アルマ望遠鏡山頂施設で、アンテナ群とともに。
Credit: 国立天文台

アルマで学ぶ①  大学院生、世界に挑む

世界最高水準の観測装置を駆使して宇宙の謎に挑む大学院生が、国立天文台には多くいます。
国立天文台は大学ではありませんが、総合研究大学院大学や東京大学などに所属する大学院生が、国立天文台に滞在して研究や勉強を行っています。アルマ望遠鏡など世界最先端の観測装置を日常的に使っている研究者、運用に密接に関わっている研究者がまわりにたくさんいることが、国立天文台で大学院生活を送るひとつの魅力です。
 
研究機関での学生生活とは、どのようなものなのでしょうか。国立天文台所属の大学院生のひとり、道山知成さんにお話を伺いました

── 現在の所属を教えてください。

道山:総合研究大学院大学(以下、総研大)の物理科学研究科 天文科学専攻、5年一貫制博士課程の4年生です(2018年2月インタビュー当時)。長いですね(笑)。ふつうの大学院は修士課程(マスター:M)の2年間、その後、博士課程(ドクター:D)の3年間、と分かれているのですが、総研大では通して5年課程になっています [1] 総合研究大学院大学は、大学院博士課程教育を専門に行う大学です。本部は神奈川県葉山町にありますが、全国のトップクラスの研究機関に所属する研究者が総研大の教員になっているため、学生はその教員が所属する研究機関に滞在して勉強と研究を行います。国立天文台には、総研大物理科学研究科天文科学専攻の大学院生がいます。博士課程5年一貫制となっていますが、2年間(修士課程相当)で卒業する場合には修士号を取得することもできます。。基本的には博士取得まで学生を続けるのが前提です。大学院でドクター取るまで研究してみたい、っていう人は進学先に考えてみてもいいんじゃないかなと思います。

 

道山さん1

総合研究大学院大学の大学院生、道山さん。
Credit: 国立天文台

 

── どのような研究をしていますか?

道山:「銀河進化学」というのですが、銀河がどのようにできて、どのように進化してきたのかを明らかにすることが究極的な目標です。その中でも、銀河どうしの衝突に注目しています。銀河の衝突は頻繁に起きていて、それを繰り返して銀河が成長してきたとは理論的には言われています。なので、それを観測で確かめたいんです。具体的には衝突している銀河の中で分子ガスがどうやって星になっていくのか、というのを調べています。

 

── その研究に、アルマ望遠鏡を使っているんですね?

道山:そうですね。分子ガスは電波を出すので、アルマ望遠鏡にはうってつけです。衝突銀河の中心部では複雑なことが起きていて、解像度が高いアルマ望遠鏡じゃないと調べられないことがたくさんあります。僕が今の研究で観測している銀河は、地球から1億光年くらいのところにあるものです。でも、衝突銀河はもっと遠くの宇宙にもたくさん存在すると考えらえていて、今後の研究では100億光年くらいのところにある銀河も観測してみたいと思っています!

ちょっと前までは、遠くの銀河といえばすばる望遠鏡のような光学赤外線観測の分野が主流だったのですが、アルマが動き始めて、電波でも面白い研究ができるようになってきました。

 

── そもそも研究テーマはどのように決めたのですか?

道山:もともとは、宇宙の果てに興味があったんです。大学は東北大に行ったのですが、そこの先生で銀河をやってる先生がいたので、銀河を選びました。大学院での実際のテーマとしては、指導教員の伊王野大介さん(国立天文台チリ観測所准教授)がテーマをいくつか挙げてくれて、その中から選びました。僕にはお気に入りの銀河があってそれを観測してるのですが(笑)、この子を紹介してくれたのも伊王野さんです。
大学院2年の4月にアルマ望遠鏡の観測提案が採択されたので、その時の観測結果を解析したりしています。

 

── 大学院生でもアルマ望遠鏡を使って研究できるのですね。

道山:はい。これは総研大にいるからこそ、です。アルマ望遠鏡は、動き始めてまだ7年の最先端の望遠鏡です。それを使いたい研究者は世界中から集まっているので、観測提案も世界中からたくさん出されます。指導教員である伊王野さんに添削してもらいながら提案書を準備するんですが、直されて真っ赤になって返ってくることも何度もありました(笑)。おかげで僕の提案が採択されたので、やっぱりこの環境じゃないと難しかったかもしれません。

 
── 普段はどのように生活していますか?

道山:大学院の最初の2年間は、授業を受けていました。「天文学概論」などの科目で、例えば「銀河進化」といった狭い専門に限らず、天文学の幅広い分野の授業があるのが総研大のいいところです。単位互換制度があるので、例えば東京大学とか、他の大学の授業を取ることもできます。僕は2年間で単位はほぼ取ったので、今は週一回ほどの総研大コロキウム以外の授業はありません。コロキウムは、大学院生が自分の研究について発表する場です。

毎週水曜日は、電波天文学を専門にする院生たちとゼミをやっています。電波干渉計のシステムを勉強するための本(”Interferometry and Synthesis in Radio Astronomy” A. R. Thompson, J. Moran, G. W. Swenson Jr., Springer)をみんなで読むゼミなのですが、これが難しくて!(笑) こんな難しい内容をやっているのはここだけじゃないかなと思っています。くじけそうにもなるんですが、伝統というか、これだけはしっかりやらなければいけないと思って取り組んでいます。このわけわかんないくらい難しい(笑)内容を読めるのも、干渉計のエキスパートがすぐそばにいるからといってもいいかもしれないですね。
 

ThompsonSeminar

干渉計ゼミのようす。
Credit: 国立天文台


 

他には最新の論文をチェックするゼミが毎日あって、研究者やポスドクの人たちといっしょに参加しています。国立天文台の談話会も、いろんな話が聞けて面白いです。

それ以外の時間は研究ですね。論文を書いたり、関係する論文を読んだり、観測データを解析したりしています。

あとは週3日、昼休みに野球をしています。国立天文台は部活が盛んで楽しいですよ。
 

野球部の活動

国立天文台野球部の活動。ふだんは国立天文台のグラウンドで汗を流し、試合にも出ます。
Credit: 国立天文台


 

── 天文学を総研大で学ぶことにした理由はどんなことですか?

道山:高校のころから天文学をやりたいと思っていて、大学は東北大に行きました。天文学を学べる大学っていうのを探したら、真っ先に出てきたのは東大と、京大と、東北大でした。東大はちょっと難しいかなって思ったのと、出身は大阪なんですけど一人暮らしがしたかったので、東北大に行きました。

大学生の時は野辺山やすばる望遠鏡の実習に参加しました [2] 国立天文台野辺山やハワイ観測所すばる望遠鏡では、学生を対象とした実習を実施している。野辺山の実習では直径45m電波望遠鏡を使用することができる。これを経験し、後に天文学者になった者は多い。。そこで観測の面白さ、観測している天文学者の熱意にふれて、天文学者は面白そうだなーと思ったのが決め手のひとつかもしれないです。

大学院を選ぶとき、僕の場合は、経済的な負担が少なく学生を続けられることを重視しました。総研大には学費免除などの経済支援もありますし、一定の条件を満たすと月8万円ほどの補助を受けることができた(准研究員制度)ので、とても助かっています。

あとは個人研究費も支給されますし、海外渡航支援もあります。初めて海外に長期滞在した際は、チリに3週間滞在しました。韓国にも行きましたし、スペインの30m望遠鏡やアメリカのVLA(Very Large Array)のサマースクールも。それからドイツとアメリカに1ヶ月半ずつ、スウェーデンにも1ヶ月滞在して共同研究をしたこともあります。最近では、台湾やベトナムでの研究会に参加してきました。

 

アルマ望遠鏡山頂施設

アルマ望遠鏡山頂施設で、アンテナ群とともに。
Credit: 国立天文台


 

── 海外経験が豊富ですね。

道山:そうですね。とても恵まれた環境だと思っています。もちろん勝手にお金が降ってくるわけじゃなくて申請して勝ち取る必要がありますが、自分で動いていけばどんどん経験できる環境なので、海外に行ったり、研究会で最先端の研究者と言葉を交わしたりするのは本当に貴重な経験です。天文学者は忙しくて研究会に参加できないことも多いから、僕の方がたくさん出れているんじゃないかな。(笑)

ただ研究費の代わりにというか、成果として論文を書かなくてはならないので、これからは論文を仕上げることになりますね。総研大の卒業要件でもあるんです。あと半年くらいで今書いている論文を提出したいと思っています。自分では年一本の論文を目標に掲げていたのですが、実際は3年に2本になっちゃうかな。

 

── 海外だと英語も必要ですよね。もともと語学は得意だったんですか?

道山:全然です!どちらかといえば不得意でした。
チリ観測所は国立天文台の中でも外国人研究者が多かったりするので、日常的に英語が飛び交っているんです。初めの頃、昼休みの雑談が英語なのを聞いてびっくりしましたよ。最近はポスドクとして海外の方が来たので、研究室ミーティングも英語で行われるようになりました。

まだ十分しゃべれるわけではないですが、だいぶ慣れてきて英語への苦手意識はなくなりましたね。それが一番よかったことかもしれません。(笑)

 

── いろいろと恵まれている総研大ですが、逆に何かデメリットはありますか?

道山:知名度が低いことですね!(笑) 
他の大学院と比べても充実した教育を受けることができるのですが、あまり知られていないんです。入学前に親を説得するのに時間がかかりました。東大や京大ならばそんな説明はいらないですよね。

僕も総研大のほかの学生たちも、実際にすごい望遠鏡を使って研究できているので、総研大やこういう学生生活をたくさんの方に知って欲しいと思っています。

 

研究の進捗を報告する道山さん

研究の進捗を報告する道山さん
Credit: 国立天文台


 

── 大学のキャンパスではなく国立天文台にいることの特長は何ですか?

道山:他の大学院と比べると、先生一人当たりの学生の数が少ないです。僕の指導教員である伊王野さんには2人の学生がいます。他の大学院だと10人を超えるところもありますから、先生一人当たりの学生が少ない環境は贅沢ですよね。チリ観測所には大学院生が全部で9人いるので、全体としてはとても活気があると思います。

指導教員に限らず、他の研究者や先輩も日常的に指導してくれます。実際にアルマを作ったり動かしたりしている技術者も近くにいます。たとえば、解析に必要なツールの使い方なんかを専門家にすぐに聞きに行ける環境は、素晴らしいです。

電波だけでなく他の分野の専門家がいることも国立天文台の魅力です。光赤外、理論、重力波と、先端の研究者が集まっているので、他分野の話もよく耳に入ってきます。僕は最近、銀河の分子ガスを観測する過程でアストロケミストリー [3] アストロケミストリーとは、宇宙における物質の化学的な側面に注目して行う天文学研究の一分野。さまざまな物質の組成や化学反応を鍵に、天体の進化や性質を調べる。にも興味がでてきたのですが、指導教員の伊王野さんはその専門家ではないんですね。なので、別の専門家が近くにいるのは心強いです。伊王野さんと一緒に勉強するっていうかたちになることもあります。

 

── 研究の面白いところを教えてください。

道山:天文学者は、「銀河はこんな風に進化しているんじゃないか」と、考えて理論研究を発展させてきました。今、アルマ望遠鏡で実際の銀河を観測できるようになると、予想外の結果がたくさん出てきています。予想とは違う観測結果に驚いたり、また新しい考えを巡らせたり、最先端の研究現場は常に動きがあって面白いです。大学院生としてその最先端の現場にいられることが、楽しいですね。

 

大学院生として国立天文台に在籍するには、以下の3通りの方法があります。

  • 総合研究大学院大学天文科学専攻に入学し、国立天文台チリ観測所の研究教育職員を指導教員とする。
  • 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻に入学し、東京大学の兼任教員となっているチリ観測所の研究教育職員を指導教員とする。
  • その他の大学院に入学し、指導教員と国立天文台の受け入れ教員との協議のもとで国立天文台の特別共同利用研究員(いわゆる受託大学院生)となる。

国立天文台チリ観測所の研究者と研究テーマ・キーワード一覧は、研究者一覧 をご覧ください。研究者に連絡を取りたい場合は、アルマ望遠鏡問い合わせフォームもご利用いただけます。

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1. 総合研究大学院大学は、大学院博士課程教育を専門に行う大学です。本部は神奈川県葉山町にありますが、全国のトップクラスの研究機関に所属する研究者が総研大の教員になっているため、学生はその教員が所属する研究機関に滞在して勉強と研究を行います。国立天文台には、総研大物理科学研究科天文科学専攻の大学院生がいます。博士課程5年一貫制となっていますが、2年間(修士課程相当)で卒業する場合には修士号を取得することもできます。
2. 国立天文台野辺山やハワイ観測所すばる望遠鏡では、学生を対象とした実習を実施している。野辺山の実習では直径45m電波望遠鏡を使用することができる。これを経験し、後に天文学者になった者は多い。
3. アストロケミストリーとは、宇宙における物質の化学的な側面に注目して行う天文学研究の一分野。さまざまな物質の組成や化学反応を鍵に、天体の進化や性質を調べる。
道山 知成 Tomonari Michiyama

道山 知成 Tomonari Michiyama

1990年生まれ。大阪府出身。総合研究大学院大学 物理科学研究科 天文学専攻4年(2018年2月当時)。国立天文台で大学院生活を送っている。専門は銀河進化学で、アルマ望遠鏡などを使って衝突銀河の観測的研究を行っている。 。

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