなくても、塵や炭素、酸素を持っていないもの、水素やヘリウムだけの中から最初に生まれたものは、全部「初代銀河」とよんでいます。

 

──ガスの密度が低い場所にあったために、宇宙が生まれてから8億年経ってから、ようやく星が生まれてきた、まさに形成されつつある初代銀河、それがヒミコの正体だということですか?

谷口:そうです。我々はまだ、初代銀河を見たことがありませんので、本当にヒミコが初代銀河だとわかれば、世紀の大発見ですね。

 

──それを確かめる方法はありませんか?

谷口: NASAは2019年に、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機であるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を打ち上げる見込みです。ジェイムズ・ウェッブがヒミコを観測して、本当に水素やヘリウムしかない、ということを確かめれば、証明されるでしょうね。

注:アルマ望遠鏡データの新しい解析によってヒミコで炭素が放つ電波が発見された、という論文が、インタビュー後の2017年12月に発表されました。これが本当であれば、ヒミコは本当の初代銀河ではないということになります。

宇宙で最初に生まれた銀河をアルマのディープサーベイで見つける

──将来、アルマで「宇宙で最初に生まれた銀河」を見つけることはできるのでしょうか?

谷口:その可能性はじゅうぶんあると思いますよ。ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡よりも、可能性が高いくらいかもしれませんね。そのためには、宇宙のある一画を長時間見続けることで、より遠くの天体を見通す「ディープサーベイ(深宇宙探査)」が必要になります。

 

──谷口さんはこれまで、さまざまな望遠鏡でディープサーベイをされてきたんですよね?

谷口:ええ。ESA(欧州宇宙機関)が打ち上げた赤外線天文衛星や、ハワイにあるJCMT(ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡)という電波望遠鏡、そしてすばる望遠鏡などでおこなわれた、いくつものディープサーベイに参加してきました。JCMTのディープサーベイでは、世界で最初にサブミリ波銀河を発見した時のグループの一員だったんです。あの時の感動は、今でも心の中に残っていますね。

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谷口義明 (放送大学・教養学部・教授)

 

──アルマでもディープサーベイはおこなわれているんですか?

谷口:東京大学の河野孝太郎先生たちが中心になって、ディープサーベイをおこなっています。JCMTでサブミリ波銀河が1~2個見つかって、当時はそれだけでも大ニュースだったのに、アルマのディープサーベイではサブミリ波銀河がいとも簡単にザクザクと見つかっていますので、感動もひとしおですね。

 

──生まれたての銀河を探すためには、何を調べればよいのでしょうか?

谷口:先ほども説明しましたが、アルマは銀河のガスの中にある酸素や炭素が放つ特有のミリ波・サブミリ波をキャッチできます。ですから、そうしたミリ波・サブミリ波を探すディープサーベイによって、生まれたてに近い、非常に若い銀河が偶然引っかかってくるかもしれませんね。私の研究仲間の計算によれば、アルマの観測で136億光年くらい先までの銀河が見える可能性があるそうです。

 

──それは、今から136億年前の宇宙に存在した銀河、宇宙で最初の銀河ということですね。

谷口:そうです。生まれたての銀河の中で、数千個・数万個の単位で一気に星が誕生して、それが一気に超新星爆発を起こせば、宇宙誕生後2億年くらいで炭素や酸素が銀河の中に出てくるという、理論的な計算結果があるのです。

 

──アルマによる発見を、ぜひ期待したいですね!

谷口:ディープサーベイは「何が見つかるかわからない」という面白さがあって、しかも見つかるものは「人類が初めて見る新たな宇宙の姿」なんです。アルマのディープサーベイで、「宇宙の未踏の荒野」をぜひ切り開いてほしいですね。

谷口義明(放送大学・教養学部・教授)

谷口義明(放送大学・教養学部・教授)

1954年、北海道出身。理学博士。東北大学大学院理学研究科天文学専攻修了。東京大学・東京天文台(現在の国立天文台)、東京大学・天文学教育研究センター・助手、東北大学大学院天文学専攻・助教授、愛媛大学大学院理工学研究科・教授、愛媛大学・宇宙進化研究センター長を経て現職。ESAの赤外線宇宙天文台で人類初の中間赤外線帯での深宇宙探査を行い、ダストに包まれた若い銀河を多数発見。その後も、遠赤外線、サブミリ波、可視光帯で深宇宙探査を行い、遠方銀河探査で活躍。

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