アルマ望遠鏡 科学観測開始10周年

10年前の2011年9月30日、アルマ望遠鏡は16台のアンテナで初期科学観測を開始しました。同年10月3日には、試験観測で得られた触角銀河(アンテナ銀河)の画像とともに観測開始のプレスリリースを行い、新しい天文学が切り開かれていくことを広く皆様にお知らせしました。
 

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アルマ望遠鏡が試験観測で取得した触角銀河(アンテナ銀河、NGC 4038/4039)。アルマ望遠鏡のデータ(赤、黄、ピンク)にハッブル宇宙望遠鏡で撮影した可視光画像(青)を合成しています。アルマ望遠鏡のデータからは、衝突するふたつの銀河の境目やそれぞれの銀河の中心部にガスがたくさん集まっていることがわかります。こうした場所では、星が活発に生まれると考えられます。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). Visible light image: the NASA/ESA Hubble Space Telescope


 

科学観測開始10周年を記念して、2021年8月末からアルマ望遠鏡の66台のアンテナに名前をつけるキャンペーンを実施しました。天体の名前と、アルマ望遠鏡の立地地域で伝統的に使われてきたクンザ語の単語で皆様からの命名提案を募集しました。趣旨に沿う命名提案は200以上寄せられ、さらにオンラインでの最終投票にかけられました。最終投票には世界中からおよそ6000人が参加し、66の名前が決定しました(アンテナ名一覧)。最終的に選ばれた名前の中には、「天の川」「むりかぶし」「へいけ(平家星)」「からすきぼし(唐鋤星)」「オロチ」と5つの日本語由来の名前も含まれています。

アルマ望遠鏡は、チリ共和国北部のアタカマ砂漠、標高5000mの高地に建設されました。合計66台のアンテナを組み合わせて一つの巨大な望遠鏡とする「電波干渉計」という仕組みを使っていますが、2011年にはすでに完成していた16台のアンテナを使って観測を開始しました。最初の年に実施する観測を募集したところ、世界中から900件を超える観測提案が集まり、世界の天文学者からの高い期待をうかがわせました。それ以来10年間、アルマ望遠鏡の観測提案は高い競争率を維持しており、毎年エキサイティングで革新的な観測提案が寄せられています。

アルマ望遠鏡は、アンテナ66台を差し渡し16kmの範囲に展開し、組み合わせて使う電波干渉計です。観測するのは、波長が数ミリメートル前後のミリ波・サブミリ波という電波です。ミリ波・サブミリ波は、宇宙に浮かぶ非常に冷たいガスや塵(ちり)から放出されます。アルマ望遠鏡は、電波干渉計の仕組みを使うことで、ハッブル宇宙望遠鏡が可視光を観測するよりもずっと良い解像度でミリ波・サブミリ波をとらえることができます。観測開始から10年を経た今も、アルマ望遠鏡はミリ波・サブミリ波を観測する望遠鏡として最大かつ最も強力な望遠鏡であり続けています。

科学観測が始まってからの最初の10年間で、世界中の研究者はアルマ望遠鏡を使ってさまざまな発見を成し遂げてきました。アルマ望遠鏡のデータを使った研究論文は、これまでにおよそ2500編が出版されています。

若い星おうし座HL星を取り巻く塵の円盤:惑星が生まれるプロセスに関する天文学者の理解を大きく書き換えました。

重力レンズ効果を受けてリング状になった遠方銀河:重力レンズで銀河が大きく拡大されたことで、遠方の銀河に含まれる星の材料を詳しく見ることができました。

若い星の周囲で、複雑な有機分子を検出:生命の材料となりうる分子がどんな環境でできるのかを探る手掛かりになります。

さらに、2019年に発表された楕円銀河M87中心の超巨大ブラックホールの画像を撮影する「イベント・ホライズン・テレスコープ」の観測にもアルマ望遠鏡は参加しました。この観測で使われた世界中の8つの望遠鏡の中で、アルマ望遠鏡は圧倒的に高い感度を持ち、この撮影に欠かせない貢献を果たしました。

アルマ望遠鏡は、これからも世界中の天文学者から寄せられる研究提案をもとにして、様々な謎に挑んでいきます。今後もアルマ望遠鏡にぜひご注目ください。

 
アルマ望遠鏡について
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院科技部(MoST)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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